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第1部 本

生物・進化

動物と老いとケアのはなし(小菅正夫)

『聴診器からきこえる 動物と老いとケアのはなし』2025/5/15
小菅正夫 (著)


(感想)
 旭山動物園の園長の経験もある獣医師(現在は札幌、円山動物園参与)の小菅さんが、動物のすごさを魅せる「行動展示」など、動物園の裏側(バックヤード)について詳しく語ってくれる本で、主な内容は次の通りです。
<第1章 未来より今を生きる動物>
動物の生きる目的/生きるために食べる/食べてはいけないもの/誰の子でも自分の子/「托卵」という/命をつなげなかった反省/ゾウの群れの最小単位/ゾウの出産の砂かけ/子はかすがい/生き延びるために一夫多妻/繁栄する群れ/子だくさんとヒエラルキー/老化しないネズミ/コミュニティで育てる/無駄と遊び
<第2章 動物の老い 寿命と延命>
動物の寿命/高齢化社会/人間の余生/野生動物の認知症/動物の睡眠時間/老いと孤独/動物の最期/「死」という概念/静かに死ぬ/嫌われ者の獣医/「泣く」と「鳴く」/サケの遡上
<第3章 ケアをする動物 そして人間>
動物同士のケア/甘い関係/種を越えたケア/チンパンジーの利他行動/シカの産後ケア/障害のある動物/「異端」と「個性」/群れの中で看取り/動物園での看取りケア/「安楽殺」という選択/最高齢のカバ/自分の手の中で動物に死んでもらう/動物園の弔い
<第4章 らしさを引き出すケア>
介護する動物/笑いとケア/言葉と引き換えに失ったもの/動物園で暮らす動物のQOL/環境エンリッチメント/ヒグマに四季をつくる/飼料の栄養計算/動物に協力してもらう健康診断/動物が生き生きと暮らす環境/ボルネオの森/あえて楽をさせない/長老の知恵/?む力は生きる力そのもの/スキャフォールディング/人だけが介護をする理由
   *
 動物の生と死、出産と立ち会ううちに、小菅さんは「動物の生き方」が分かってきたそうです。それは……
「(前略)食べ物を食べて、健康に生きて、命をつなぎ、自分のDNAを次世代にバトンタッチしていくこと。それが生きる最大の目的なのだと。」
 そんな動物たちは、ほとんどが「ピンピンコロリ」を実践している……死を迎える瞬間まで平気で生きて、淡々と死んでいき、絶対に自殺をしないそうです。
「おそらく野生動物だからでしょう。野生では、痛がったりすると、弱っていることを第三者に知られることになり、それは即、外敵の格好のターゲットにされるわけですから、きっと我慢するということが遺伝子の中に組み込まれているのでしょう。」
 ……なるほど。彼らの「ピンピンコロリ」は、実は苛烈な環境下で生き残るための秘策でもあるんですね……。
 そして意外だったのが、動物の腸内環境の話。
「研究が進んで、腸内細菌をサプリメントにできたら良いなと思っています。2019年頃から環境省が取り組んでいる日本ライチョウの野生復帰では、人工孵化に成功した雛を中央アルプスに放ったものの、残念ながら定着せず全滅してしまいました。人工飼育下で育ったライチョウの腸内細菌では、ライチョウの生息環境である高山の植物に含まれる毒素を消化分解することができなかったためです。野生のライチョウは雛のときに母鳥の糞を食べることで、腸内細菌とともに寄生虫も受け継ぎ、免疫を獲得します。そのため、続けて行われた国のライチョウ復活作戦では、山で採取した糞便をフリーズドライして、動物園で繁殖を試みる小鳥の飼料に混ぜています。そのくらい、腸内細菌というのは環境の影響を受け、種の繁殖を左右する大事な鍵なのです。」
 ……飼育動物を野生に戻すのは、いろんな面で困難があるんですね。
 なお、ミャンマーから円山動物園にやってきたミャンマーゾウも、1年も経たずして、腸内細菌の組成が半分近く変わっていたそうです。
 また<第4章 らしさを引き出すケア>では、旭山動物園の意欲的な取り組み「行動展示」についても、そのバックヤードを知ることができました。
最近の動物園では旭山動物園に倣って、「環境エンリッチメント(動物たちが「幸せ」を感じて生活できる環境をつくるため、いろいろな工夫をすること)」に力を入れているところが多いですが、そのことで動物の種それぞれに備わった固有の能力が発揮され、「行動展示」できるようになっているようです……これは動物の生活も向上するし、見ている観客も楽しめる、本当に一石二鳥な良い取り組みですね!
 動物を健康に保ち、さらに繁殖させるためには……
1)食べる環境を野生下に近づける
2)冬眠する生物には、四季をつくる
 ……などの工夫が必要なのだとか。例えばゾウにあたえる餌を、砂場の下など、あちこちに隠すと、ゾウたちは餌を探して考えながら積極的に動いて食べるようになり、より健康になったようです。
 また餌を利用して「慣れさせる」ことで、動物は健康診断にも協力してくれるようになるようで、あるオランウータンは、なんと座布団を用意して歯科検診を待つようになったのだとか!(笑)……賢い動物たちにとっては、檻の中で、ただ餌の時間を待つだけの生活は退屈なだけでしょうから、健康診断も娯楽の一種になっているのかもしれません。
「動物園で動物を飼育するうえで大事なことは、動物にあまり楽をさせない、のんきにさせないということでしょう。」
 ……これは人間も同じかも?
『聴診器からきこえる 動物と老いとケアのはなし』……実を言うと「動物の老いとケア」から、人間の老化防止のヒントを得られるかもという不純な動機で読み始めた本でしたが、「のんきに食べて寝ている生活は健康に悪い」とか、「歯を使ってきちんと噛んで食べることが生きる力を高める」とか、動物の場合も、人間の老化防止と同じようなアドバイスになるんだなーということが分かりました(苦笑)。
 それでも動物園の裏話をたくさん知ることができて、興味津々で楽しめました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『動物と老いとケアのはなし』