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第1部 本
歴史
南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス(国武貞克)
『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス 新・日本旧石器文化の成立 (朝日選書)』2025/10/10
国武 貞克 (著), 佐藤 宏之 (著)

(感想)
30 万年前にアフリカで誕生した新人ホモ・サピエンスは、本格的に拡散する後期旧石器時代以前の5 万5000 年前~3 万8000 年前には、日本列島にたどり着いていたようです。彼らはユーラシア大陸のどこを通ってやって来たのか……南回りと北回り、起源と系統が異なる両者がどう融合し、日本列島固有の後期旧石器文化が完成したのかについて、日本と中央アジアでの最新の発掘調査成果から解き明かしている本です。
「序章」によると、後期旧石器文化には、二つの全く違うタイプの石器があるのだとか。
「日本列島の後期旧石器文化を特徴づけるのは、石刃と台形様石器である。国武は石刃に着目して、日本列島におけるその起源をユーラシア大陸まで視野を広げて検討してきた。佐藤は台形様石器に初めて着目し、その成立過程を究明することで、日本列島の後期旧石器文化の構造を解明してきた。両者がこれまでに蓄積してきたユーラシア各地の広大な範囲の野外調査の成果に基づき、その見通しを合わせることで、日本列島の後期旧石器文化の成り立ちについて新たな知見が急速に得られてきたと実感している。」
彼らは日本列島には「南回りと北回り」の二つのルートで来たようで……
「レヴァントIUPの石器製作技術を携えた新人ホモ・サピエンスはアジアを東に進んだが、やがて大きな地理的障害であるチベット高原に遭遇する。新人ホモ・サピエンスはチベット高原を迂回し、北側の中央アジアから南ロシアを経てモンゴル・中国北部に至る北回りルートと、南側のインドから東南アジア・南中国に至る南回りルートに分かれて進んだ。」
……南回りと北回りがあったことは、二つの異なる石器技術でも推定されるようでした。
「第6章 日本列島における後期旧石器時代文化の成立」によると……
「(前略)香坂山遺跡には、中央アジアのIUP石器群の示準石器とされる彫器状石核が含まれるばかりではなく、その小石刃の素材生産が大型石刃の生産過程に組み込まれていた。石核素材の用い方や生産された小石刃が小石刃核に接合することから見ても、IUP石器群と同一の小石刃生産システムがあったと考えられる。」
……香坂山遺跡の石刃は「北回り」ルートの人々の技術だったと推定できるようです。でも同時代の日本列島には、他の石器文化もあって……
「その一方で、香坂山遺跡を七〇〇年程度さかのぼる三万七五〇〇年前ごろの状況といえば、三万七五〇〇年前の熊本県石の本遺跡や、三万四〇〇年前の静岡県井出丸山遺跡が出現している。両遺跡に共通して台形様石器が出土することから判断すると、すでにこのころには、日本列島において後期旧石器時代の文化が成立していたのであろう。(中略)
つまり、石の本遺跡が残された三万七五〇〇年前までには、中国北部に発展した東アジア鋸歯縁石器群が朝鮮半島を通じて九州に流入し、列島における中期以来の系譜を引く台形様石器群に影響を与えていたことが確かめるのである。」
……台形様石器技術の方は「南回り」ルートの人々の技術だったようです。そして……
「これらのことから日本列島における後期旧石器時代の石器群構造を規定する二極構造の成立過程が見えてくる。それは、およそ三万七五〇〇年前までに成立していた列島の中期以降の系譜を引く台形様石器群と、およそ三万六八〇〇年前までに流入した、ユーラシア大陸のIUP石器群の系譜を引く石刃石器群が、およそ三万五三〇〇年前までには一体化して一つの遺跡内で使用される二極構造が成立したと考えられる。
IUP石器群の系譜がもし移住を伴う伝播によって列島に到来したと考えるのであれば、異なる系譜の石器群が一体化した背景には、たとえば異なる系譜の新人ホモ・サピエンス集団による交雑を想定することもできるのではないだろうか。」
……石器の製造技術が、人々の拡散過程(道筋)を示唆してくれるんですね!
なお第7章によると、台形様石器と石刃石器は形が違うだけでなく、材質や使い方も違っていたようです。質の劣る石材で作られた台形様石器は、何度も利用することが難しく、目的を果たした後にその場に廃棄されたのですが、良質な材質の石材を長距離運搬して作られた石刃石器は、何度も繰り返し使用したのだとか。そして……
「日本列島における後期旧石器時代は、最初に、ユーラシア東部の北側で発達した東アジア型中期旧石器時代と南側の礫器・剥片石器群という二つの文化伝統を引き継いだ台形様石器の文化が列島内で出現、その直後に、ユーラシア中央部で誕生した大型石刃石器群を有するアルタイIUPに系譜をもつ大型石刃石器群が古朝鮮半島から列島に流入することでその基礎が作られ、成立した。起源と系統が異なる両者が融合して二極構造を生み出したことで、日本列島固有の後期旧石器文化が完成したと考えられる。」
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『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス 新・日本旧石器文化の成立 (朝日選書)』……石器が、日本列島への人々の拡散の道筋を教えてくれる(列島各地で由来の異なる集団がモザイク状に分布していた可能性が高い)ことに、とても興味津々でした。
それだけでなく、この推定を裏づける石器の発掘現場(日本の香坂山遺跡や中央アジア)での写真や実情なども詳しく紹介してくれます。発掘には多数の申請書類が必要だったり、中央アジアでは狼やサソリに遭遇したり……現地での発掘調査は本当に大変そうでした……こういう部分も含め、考古学に興味のある方には、とても参考になるのではないかと思います。ぜひ読んでみてください☆
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『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス』