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第1部 本
伝記・職業紹介
深海の地図をつくる(トレザウェイ)
『深海の地図をつくる 五大洋の底をめぐる命がけの競争』2025/9/26
ローラ トレザウェイ (著), 尼丁 千津子 (翻訳)

(感想)
地球の表面積の約70%を覆っている海。その海底は、2020年代初頭までに4分の1程度しかマッピングされていなくて、しかも、そのほとんどが海岸線近くの浅い海に偏っています。
そして現在、2030年までに「全世界を網羅する完全な海底地形図」を作成するという壮大なプロジェクトが進んでいます。
この本は、「五大洋の最深部を目指す探検家」とそれを支えるマッパー(地図製作者)たちを中心に、北極圏の空白を埋めるイヌイットの猟師、メキシコ湾で潜水する考古学者、大量の水上ドローン、地形の命名と領土問題、情報を秘匿する国家、企業の採掘に抗う活動家たちなどの思惑や欲望が渦巻いている現場を、環境・海洋ジャーナリストのトレザウェイさんが活き活きと描き出している壮大な海洋ノンフィクションです。
序章
第一章 深海を目指す探検
第二章 船を探す
第三章 大西洋の最深部を目指して
第四章 マリー・サープ、そして世界を変えた地図の話
第五章 地球上で最も孤独な海
第六章 海底を命名して権利を主張するには
第七章 北極海の地図をクラウドソーシングする
第八章 海のロボット革命
第九章 埋もれた歴史
第一〇章 深海底を掘る
第一一章 深海底へ、そしてその先へ
終章
原注
推薦図書
*
「序章」によると……
「今日において最も網羅された海底地形図は、人工衛星データに基づいた予測によるものだ。それでも解像度が非常に低くて画像が粗く、あまりにも大まかであるため、海山と呼ばれている海水に完全に覆われた海底の山は、すべて隠れて見えない状態だ。一方、月、火星、金星といった天体の地形図は、地球の海底地形図よりも高解像度で作成されている。こうした問題点が見過ごされてきた結果、今日まだ地図になっていない海底の面積は、地球の全大陸の面積のほぼ倍に相当している。」
……実は、人工衛星では重力の変化を使って海面地形図を描いているので、物理的な限界から、海の深さが4000メートルを超えると描画は不鮮明になるそうで、この予測地図は現実と大きく異なっている可能性があるそうです。しかも……
「(前略)マッピングされた一五パーセントの海底の大半は、沿岸近くのものだ。各国政府は自国の領海を調査しなければならないと、国際法によって定められているからだ。一方、公海では海底地形図は断片的になる。(中略)これらの帯のような詳細な海底地形図の大半は、世界貿易の輸送量の九五パーセントを占める国際貨物輸送船の海上交通路に沿ったものか、世界のインターネット通信の九〇パーセントを担う海底ケーブルが敷設された調査済みの海底を示したものだ。」
……海はあまりにも広大だし、調査には巨額の費用がかかるので、仕方ないのかもしれません。
こんな状況の中で、富豪のヴィクター・ヴェスコヴォさんは「五大洋の各最深部に潜る」という計画を立てたのですが、五大洋の各最深部がどこかは正確にはまだ分かっていないという状況にありました。そこで最深部候補の場所を調査・マッピングしながら、最深部潜航プロジェクトを進めていくことになったのです。そして……
「(前略)何百万ドルもの見積り超過、納期遅れ、ハッチから落下した作業員からの損害請求、そして今度は、海底でのアーム紛失」
……などなどの様々な困難を克服しつつ、最終的には大西洋、太平洋、南大洋(南極周辺)、インド洋、北極海という「五大洋の各最深部に潜る」ことを成功させ、さらに「四万個の生物サンプル、約一五〇万リットル分の採水データ、五〇〇時間以上の深海の映像」といったものも探査で採集したのでした(なお太平洋に関しては、2012年、映画監督のジェームズ・キャメロンさんが、チャレンジャー海淵で単独での世界最深潜航記録を打ち立てていますが、ヴェスコヴォさんのチームは、その時よりも深い場所(最深記録は7434.6メートル)を発見して潜航しています)。
このプロジェクトも凄いのですが、ヴェスコヴォさんがこの時のマッピングデータを提供した「Seabed 2030」プロジェクトも素晴らしいのです。これは……
「二〇一七年、地球のすべての海底を網羅した地図を二〇三〇年までに完成させることを目指す、日本財団-GEBCO Seabed 2030プロジェクト(詳しくは第三章)が立ち上げられた。Seabed 2030では、世界各地から招集されたオーシャンマッパーたちが一丸となって陣頭指揮を執っていて、すでに航行中のクルーズ客船やスーパーヨットといった船舶に、クラウドソーシング(航行中の船舶が記録しているデータを集めて利用し、水深を測ること)によるマッピングの協力を依頼する計画を立てていた。さらに、プロジェクトの参加者たちは、新たな自動運転技術を活用して、海底をドローンで探査したいとも考えていた。気候変動がもたらした、互いに絡み合う一連の危機に地球全体が耐えているというこの歴史上の転換点において、Seabed 2030は、この星とそこで暮らす人々を守るために役立つ地図を完成させたいと考えていた。」
……ヴェスコヴォさんは探査中に作成されたすべての海底地図を、Seabed 2030に無償で提供するという約束を果たしてくれました。そして……
「(前略)海底地形図はマッパーの手を離れて、世界の共有財産となる。すべての人にデータポイントまで含めて無料で公開される、世界の完全なる海底地形図の一部として。」
さて、「海底マッピング」には、経済的な問題(莫大な費用が必要)があるだけでなく、環境問題(最新鋭のマルチビームソナーでの計測が生態系に与える影響など)や、政治問題があります。
「(前略)多くの国が、自国の領海での海底マッピングは本質的にはスパイ行為であり主権侵害にあたるとみなしている。」
……「五大洋の各最深部に潜る」プロジェクトやSeabed 2030は、これらの問題に対処しつつ進める必要があるのです。
それでもSeabed 2030は、とても賢い方法でプロジェクトを推進しているようでした。
・「実はSeabed 2030は、低予算で地形図を作成する手段を編み出していた。それは調査航海、海事産業、政府の水路関連機関で作成された地形図を集めるもので、これまでのところ目覚ましい成果を挙げている。」
・「Seabed 2030は、ウィキペディアの編集者たちが集合知を利用して、それを世界規模の無料オンライン百科事典に発展させているのと同じように、間違いの指摘に耳を傾け、群集の力を利用することを切望している。
間違いの大半はよくあるもので、原因を調べると人的ミスであることがわかる。だが、冷戦時代の地図検閲の名残りである意図的な事実の捻じ曲げも、時折不意に姿を見せる。」
さらに「第七章 北極海の地図をクラウドソーシングする」によると、地球上で最も急速に温暖化している地域の一つの北極圏では、浅瀬などの地形が大きく変化していて危険なので、地元の人も、専門家以外の人でも沿岸の海底地形図を作成できるような操作性の高いソナーを利用して、クラウドソーシングに参加を始めたようです。
また海底探査用のドローンや無人水上艇(USV)も導入されるかもしれません。
このように、私たちに多大な恩恵を与えてくれそうな「Seabed 2030」ですが、それが環境破壊を促進させるかもしれないとも懸念されているようです。
「第一〇章 深海底を掘る」によると……
「Seabed 2030に関して私が初めて目にした記事の一つでは、完成した地図は海底を深海底採掘の場として開放する恐れがあると、生態学者たちが警告していた。」
例えば……
「深海底採掘企業は、何十年もかけて大西洋、インド洋で鉱物資源の探査を行ってきたが、どこよりもはるかに大きな関心が寄せられているのは、太平洋のとある広大な海域だ。このクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)は、ハワイとメキシコの中間に位置する深海平原で、広さはヨーロッパにほぼ等しい。ここで採用される可能性が最も高いシナリオは、海上の船から操作される無人のマンガン団塊集鉱機が、深海の大草原を耕すというものだ。(中略)CCZの底にはマンガンノジュールが点在しており、ロンドンの石畳の通りに見えるほど密集している。マンガンを主成分とするこの団塊には、ニッケル、コバルト、銅、さらには希土類元素も含まれている。」
……このような鉱物資源を採取するために海底で大規模な採掘が行われると、そこの生態系が失われるだけでなく、堆積物プルームが環境にダメージを与えるとか、海に備わっている二酸化炭素吸収能力や炭素循環能力を損なって気候を混乱させるとか、さらには海洋バイオテクノロジー市場という、まだ完全には軌道に乗っていない深海産業を頓挫させる危険性まで指摘されていました。……うーん難しい問題ですね……でも、この「Seabed 2030」は研究開発にも大きく役立つものですし……全体としては人類に「より良い」貢献をしてくれるものではないでしょうか。
『深海の地図をつくる 五大洋の底をめぐる命がけの競争』……深海の地図を作る人々の苦闘を活き活きと描き出してくれて、とても興味津々でした。
ここで紹介した以外にも、海底遺跡が多数ある(氷河期には陸地だったのに現在は海になっている場所がある)可能性など、海底をめぐるさまざまな話をたくさん読むことができました。面白くて勉強にもなる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『深海の地図をつくる』