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第1部 本

脳&心理&人工知能

脳から心が生まれる秘密(津田一郎)

『脳から心が生まれる秘密』2025/9/25
津田一郎 (著)


(感想)
 脳はどう心を生み出すのか? 数学者の津田さんが、「カオス理論」で脳と心の仕組みを解き明かそうとしている本です。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「(前略)非平衡物理は絶えず変化している自然や生命活動そのものも対象にできるため、これでこの世界のいろんな真実に迫れるような予感があったのです。」
 ……津田さんは「カオス」を観測のツールとして、カオス側から脳と心を捉える研究をしているようです。
 そして「第1章 心とは何か」には、私たちが「脳」ではなく「心臓」に心があるように考えがちな理由について……
「(前略)心は脳で生まれているはずなのに、どうして脳で心を感じることがないのでしょう。その答えはきわめて単純で、心を生み出すことに関わっているニューロンそのものには感覚がないからです。
 なぜニューロン自身は何も感じないのかというと、生存のために「外界の情報を捉えて適切な判断を下す」という役割をまっとうするためでしょう。」
 ……ニューロンが痛みなどを感じてしまうと、適切な判断に支障が出てしまうので、脳のニューロンは痛みを感じないようになっているのです。
その一方で、何かに興奮すると交感神経が優位になって血管が収縮し、心臓がドキドキしてしまうので……
「(前略)私たちは、心臓を通じて脳の反応を感じているわけです。心は脳の働きと関係しているはずなのに、脳がある頭ではなく、心臓がある胸のあたりで心の動きを感じるのは、そのためなのです。(中略)
 仮に脳自身が心を感じることができたなら、人類の認識のなかで、それほど心と脳の乖離は生じていなかったかもしれません。」
 ……なるほど、確かにそうですね……。
 また「心は点のようなもの」と捉える視点も、とても面白いと感じました。
・「端的に言えば、脳は物質的なものである一方、心は物質から離れた抽象的なものであるというのが脳と心の違いでしょう。(中略)
 私が思うに、心は数学の「点」みたいなものです。
「点」は0次元です。(中略)
「点」それ自体は計測できない、定義もできないけれども、「点」が動くと定義可能・計測可能なものになる。1次元の「線」は「長さ」として計測可能であり、2次元の「面」となれば「面積」として計測可能になります。(中略)
 心もまた、それ自体を「これ」と指さし、定義することはできないけれど、思考や感情、意思や行動など、およそすべての知的営みが広がる前提となるというところで、まさに「点」と似ているのではないでしょうか。」
   *
 そして「第2章 「閉じた系」の無秩序と「開いた系」の秩序」では、脳の研究は、「ネットワークのつながりを「つながりのまま」」捉えるべきではないかと書いてありました。
「近代科学を支えてきたものに「要素還元論」と「決定論」という考え方があります。
 要素還元論とは、対象をひとつひとつの要素に分けて、それらを明らかにすることで全体を明らかにするという考え方、決定論とは、たいていの出来事は、それよりも先に起こった出来事によって決まっているという考え方です。
 しかし脳の研究には、このどちらもあまり適した考え方ではありません。(中略)
 ネットワークのつながりを「つながりのまま」捉えないと、脳の中で何がどう作用して生命の営みを、心というものを創発しているのか分からない、自然界には、要素ごとに分解してしまうと、ほとんど意味がなくなってしまうものが多くあり、その筆頭に挙がるものこそ脳なのです。」
 ……そしてそのために「カオス理論」が役に立つようです。
「(前略)私は、脳の中では何らかのカオスが働いていて、その振る舞いを解き明かすことが生命の秘密、脳の秘密、心の秘密を解く最大の鍵になるに違いないと考えたわけです。」
 ……さらに……
・「(前略)バラバラの部品を単に統合するのではなく、目的を達成するために全体から徐々に機能が分化し、相互作用するようになることで、脳は脳として機能する、そこに心の創発が伴ってくると私は考えているのです。」
・「脳はいかにして機能的になるのか。なぜ生命が、そもそも拘束条件の下で発達したり進化したりすることを選んできたのかは分かりません。ただ、少なくとも拘束条件をかけている他者の存在によって、どうやら変分的に脳の機能分化、および分化した機能を自ら組織して機能させる「自己組織化」が起こっているらしいことが分かってきました。」
・「(前略)脳という神経回路網の状態空間では、絶えず決定論的でありながら予測不能で複雑なカオス的なダイナミクスがある。そして脳には常に外界からの刺激が入ってくる。それを「ノイズ」とすると、脳というカオス的な状態空間にノイズが加わることで、「わたし」という意識や記憶、意思決定といった秩序が生まれると言えるのです。」
・「(前略)私たちが生きている自然環境というのは、まさにそういうカオス的な世界なのですね。刺激の多様さ、予測不能な変化、これらが脳の発達を可能にしているわけです。」
   *
 そして「第3章 意識とは「作用」である」では……
・「ニューロンには非常に敏感なセンサーが備わっており、外から入ってきたシグナルに反応してパルス(電気信号)を発していったん落ち着き、また別の入力に反応してパルスを発していったん落ち着き、ということを繰り返しています。
 こうした個々のニューロンの「入力→パルス」という働きが結合すると、あたかもカオス的なシグナルが発生することがあります。つまり、ニューロンのネットワークを分解せずにネットワーク全体として見ると、「ネットワークがカオス的な振る舞いを出力する」ということがありうるのではないか、という仮説が成り立つわけです。」
・「(前略)まだ学習していないものに接したときの「知らない状態」で、脳ではカオスが働く」
・「カオス遍歴とはつまり、第一にはアトラクター間をカオス的に遷移して記憶(過去に学習したこと)をサーチすることであり、そして第二には脳がカオスを使って情報を編集し、新たな学習をするプロセスを踏むことでもあると言えるでしょう。」
・「(前略)ある特定の刺激を与えると、それまで見えなかった情報がふっと表に現れてくる。それはつまり、その情報が「失われていた」のではなく、ずっとカオスの中に存在していたということなのです。」
・「(前略)直観は、カオス軌道のダイナミクスにおり、ある瞬間に、それまでまったく連想されていなかったある記憶とある記憶が結びつき、新しいアイデアが生まれることではないかと私は想像しています。」
   *
 ……など、脳と心の仕組みを「カオス理論」を駆使して解き明かそうとしています……とても参考になったのですが……私にはちょっと「カオス」だったかも……(苦笑)。
『脳から心が生まれる秘密』……1000億個もの脳細胞の集まりが心を生み出す秘密は、一見バラバラに思える細胞たちの動きの中に潜む、秩序を創り出す力にある……それを「カオス理論」で解き明かそうとしている本で、新しい視点に気づかされたような気がします。脳に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『脳から心が生まれる秘密』