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第1部 本

生物・進化

生き物と温度の事典(富永真琴)

『生き物と温度の事典』2025/10/24
富永 真琴 (編集), 加塩 麻紀子 (編集), 関 原明 (編集), 永島 計 (編集), 山口 良文 (編集)


(感想)
 温度は生き物にどのように影響しているの? 生き物は自分の体温をどのように調節しているの?……微生物・植物・動物・ヒトに至るまで、また細胞レベルから・個体・集団レベルに至るまで幅広いトピックスをとりあげて、見開き単位の読み切り形式で解説してくれる『生き物と温度の事典』で、主な内容は次の通りです。
第I部 温度と生命の基礎 (41項目)
温度とは(物理化学/生物学)
まわりの温度(宇宙の/地球の温度/気候・気象)
自分の温度(温度の感知・適応)
第II部 ヒト・医学 (44項目)
ヒトの体温と調節
病気としての発熱,体温計
体温調節異常(冷え性,熱中症,ホットフラッシュなど)
住環境(建築,こたつ,寝具,衣服など)
第III部 動物 (38項目)
動物の体温調節方法,温度適応方法
サーカディアンリズム
冬眠,夏眠
動物種ごと(コウモリ,クマ,霊長類,メダカ,恐竜,ラクダ,イルカ,ミツバチ,魚,ペンギンなど)
第IV部 植物 (33項目)
植物の温度適応方法
季節の温度と植物(発芽,開花,光合成,花粉飛散)
植物の高温/低温障害
地球温暖化と食糧生産
植物種ごと(コメ,麦,コーヒー,アマランサス,トマト,チューリップ,ザゼンソウ,寒締め野菜など)
コラム 24項目
トピックス 4項目
事項索引
生物名索引
   *
「第I部 温度と生命の基礎」は、温度に関するトピックスが中心です。
 例えば「伝導・対流・放射」では、高温の物体と低温の物体が存在すると、エネルギーの一部である熱が温度差に伴って移動することや、このような伝熱現象には、伝導、対流、放射の3種類があることが書いてありました。
 このうち「放射伝熱」とは……
「熱力学温度がゼロでない物体は、その内部エネルギーを電磁波の形で放出している。この電磁波は空間を伝搬し、他の物質表面に到達すると、その物質に吸収され、熱エネルギーに変換される。このような形態の熱移動を放射伝熱という。放射伝熱では、電磁波が物体を移動するため、媒体がなくても熱の移動がおこる。」
 ……熱力学温度がゼロでない物体はすべて電磁波を出しているんですね……。
 また「温度生物学」が、近年、急速に進んでいるのは……
「(前略)1997年に哺乳類で初めて温度感受性分子としてカプサイシン受容体TRPV1チャネルがクローニングされて以来、一気に研究が進んだ。皮膚表面での温度受容は点で感じることが分かっており、温点・冷点と呼ばれている。その実態は真皮および表皮に分布する分岐した神経終末であり、今日では温度感受性TRPチャネルの一群が発現した神経線維が温度受容の一端を担っていると考えられている。」
 ……カプサイシン受容体TRPV1の発見が、研究進展の大きな要因となっているようです。
 また植物も含めた生物の耐熱性を高めるのに役立っているのが、「熱ショックタンパク質(heat shock protein,HSP)」。熱ストレスによって発現量が増加するタンパク質で……
「細胞や生物体に、温和な熱ストレスの前処理を与えてから、引き続いて致死的な温度の熱ストレスを与えると前処理のないときに比べてきわめて高い熱耐性を示す。(中略)この現象は獲得性耐熱性(acquired thermotolerance)と呼ばれ、多くの生物で共通に見られる。これは、温和な熱ストレスによってHSPが誘導されるため、致死的な高温化に生物体がさらされたときに、これらのHSPが働いて細胞を守るからである。」
 ……これと同じように低温ストレス時に発現量が増加する「低温ショックタンパク質(cold shock protein,CSP)」もあるようです。
 また驚かされたのが「温度プローブ」で……
「温度生物学研究では、細胞、組織、あるいは生体内の温度の分布や時間変化の測定は欠かせない。生物試料の温度測定には、測定対象に接触させることでその温度に対応したシグナルを発する微小なセンサーである温度プローブが用いられる。」
 ……この温度プローブには、「電気計測用温度プローブ(熱抵抗型や熱電対型など)」や「蛍光性ナノ温度計」などがあるのですが、そのうち「蛍光性ナノ温度計」は……
「ある物質が光照射を受けることでその電子状態の励起が起こり基底状態から励起状態に遷移し、次いで励起状態から基底状態への生活遷移に伴って起こる発光過程で、蛍光はその代表的なものである。(中略)蛍光性ナノ温度計はサイズがnm程度と非常に小さいため、細胞内小器官等のμm以下の微小な領域に到達することが可能であり、プローブ自体が持つ熱容量も小さいため、1細胞レベルでの低侵襲な温度測定に適している。また、生命科学研究でよく用いられる蛍光顕微鏡や蛍光分光光度計で蛍光性ナノ温度計の蛍光が測定可能である。」
 ……この極小の温度計のおかげで細胞内の温度まで測ることができるようで、細胞内局所の温度変化が、その場の生体分子の状態や活性に影響することで細胞機能に貢献しているらしいことが分かってきているようです。また神経分化時に、転写、翻訳などの細胞内反応由来の発熱による細胞内の温度分布の変化が、神経突起伸長を駆動していることも明らかになってきたのだとか……なんか、凄いですね。
「第II部 ヒト・医学」のトピック2「創傷治癒の先端部は温度が高い」では……
「細胞が傷つくと、修復する機能が人体には備わっている。その過程では、破壊された組織を片付ける貪食細胞の分子シグナルで線維芽細胞が呼び寄せられ、線維芽細胞が産生する足場タンパク質上に再生組織が構築されていく。」とありました。
 これには「細胞は温度の高いところへ移動する」性質があることが関係しているようで、破壊された組織の成分から連鎖的に多くの生化学反応が生じた結果発熱することで、線維芽細胞が呼び寄せられて増殖していく(→治癒していく)ようでした。
「第III部 動物」では、クマムシの驚異の極限環境耐性と温度適応に驚かされました。
「(前略)クマムシは陸生(terrestrial)のものも含めすべてが水生(aquatic)であり、普段は表面張力で薄い水の層をまとって活動しているが、陸生種の多くは周囲の環境の乾燥に伴いほぼ完全に脱水し、無代謝の休眠状態である「乾眠(anhydrobiosis)」に入ることが可能である。乾眠状態は体内の水分量が2%程度に低下しており、溶媒である水が存在しないため、代謝は完全に停止している。この乾眠状態では宇宙真空への直接曝露を含めさまざまな極限状態に耐性を持ち、吸水によって速やかに活動を再開できる。」
 ……無敵の「乾眠」状態から、吸水だけで速やかに活動を再開できるなんて……本当にSFみたいな生物ですね!
 この他、「第IV部 植物」では、植物の温度適応方法についても学ぶことができました。植物にも高温馴化や冷温馴化があるようです。
『生き物と温度の事典』……温度と生命との関係を総合的に学べる事典で、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。ただ……内容がとても充実しているせいか、価格がなんと12000円+税もするので、購入する方はお気をつけください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『生き物と温度の事典』