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第1部 本
脳&心理&人工知能
ネズミはなぜ回し車で走るのか(中島定彦)
『ネズミはなぜ回し車で走るのか (岩波科学ライブラリー 340)』2025/12/16
中島 定彦 (著)

(感想)
楽しそうに回し車を走っているネズミは、なぜ走るのか……その素朴な疑問を、実験などを通して科学的に解明しようとしている研究について紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
まえがき
第1章 回し車で走るということ
第2章 回し車で走ると楽しい
第3章 回し車で走ると苦しい
第4章 楽しさと苦しさは、いつも隣り合わせ
第5章 走り過ぎて死んでしまう
第6章 こぼれ話いろいろ
まとめ
あとがき
文 献
*
第1章によると、回し車でネズミは、驚くほど長い距離を走っているようです。
「回し車での1日の走行量は動物種によって異なる。前述のシャーウィン博士の展望論文によれば、実験用ラットで43km、野生で捕獲したシロアシマウスで31km、集団で大移動するタビネズミ(旅鼠)と呼ばれるレミングで19km、アカギツネで17km、実験用マウスで16km、ゴールデンハムスターで9km、スナネズミで8km、イタチ科のイイズナで3.5kmにおよぶことがある。(中略)
ただし、マラソン選手のようにずっと走り続けているわけではない。観察しているとすぐにわかるが、走っては休み、休んでは走っている。」
……もちろん「同じ動物種でも系統、性別、週齢によって回し車で走る距離は異なるし、個体差もある」ようですが……。
どうやら彼らは「餌探し」のために走っているようで、「マウス、ラット、ハムスターなど夜に活動する夜行性動物は夜間、つまり暗い時間帯に走る。(しかも薄明薄暮の時間帯にたくさん走る)」のだとか。
また第2章によると、ネズミたちは「回し車で走ると楽しい」と感じているようです。人間は嬉しいと喜びの声を上げますが、ラットの歓喜の叫びは50kHzで、仲間との社会的遊びや交尾、食事時、嗜好性薬物を投与されたときに、50kHzの高さの声を上げるそうです。ラットたちは、回し車に入っている時に、この喜びの声を上げることがあるので、楽しいのだろうと推測できるのだとか。また回し車で走ることが、迷路学習の報酬にもなるそうです。
ところがなんと第3章には、「回し車で走ると苦しい」のかもしれない、と第2章とは真逆のことが書いてありました。
「レット教授らが発見した現象が奇妙なのは、前章で述べたように、回し車で走ることは快であるはずなのに、味覚嫌悪学習を引き起こすからだ。通常、味覚嫌悪学習を引き起こす実験的手続きは、嘔吐材(吐き気を催す薬)の投与や、放射線照射、動揺刺激(乗り物酔いを生じさせる)など、内臓不快感を引き起こす処置だ。」
……実はネズミたちが喜んで回し車を走っている時には、モルヒネに作用が似た脳内麻薬物質が放出されるのですが、これが「走行性味覚嫌悪学習」の原因かもしれないのだとか。
そして第5章には、さらに衝撃的な実験結果が……
「(前略)米国ノースウェスタン大学の研究者らは、摂食可能時間を30分に制限したら、ラットは回し車でひたすら走るようになり、餌を食べなくなって、最終的には死んでしまうという衝撃的な実験結果を1967年に発表した。この現象は自発的に飢餓状態に陥るという意味で「自己飢餓」と名づけられた。」
……実験で死亡したネズミを死後解剖すると、胃潰瘍ができていたことが多かったそうです。その発症メカニズムについて、カロリー消費仮説、味覚嫌悪学習仮説、脱水症状仮説、体温調節仮説などが出されましたが、どれも決め手には欠けるようでした。その他の有力な仮説としては……
1)回し車で走っていると、1日1回という給餌(餌やり)スケジュールに身体のリズムを合わせづらい
2)走ることが楽しくて、餌の魅力をあまり感じなくなってしまう。
……があるようです。個人的には、仮説1の方に説得力を感じました。
そして最終章の「まとめ」には、本書で紹介された内容の概要が、簡潔にまとめられていました。その一部を紹介すると次のような感じ。
「(前略)ネズミはなぜ回し車で走るか、それは「走ると楽しいから」だ。しかし、何かを見つけようとしているわけではなさそうだ。走ることに伴う視覚・嗅覚・聴覚の変化は重要ではなく、走りに伴う体性感覚が大事だ。肥満にならないようエネルギーを消費するために走るが、食後の腹ごなしに走るわけではなく、食事前に走る。餌を期待しているから走るのだ。恐怖ストレスを感じたときにも走る。
走りだすと、脳内に麻薬に似た物質が放出されてランナーズ・ハイになっている可能性がある。(中略)
走ると疲れや痛みだけでなく、吐き気も生じる。ただし、ネズミは吐くことができないので、胃腸の不快感はこらえるしかない。そうした苦しさに身体が適応すると、苦しさが去ったあとに快感を覚える。(中略)
回し車のあるケージでネズミを飼うときに、絶対にしてはいけないのは、餌を1日1回短時間だけ与えることだ。そうしてしまうと、ネズミは回し車で走り続け、餌の時間帯を無視するようになる。餌を食べずにやせ細り、最後には死んでしまう。
この「活動性やせ症」を防ぐためには、餌は常に食べられるようにすべきだ。(中略)部屋の温度は高いほうがよいし、乾燥した餌より湿った餌のほうがよい。ネズミが食事スケジュールに馴れてから回し車をケージに入れると発症しにくい。」
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『ネズミはなぜ回し車で走るのか』……なんとネズミは「楽しいから走っている」ようです(笑)。それを実験で確認しようとしている方法が詳しく書いてあって興味津々でした。「自己飢餓」の発症メカニズムについても、仮説を実験で確かめようとしています(こちらは未解明のようですが……)。
「回し車の中で走る」理由を、言葉では教えてくれないネズミの気持ちに、実験を通して迫っている本で、とても面白く読めました。ハムスターなどを飼っている方はもちろん、生物が好きな方も、ぜひ読んでみてください☆
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『ネズミはなぜ回し車で走るのか』