ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

生物・進化

脳がないのにクラゲも眠る(粂和彦)

『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る (朝日選書)』2026/2/10
粂 和彦 (著)


(感想)
 睡眠はこれまで脳の休息と考えられてきましたが、脳がないクラゲも眠ることが発見されて、睡眠は脳より先に進化したと考えられるようになってきたそうです。
 生物はなぜ眠るのか? 分子生物学者の粂さんが睡眠の謎に迫っている本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 睡眠は脳より先に進化した?―次々に発見される生物たちの睡眠
第2章 睡眠研究の歴史と睡眠の意義
第3章 概日リズムの仕組み
第4章 睡眠の恒常性維持機構と概日リズム
第5章 オレキシン発見からナルコレプシーの解明へ
第6章 睡眠・覚醒制御の新しい仮説
第7章 生物の進化の歴史と睡眠の起源
第8章 睡眠・覚醒と無意識・意識との関係
おわりに
   *
「第1章 睡眠は脳より先に進化した?」によると、さまざまな生物種で「睡眠」を確認したという報告があり、哺乳類だけでなく、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、線虫、さらには脳をもたないサカナクラゲやヒドラでも睡眠状態が確認されているそうです。
 ちなみに睡眠の特性としては……
1)特に特徴的な姿勢や場所がある可逆的な行動停止
2)反応性の低下=覚醒閾値の上昇
3)睡眠恒常性による量の制御(一定量の睡眠が保たれるよう調整される)
4)概日リズムによる制御
5)中枢神経系の機能の関与(ただし例外あり)
6)生理学的、薬理学的、遺伝的な哺乳類・鳥類の睡眠との類似性
   *
 とても興味津々だったのが、線虫の睡眠に関する研究で……
「2022年には東京大学院(筑波大学兼任)の林悠教授らのチームが、線虫の頭部の神経細胞の活動を計測し、ALAという名前の神経細胞の活動が覚醒時間を計るタイマーのような役割を果たしていることを発見しました。さらに2023年に、全身の細胞に小胞体ストレスと呼ばれる不良品タンパク質がたまると、脳にSOSシグナルを送り、睡眠を促すという報告もしています。」
 ……なんと線虫でも、身体の状態が脳の睡眠制御に関与しているのかもしれません。次のようにも書いてありました。
「(前略)最近のマウスの研究で、筋肉細胞で量を変化させると、睡眠量が変化する遺伝子が報告されています。風邪をひいて熱が出たときなどは、免疫系の細胞が作り出す物質の睡眠誘導作用で、睡眠が増えることもわかっています。からだの側にも、睡眠制御を行う要因があることは不思議ではありません。」
 ……さらに中枢神経系をもたないサカナクラゲが眠っていることが報告されたことで……
「睡眠の起源は脳より古い、もっと根源的なものだということが明らかになった」
 ……そうだったんだ。
 この章では、「ショウジョウバエの睡眠遺伝子として知られる遺伝子がヒドラにもある」とか、「トカゲなどの爬虫類にもレム睡眠がある」とか、驚きの最新研究を知ることが出来ました。
 また半球睡眠をとるのはイルカだけではなく……
「(前略)水陸両方で暮らすアシカやアザラシ、オットセイ、セイウチなどの海獣類も、陸上では他の哺乳類同様、レム睡眠・ノンレム睡眠の両方を伴う睡眠ですが、水中では半球睡眠をとり、その間、レム睡眠があまりないことが知られています。」
 ……さらに超短い睡眠時間をたくさんとるヒゲペンギンについて……
「自然界で常に捕食の危険にさらされる動物の睡眠時間は一般的に短いのですが、なんと、平均4秒の超短時間のマイクロスリープを1万回行うことで1日に11時間くらいの睡眠時間を確保している動物の例が2023年にScience誌に掲載されました。」
 ……世の中には、いろんな睡眠のとり方をする生物がいるんですね!
 続く「第2章 睡眠研究の歴史と睡眠の意義」では、睡眠研究の歴史や、ノンレム睡眠・レム睡眠などの睡眠段階の他、睡眠と記憶の関係についても解説がありました。
 レム睡眠中には夢(鮮やかでドラマチックな夢)を見ると言われていますが、実は、ノンレム睡眠中も夢(動きがないぼんやりした夢)を見ることがあるそうです。
「レム睡眠は、脳は活性化しているが、脳の信号がからだに伝わらないように、出口が封鎖されている状態です。ノンレム睡眠が脳を休める睡眠で、レム睡眠はからだを休める睡眠であると言われることがありますが、結果的に筋肉の力は抜けていても、それは、夢を実行してしまうと危険なためであって、からだを休めることが目的ではないと考えられます。」
 ……なるほど! 確かにその通りですね! レム睡眠では脳幹下部の神経が、運動命令をブロックしているそうですが、それがうまくいかないと夢遊病を起こしたりするのかもしれません。
 また睡眠は学習とも関係があるようで、学習当日に断眠すると忘れてしまうという実験結果があるそうです。
「(前略)新しい知識や技法を身につけるためには、覚えたその日に6時間以上眠ることが不可欠だと考えています。」
 ……記憶の固定や強化においては、睡眠が必要不可欠なのだとか。
 この他にも、最新研究で明らかになってきた睡眠中の脳や神経伝達物質についての詳しい解説もありました。
 ちなみに睡眠覚醒を制御する脳の機構としては……
「(前略)覚醒時の意識を作り出すのは脳の外側にある大脳皮質で、ここが寝たり起きたりする脳の場所です。脳の内側の中心部にある脳幹が大脳皮質を起こす(覚醒させる)役割をします。脳幹にある覚醒中枢は覚醒物質を作り、上部の大脳皮質に届けますが、これを「上行性毛様体賦活系」と呼びます。
 この系で働く覚醒物質はドーパミン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、セロトニンなどのモノアミン類、アセチルコリン、そして、ペプチドのオレキシンです。これらの神経伝達物質が脳幹で作られ大脳皮質にばらまかれて覚醒状態を作り出します。このシグナルが来なくなると眠ってしまいます。脳幹には睡眠中枢もありますが、大脳皮質を眠らせるのではなく、覚醒中にブレーキをかけることで、間接的に睡眠を誘発します。したがって、脳幹のシグナルがなく眠っている状態が大脳皮質のデフォルト状態です。」
   *
 さらに「第7章 生物の進化の歴史と睡眠の起源」では、概日リズムは最古の生物の段階で存在したのかもしれないことが書いてありました。
「概日リズムは、より古くから存在した可能性があります。たとえば、最古の生物であるシアノバクテリアも明確な概日リズムを持ち、KaiCというたった1個のタンパク質が24時間リズムを作り出すことが知られています。」
 ……概日リズムや睡眠は、生物にとって何かとても大切な役割を果たしているのでしょう。
『脳がないのにクラゲも眠る 生物に宿された「睡眠」の謎に迫る』……最新研究をもとに睡眠の謎に迫っている本で、とても勉強になりました。睡眠については分かっていない点もまだたくさんあるようですが、今後の研究の進展にも期待したいと思います。とても面白くて勉強にもなる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
   *   *   *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

Amazon商品リンク

興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)


『脳がないのにクラゲも眠る』