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第1部 本

生物・進化

マスター・ビルダー 体は細胞が建設する(アリアス)

『マスター・ビルダー 体は細胞が建設する』2025/12/1
アルフォンソ・マルティネス・アリアス (著), 佐々木 紀子 (翻訳), 吉森 保 (監修)


(感想)
 生命は遺伝子の設計図通りに作られる――ケンブリッジ大学で長年、遺伝学を研究してきたアリアスさんは、そうした「遺伝子中心主義」に異を唱えます。なぜなら一卵性の双子でさえ指紋が違ったり、心臓が左に配置されるといった現象は、DNAだけでは説明できないから……。
 細胞こそが、環境を読み、自律的に組織を創り出す「真の建築家」であることを科学的に詳しく説明してくれる本です。
「エピローグ」に本書の主題が簡潔にまとめてあったので、少し長いですが以下に紹介します。
(現在は「遺伝子」よりも下に見られがちの「細胞」が……)
・「(前略)ようやく正しく評価されるようになったのは、ゲノムをいじらなくても実験室で細胞を誘導し胚のような構造を作れると発見されてからだ。BMPやWnt、FGF、Shhなどの細胞の言語を使うだけで細胞とコミュニケーションをとり、彼らの行動をこちらが望む方向に導くことができる。
 本当に驚かされるのは、平らな表面で培養された細胞たちが、環境によって広がったり丸くまとまったりし、場合によっては遺伝子の発現のプログラムに従って別々の運命をたどることもあるとはいえ、臓器の構築まではしないことだ。ましてや胚を作ることなどない。ところが同じ細胞を今度は3次元に配置すると、最初の数によってカオス状態か胚のような構造かが生成され、腸管や脊髄の管、心臓の心室、脳の渦巻きなど、さまざまな形状に成型できる薄い膜を織るのだ。胚に似た構造が手に入れば、同じ遺伝子を持つ細胞がなぜ異なる方法で使用し、異なる時間に異なる空間を作り出し、私たちの体を構成するさまざまな組織や器官を構築するか、わかるようになる。同じ遺伝子でも細胞の周囲の環境によって異なる結果が出る。何兆個もの細胞の相互作用とコミュニケーションから私たちは生まれる。細胞は建築家であり、建設の責任者であるマスター・ビルダーだ。」
・「胚モデルやオルガノイドのふるまいから私が確信するのは、細胞には、遺伝子が夢にも思わないような創造力があるということだ。遺伝子は転写と複製の土台となる構造を提供するが、細胞はもっと幅広い仕事をする。タンパク質に多様で複雑なはたらきをさせ、組織や器官を作り、胚にし、成熟した生物へと成長させる。」
   *
 私たちを本当につくり出しているのは、DNAではなく細胞だということで……
「(前略)細胞はただ増殖し、調節し、伝え、動き、探索するだけでなく、計算し、力や構造を感じ、形を作り、学習さえするのだ。(中略)あなたの起源は母親の子宮の中の1つの細胞にたどり着く。最初の細胞ができると、それはDNAに書かれていないことをし始める。増殖するにつれて出現する細胞がアイデンティティと役割をもって情報を交換し、互いの相対的な位置を利用して組織を構築し、臓器を形づくり、最終的には有機体全体、つまり「あなた」を生み出すのだ。」
 ……確かに。細胞の中には同じDNAがあるはずなのに、脳や心臓、皮膚で細胞の形が違うのは何故なんだろう、たった一つの受精卵から複雑な臓器をたくさん備えた人間にまで成長(変化)するのは何故なんだろう、とすごく不思議に思っていましたが、本書を読んで、その一部が理解できたような気がします。(ただ……受精卵から胎児になっていく過程も詳しく紹介されていますが、それをコントロールしているものが何かについては、まだ明確にはなっていないようでしたが……)
 また、昆虫からヒトまで、DNAのメッセージに多くの共通なものがあることも驚きでした。次のように書いてありました。
「やがてHox遺伝子群を探すために使った技術が種を超えて遺伝子探しに利用されるようになり、線虫と魚、マウスでも、ショウジョウバエの突然変異体にかかわる遺伝子が発見された。これは衝撃的だった。別々の生物の構築に関係する「言葉」が共通したのだ。脊椎動物は昆虫にない言葉も持っているが、ほとんどの部分でDNAのメッセージは、大多数の動物で同じだった。」
 ……なお、Hox遺伝子群は人間を含むすべての生物に存在し、染色体内でハエのそれと同じ順序で並んでいることが知られていて、そのパターンはゲノムの中で生物の普遍的アウトラインか地図のような役割を果たしているそうです。
 さらに、なんとヒトの遺伝子(目の部分)をハエの遺伝子の中に入れた実験によると……
「(前略)ヒトの遺伝子はハエの中でレゴブロックのピースのように適所に収まって、ハエとなるためのタンパク質群に属するタンパク質を作るのだ。」
 ……しかもヒトの目ではなく、ハエの目になったそうです。なんか凄いですね……。
 このような共通性が、医薬の進歩にも貢献していて……
「(前略)ヒトの疾病に関する遺伝子の約75%はハエにもあるため、突然変異を利用して特定のヒトの疾病を再現し、それがハエにどう影響するかを調べられる。」
 ……生物での実験がとても役に立つのは、動物だけでなく昆虫も私たちと遺伝子的に似ているからなんですね……。
 そして本書で最も興味津々だったのが、「第7章 再生」。不死性のために世界中の研究室で活用されているHela細胞の話や、幹細胞、ES細胞、iPS細胞の話に、とてもワクワクさせられました。
「幹細胞も老死するが、そのペースは非常に遅い。彼らは自身の増殖とライフサイクルを制御し、それでテロメアとミトコンドリアの若さを保っているようだ。加えて私たちが受ける継続的なダメージを回避するすべも心得ている。」
 ……この幹細胞は、私たちの腸や皮膚に多数存在していて、そのおかげで腸や皮膚、赤血球は新しい細胞と入れ替わっているそうです。なんと腸内壁は約1週間で入れ替わり、赤血球は毎日20億個も作られているのだとか。そして……
「(前略)私たちの体は概して思ったよりも若い。腸や皮膚、血液を定期的に補充するのはもちろん、骨まで10年ごとに新品になっている。脂肪細胞さえも永遠に残るわけではなく、約8年ごとに更新される。一方、多くの組織が出生後に決して再生されないことも示された。目の水晶体や心臓の細胞などだ。」
 ……腸内細菌と毎日戦っている腸壁や、紫外線にさらされている皮膚などは、どんどん新しい細胞と入れ替えられるんですね。ありがたいことです。
『マスター・ビルダー 体は細胞が建設する』……遺伝子よりも細胞こそが私たちを作っていることを教えてくれる本で、とても勉強になり、これらの細胞研究が進展することで医療技術の向上が大いに期待できそうなことにも、大いに希望を感じました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『マスター・ビルダー 体は細胞が建設する』