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第1部 本

社会

軍民両用化する技術(大庭弘継)

『軍民両用化する技術 「デュアルユース問題」とは何か? (光文社新書)』2026/3/18
大庭 弘継 (著)


(感想)
 軍事と民生のいずれにも利用できる技術が「デュアルユース技術」で、その両用性を問題視するのが「デュアルユース問題」です。バイオテクノロジーが病気の治療に貢献する一方で、生物兵器の脅威もはらむように、宇宙、サイバー、AI、ロボット、ドローン、パソコン、ゲーム機、乗用車など、広範な領域に、その問題が潜んでいます。
 明確な解決策がない「デュアルユース問題」について深く考察している本で、主な内容は次の通りです。
序 章
第1章 宇宙技術
第2章 バイオテクノロジー
第3章 サイバー技術
第4章 AI
第5章 ロボット・ドローン
第6章 その他の技術
第7章 関連動向
終 章 考察
   *
「はじめに」によると、デュアルユース問題は、大きく次の3つの理由で、面倒なテーマになっているそうです。
1)対象領域の広さ
2)何がどう転用されるか予測困難
3)日本の学術界(アカデミア)に深く根差している軍事アレルギー
   *
 そして「序章」では……
・「デュアルユース問題を掘り進めると、「兵器の民主化」という問題に突き当たります。それは、普通の人々でも望めば、兵器を生み出し、テロを引き起こし、他国の戦争に参加でき、もしかしたら大量破壊兵器も開発できるという事態です。これは、科学技術の功罪という聞き飽きた話とは違い、私たち自身が兵器を生み出し加害者になりうるという事態です。」
・「(前略)軍事が関わろうと関わるまいと、科学技術は、善と悪の両面性を有しています。」
  *
 そしてこの問題に対して、著者の大庭さんは……
「あらかじめ筆者のスタンスをお伝えしておきます。科学技術が危害を生み出すとしても、その科学技術を禁止することは非現実的であり、反対に、すべてを「仕方ない」と放置することもまた非現実的である、と筆者は考えています。」
 ……大事なのは「そのバランスをどうとるか」なんですね。
「第1章 宇宙技術」では、GPSや通信衛星の問題だけでなく、宇宙軍や宇宙兵器についても紹介されていました。
・「2019年12月、米軍の第6の軍種として、宇宙軍(Space Force)が誕生しました。」
・「日本も2020年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊を新編しています。」
 ……宇宙軍といっても宇宙から攻撃はしてこないんでしょ、と思っていましたが……
「2010年代前半までは、「宇宙は軍事化されているが、武装化されていない」といわれていました。(中略)
 しかしここ10年ほどで、軍事化から武装化へと事態が進展したという見方が強まっています。つまり、宇宙には攻撃衛星が多数配備されていると推測されています。」
 ……えー! そうなんですか!
 宇宙から攻撃されるというよりも、GPSや気象衛星、通信衛星など、すでに社会的インフラとして重要な機能を果たしている衛星を攻撃されることの方が、危険なのかもしれません。例えば、宇宙ゴミ(デブリ)を意図的にぶつけて、衛星を破壊することが可能なのです。
・「(前略)人工衛星は、いったん打ち上げられると、ハードウェアを更新できませんし、またセキュリティの更新も通信容量の関係で難しくなります。そのため、外部からのハッキングが容易であるという弱点があります。」
・「(前略)民間のスペース・コロニーが建設されるほどに、地球は宇宙からの脅威にさらされることになります。軍隊が宇宙に兵器を配備しなくても、地球が壊滅する潜在的危険が生じてしまうのです。」
 ……宇宙防衛が必要ですね……。
 そしてやっぱり、とても恐ろしいのが「第2章 バイオテクノロジー」。
 米国で2001年の同時多発テロのあと、炭疽菌入りの封筒がテレビ局などに郵送され、最終的に5人の犠牲者を出した事件が起きましたが、それを受けて……
「(前略)2004年、米国科学アカデミー(NAS)は、「テロリズムの時代における生命工学研究(Biotechnology Research in age of Terrorism)、通称フィンク・レポートを報告しました。」
 ……フィンク・レポートの提言を受けて、バイオ・セキュリティに関する国家科学指紋委員会(NSABB)組織が創設されたそうです。
 また医療分野などで活躍しているゲノム編集技術のクリスパーは……
「(前略)ゲノム編集技術であるクリスパーは、新たな兵器への道筋を開きました。それは標的型兵器(targeted biological weapons)です。これは、標的となる個人の集団が共有する遺伝子配列を探し出して、感染する兵器です。」
 ……このクリスパーは、一般人でも簡単に利用できるキットも発売されているんですよね……ちょっと怖いです。
 また「第3章 サイバー技術」では、銀行や企業へのハッキングや脅迫、スマホアプリの悪用など(国家レベルで行われることもある)の事例が紹介されていました。サイバー攻撃で、企業のシステムが停止させられるというニュースもよく耳にします。これに対して日本では、2025年にサイバー対処能力強化法および同整備法が成立しましたが……サイバー技術もまた、仕事や生活を効率的にしてくれただけでなく、犯罪の手段にも使われているんですよね……。
 また「第4章 AI」では、能力がとても高くなった生成AIを活用して作ったディープフェイクが、重要人物の発言、テロや事件などを本物と見まがうほどの精度で捏造することが可能ということや、テロ計画にも生成AIが使えるなどの懸念の他、2022年には、製薬会社の研究者が創薬用のAIで毒物の生成を試み、わずか4時間で4万種以上の強力な毒物の組成を明らかにすることに成功したことなどが書いてありました。
「総じて、生命科学×AIは、劇的な医療革新をもたらしますが、毒物・生物兵器のコストを桁違いに引き下げるリスクをはらんでいます。ここでも、安全保障と研究の自由のバランスの問題、具体的には、どこまで公開データをモデルやオープンソースとしてよいのか、というガバナンスの問題が顕在化しているのです。」
   *
 そして「第5章 ロボット・ドローン」。2022年に始まったウクライナ戦争でも、ロシアとウクライナの双方がドローンを多用するなど、兵器として有能であることが明らかになりましたが、3Dプリンタで製造した簡易の爆撃装置を装備してミニ爆撃機にできるとか、ドローン操縦を電波で妨害するジャミングに対抗して、通信周波数が切り替わるホッピング方式が採用されるとか、光ファイバーによって有線誘導するとか、さまざまな面でどんどん進化しているようです。
 そして「終章 考察」には……
「結局のところ、デュアルユース技術を一挙に解決する特効薬、銀の弾は存在しません(No Silver Bullet)。いま取られている対策の多くが、対症療法の域を出ていないのも事実です。しかし、それでも手探りで進んでいく必要があるのでしょう。
 本書が示したように、1.軍事転用の不可避性、2.民生技術がテロの道具となり得る現実、3.兵器の民主化が進行している事実、4.犠牲が発生するという厳しい前提、これらを直視したうえで、制度を構築していくしかないのだと思います。そういった制度もまた、固定的なものではなく、時代とともに更新される必要があるので、ややこしくなりますが。
 最終的に方針を決めるのは社会、すなわち私たち自身です。」
 ……本当に、その通りだと思います。
 デュアルユースには確かにとても重要な問題がありますが、平和憲法を守っている日本だからこそ、デュアルユースを積極的に進めるべきではないか、とも考えています。というのも世界には「力による平和」(あるいは力による自分の主張の押し付け)を強要しようとする国が確かに実在していますし、それらの国から身を守るためには、少なくとも自衛のための軍事力が必要だと思うからです。また軍事力のある国と同盟関係を持つことも大事ですが、同盟関係であるということは、日本がピンチの時に守ってもらうだけでなく、同盟国がピンチの時に支援できる存在でなければならないはずで……そのためには、「デュアルユース」を利用して、軍事転用可能な技術力を磨いておくことが必要だと思うからです。
『軍民両用化する技術 「デュアルユース問題」とは何か?』……面倒だけれど、とても重要な「デュアルユース問題」について、技術的な解説や事例紹介などを通して深く考えさせてくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『軍民両用化する技術』