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第1部 本
自己啓発・その他
生命と時間のあいだ(福岡伸一)
『生命と時間のあいだ』2025/7/30
福岡 伸一 (著)
(感想)
壊しながら保たれる「いのち」の循環を表現し、動的平衡の新たな境地へ……ダ・ヴィンチ、ダーウィン、ガリレオ・ガリレイ、フェルメール、坂本龍一、手塚治虫、村上春樹、安部公房、丸谷才一……彼らの作品に立ち上がる時間の流れを捉えて、生物学者の福岡さんが、時間について深く考察している本です。
冒頭の「生命にとって時間とは何か」には、近代科学や西洋哲学的な考え方につながるミンコフスキー的時間解釈について、次のように書いてありました。
・「(前略)ミンコフスキー的時間解釈とは、時間を空間の中で幾何学的に位置づけて、そこに時刻という点の直線移動を考える時間の解釈、つまり空間の中を運動する点として時間を考える。時間の空間化ということである。」
・「このように時間を、現在という名の時刻の点の集合と考えると、結局、私たちはゼノンのパラドクスから逃れることが出来ない。飛んでいる矢は、極小の時刻の点で観察すると極小の速度(つまり速度ゼロ)を持つことになるから、その場所で止まっていることになる。」
そして続く「私の時間論」では……
・「時間について、なんとか、ミンコフスキー的解釈(時間の空間化)を脱して、時間を別の視点から捉え直すことはできないかという問題を長年考えている。」
・「客観的な“時間”は実在しない。均一に、一秒一秒、線形に経過していく“時間”とは、ヒトの脳が作り出した人工的な虚構にすぎない。もちろん、形あるものが壊れ、熱が拡散し、ゴミが散らばる、という意味での、ものごとの流転はある。しかしここにあるのは“時間”ではなく、エントロピー増大でしかない。エントロピー増大は時間の関数ではない。エントロピーの増大をどう感じるかは、受け取る者の感覚に依存する。さらにいえば、この流転を感じ取れるのは、私たち生命体が、エントロピー増大の法則に抗いながら、生命活動を行っているからだ。つまり、生命が存在するゆえに、“時間”感覚が生まれる。ゆえにそれは極めて可変・相対的なものだ。」
*
……この本はダ・ヴィンチさんやガリレオ・ガリレイさん、坂本龍一さん、手塚治虫さんなどの作品や考え方を通して、福岡さんの時間に関する考えが語られていくので、とても興味津々でした。
なかでも「シュレーディンガーの猫の話の先」では、量子力学の確立に大きく寄与した物理学者のシュレーディンガーさんの『生命とは何か』の話がとても面白かったので、以下に紹介します。
著書の『生命とは何か』で彼は、「われわれの身体は原子にくらべて、なぜ、そんなに大きくなければならないのでしょう?」という問いを発しています。その答えとして……
「(前略)生命現象に参加する粒子が少なければ、平均的なふるまいから外れる粒子の寄与、つまり誤差率が高くなる。粒子の数が増えれば増えるほど、誤差率を急激に低下させうる。生命現象に必要な秩序の精度を上げるためにこそ、「原子はそんなに小さい」、つまり「生物者こんなに大きい」必要があるのだ。実際の生命現象では、百万どころかその何億倍もの原子と分子が参画している。」
……なるほど。こういう視点で「生命」について考えたことがなかったので、とても新鮮でした。
シュレーディンガーさんは「生命とはエントロピーの増大の法則に抗することのできる存在である」と語っていますが、これは現在の「動的平衡」という概念につながっているそうです。
「(前略)生命においては、新しい創造に先行して、常に破壊が行われている。破壊と創造は、分解と合成と言い換えても良い。細胞は常に壊され、新しい細胞が生み出される。(中略)破壊と創造のバランス、分解と合成の均衡の上に生命は成り立っている。これが動的平衡である。
そして、重要なことは、細胞やタンパク質が壊されるのは、古くなったから、使えなくなったから、壊され、捨てられているのではない、ということだ。(中略)なぜだろうか。エントロピー増大の法則に先回りして、それを追い越すためである。エントロピー増大の法則が、細胞やタンパク質の秩序を無秩序に変える前に、率先して、積極的に、あえて壊しているのである。このことによって、常にエントロピーを外に汲み出しているのだ。破壊が創造に先行すること、創造的破壊ではなく、破壊的創造が優先されることが動的平衡の本質であり、生命が、エントロピー増大の坂を登り返すための「努力」なのである。」
……生命が行っていることは、このエントロピーの矢をある瞬間、ほんの少しだけ追い抜いて、破壊と分解を先回りしていることなのだとか。そして、この先回りで生まれる余裕こそが……
「(前略)生命にとっての“時間”ということであり、生命が、時の経過を知覚できるのは、このようにして汲み出されたものを、生きている実感として感じているからではないかと考えている。」
……そして「あとがき」には……
「(前略)生命にとって時間とは、時計が刻む時間とは全く別の、相対的で極めて主観的な感覚なのである。ニュートン的な意味の、物理的に等速で進む時間など実在しない。そんなふうに主張する科学者もいるほどだ。
この本は、相対的で、極めて主観的な生命の時間感覚について、数々の作家や思想家、学者や芸術家が語った書物の中で、特に私に強い印象を残してくれた物語を選んで、そこに展開されている時間論を考えてみたものである。」
*
『生命と時間のあいだ』……生物学者の福岡さんが、「生命」と「時間」について、さまざまな観点から深く考察している本で、とても参考になり、また深く考えさせられました。
文章がとても明快で読みやすく、読み進めていくうちに、心が整えられていくような気持ちになりました。エッセイ集のような構成になっているので、隙間時間にパラパラ読むこともできます。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『生命と時間のあいだ』