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第1部 本
天文・宇宙・時空
月と地球の進化論(Boyle)
『月と地球の進化論』2025/11/5
大森充香 (翻訳), Rebecca Boyle (著)

(感想)
月の重力は地球の軌道と気候を安定させているだけでなく、原始の海の表面に栄養分を引き寄せ、そこで複雑な生命の進化を育んだそうです。月の持つ美しさ、文明や歴史的出来事に多大な影響を与えてきた満ち欠けの重要性など、科学と文化史を通して、月が生物学的・文化的進化に果たした役割を、総合的に解き明かしている本です。
冒頭には、本書の内容と関わっている写真やイラストがまとめて掲載されていました。2022年のNASAのアルテミス1号ミッションで撮影された月の裏側の写真や、世界最古の太陰暦として知られるスコットランドの遺跡の写真、ガリレオが描いた月のクレーターなどのイラストなど、興味深い貴重な写真やイラストに目を奪われました。
その中に「月の誕生にまつわる4つの説」もあったので、以下にその一部を紹介します(本書ではイラストで解説されています)。
1)ジャイアントインパクト説(巨大衝突説):1970年代に提唱された古典的な説。ティアと呼ばれる火星サイズの岩石が原始地球に衝突し、それにより生じた破片が円盤を形成し、やがて合体して月になったとする。しかし最近の研究で矛盾が明らかになった。この衝突をコンピュータシミュレーションで解析すると、月の大半はティア由来の物質でできていることになるが、月の地球化学の研究によれば、月は地球と似た物質でできているという。
2)シネスティア説:原始地球に衝突したティアは、おそらく両天体を蒸発させるのに十分なエネルギーを持っていて、シネスティアと呼ばれる新しい宇宙構造を形成したとする。
3)ムーンレット説(小惑星説):一度の巨大衝突ではなく、おそらく多くの小さな衝突が月をつくったとする。
4)双子説:おそらく最も単純な説で、ティアが原始地球と同じ種類の物質でできていたとする。しかし、この可能性には、惑星系の形成について我々が知っていることの多くに矛盾するという問題がある。
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この中の「1)ジャイアントインパクト説」が、現在、最も有力な説ですが、2001年の分析で、月岩石の酸素同位体が地球岩石の酸素同位体と区別がつかないことが判明し、地球と月を構成する岩石は、まったく同じ材料で、まったく同じ時期に形成されたことが強く示唆され、ジャイアントインパクト説では説明がつかない状態になっているようでした……月の誕生については、まだまだ謎が残っているんですね……。
またアポロ11号で月から採取された岩石を調べると、月の塵(レゴリス)はすべて岩石が砕けて小さくなったもので、水や風が存在しないので角が丸くならずトゲトゲしているとか、その43%が酸素で着火すると爆発しやすいなど、地球の岩石とは少し違った特徴を持っていることも知りました。
個人的に本書のなかで一番興味津々だったのは、月の潮汐作用。月による潮汐作用で、地球の自転がゆっくりと、ほんの少しずつ遅くなっているそうです。他にも、次のことなどが書いてありました。
・「(前略)月は厳密には地球の重心を中心に回転しているのではなく、むしろ、地球と月は互いに共通重心の周りを回っている。(中略)この関係によって、潮汐は、地球の最も月に近い側と月から最も遠い側の両方に膨らみをもたらす。引力は地球と月の両方に働くが、それと同時に、両天体は共通重心を中心に回るときの慣性力によって引き離されもしているからだ。」
・「地球が自転すると、そのエネルギーの一部は潮汐摩擦を伴って海水の膨らみを生じさせる。地球の自転速度は月の公転速度よりも早いため、地球での満潮は月の真下よりも先のほうで起こる。
そのため、海水の膨らみは月よりもやや前方で生じる。そして重力やほかの力を含む複雑な相互作用によって、この海水の移動はエネルギーを月に伝達して、より高い軌道へと押し上げている。その結果、2つのことが起こる。月は遠ざかり、地球の自転速度は速くなる。」
・「月は長い間地球の傾きを緩やかに保っているが、地球の地軸をわずかにではあるがぐらつかせている。それは月と太陽によって引き起こされる潮汐力によるものである。」
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また月による強い潮汐作用が地球の原始の海を攪拌し、生命を誕生させた可能性があるなど、「生命の起源」には、月が重要な役割を果たしていたのかもしれません。
「原始地球の広大で荒れ狂う海の中では、アミノ酸という繊細な鎖が結びついて生命を形づくることは難しく、たとえ結びついたところで、そこが真っ暗な深海であっても砂浜であっても、そう長く持ちこたえることはできなかっただろう。しかし、塩だまりは違った。それらに安息の地を与えたのだ。月が頭上に昇るたびに、?油の潮だまりは温かくてしょっぱい水で満たされる。そして、塩が引けば干上がり、水は再び満ち、そんなサイクルが繰り返された。水和と脱水和のサイクルは、重合と呼ばれるプロセスによって、より大きくより複雑な分子をつくり出す。」
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最初の生命が生まれた後も、潮の満ち引きのおかげで……
「(前略)私たちの知る限り、魚が水から出て恐竜やゾウ、人間などの地上を歩く脊椎動物へと進化したのは一度きりである。陸へ上がった魚たちは、おそらく潮の流れに乗ってやってきたのだろう。つまり、魚類の祖先を陸に引き上げたのも月だったのだ。」
……植物も同じようにして、潮の満ち引きで陸に打ち上げられたのでしょう。
さらに月は、いろんな意味で、地球自体を守ってくれているようです。月がなければ、木星の重力干渉によって地球が大幅にぐらついてしまうそうです。
「地球の地軸もぐらつくが、それほど大きくはない。月に守られて、何百万年ものあいだ驚くほど安定している。過去1000万年のあいだに、地球の地軸の傾きはわずか2度しか変化していないのである。」
……そして気候に関しても……
「(前略)明白なのは、地球の気候を安定させる月がなかったら、地球の気候変動はもっと極端なものになっていただろうということだ。」
……月は地球を守り、地球の生命を育んでくれているんですね。本当に女神さまのようです……。
でも残念ながら、この女神さまは地球から少しずつ離れていっています……。
「約20億年後には、人類はもはや存在しなくなるだろう。その頃には、月が地球の傾きを安定させるには遠く離れすぎている。地球の地軸は太陽に向けて傾き、ラスカールが予言した不安定な地獄の世界が現実となるのである。地球の気候は例によって激しく変化するだろう。地球の潮の満ち引きは弱まり、岩石の伸び縮み(月の影響によりかかる地球内部へのストレスと緊張)も弱まるだろう。もし生命が何らかの形で存在しているならば、月がゆっくりと後退していくことは、生命の存続にかかわる脅威となる可能性が高い。」
……こんな感じで、本書の前半では、月に関する科学的な解説がとても勉強になりました。
そして後半は、月と人類の文化的・歴史的・精神的関わりに関する内容になり、「日々形が変化する月」が私たちに暦(太陰暦)を与えてくれたことや、望遠鏡で月を観測したガリレオなどの天文学者が、近代科学への道を拓くことになったことなどが紹介されていきます。
『月と地球の進化論』……月が地球へ与える影響や、生命の進化や人類の文化への影響など、さまざまな情報を総合的に語ってくれる本で、とても読み応えがありました。月や宇宙が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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『月と地球の進化論』