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第1部 本
生物・進化
となりのクリハラリス(田村典子)
『となりのクリハラリス: たくましい開拓者から学ぶこと』2025/8/27
田村 典子 (著)

(感想)
海を越えてやってきた小さなクリハラリス……かつて愛玩動物として日本に持ち込まれ、その後、野生動物としてたくましく暮らすようになったかれらは、どんな動物なのか? リスの生態や行動をテーマに、永年にわたりクリハラリスを追い続けた研究者の田村さんが、野生動物との共存への道も語ってくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 クリハラリスとは
1 どんな生きものなのか?/2 どういう生活をしているのか?/3 外来種としてのクリハラリス/4 クリハラリスはどこにいる?
第2章 リスが見ている色の世界
1 哺乳類の色覚/2 カラフルなリス/3 リスは色を識別できるか?/4 リスの食物と果実の色
第3章 リスが聞く音の世界
1 にぎやかなリス/2 リスの方言/3 地域差の意味/4 ささやくリス/5 リスと森の音
第4章 リスが感じる匂いと味覚の世界
1 捕食者と匂い/2 餌と匂い/3 食べるべきか食べざるべきか/4 遺存種ニホンリス
第5章 リスと人間
1 リスがすむ町/2 東京のリス/3 町のリスの暮らし/4 リスとの付き合い方
第6章 たくましいクリハラリス
1 日本に定着したクリハラリス/2 神奈川県のクリハラリス/3 市民とクリハラリス/4 捕獲現場での葛藤/5 たくましいクリハラリス
第7章 クリハラリスの今後
1 分布拡大の制限要因/2 日本で共存の道は?/3 前例から学ぶ/4 ニホンリスとクリハラリス/クリハラリスから学ぶこと
おわりに/引用文献
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「第1章 クリハラリスとは」によると、クリハラリスの俗称はタイワンリスだそうです。そしてリスについては、次のように書いてありました。
・「リス類の社会構造はしばしば食物の量や分布で説明される(中略)。利用できる食物の幅が広ければ、食物を探し回るための行動圏は狭くてすむ。限られた食物に依存する場合は、その現存量に合わせて行動圏のサイズは決まる。一般的には、食物メニューが多い種に比べて、少ない種では大きな行動圏が必要になるはずだ。また、食物が均一に分布する場合には、その資源を防衛するなわばり制が進化する可能性がある。」
・「日本の本州や四国の温帯林から冷温帯林に生息するニホンリスは、食物として利用する種数が限られ、とくにオニグルミやマツ類の種子に強く依存する。」
・「クリハラリスはニホンリスよりも雑食性の傾向が強いため、クリハラリスの行動範囲は冷温帯にすむリスに比べて狭い傾向がある。」
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そしてクリハラリスの生態系への影響は把握しにくいそうで……
「(前略)自然環境やそこに生息する動物の個体数はクリハラリスの生息以外にも多様な要因で変動する。そのうえ、生物どうしはたがいに密接に関わり合っているため、直接的な影響だけではなく間接的な影響も考慮しなくてはならない。クリハラリスの生息がどれだけ周囲の生物に影響を与えているのか、正確には把握しにくいのである。」
……確かにそうですね。
「2章 リスが見ている色の世界」では、夜行性のリスは二色型色覚のようで、リスが食べる果実は、紫や黒っぽい果実が多いそうです。それに対してサルなどの霊長類は三色型色覚なので、同じ森林のなかでも、大きさ、形態、視覚が異なる動物分類群ごとに、異なるタイプの食物を利用して「すみわけ」をしているのかもしれません。
「第3章 リスが聞く音の世界」では、「クリハラリスはとてもにぎやかな動物」ということを知りました。キキッキキッキキッ……と大きな声で一時間近く鳴き続けるそうです。この「キキッキキッキキッ」は警戒音だそうですが、相手がヘビの場合は「チー・チー」という高い声を出して周囲のクリハラリスを集めて集団攻撃、上空からの猛禽類に対しては「ガッ」という大声を一声(周囲のクリハラリスは静止)、そして「コキコキコキ」は挨拶や求愛音声なのだとか……。リスがそんなにうるさい生き物だとは知りませんでしたが、「日本におけるクリハラリスの個体数がもっとも多く、生息域がもっとも広いのは神奈川県」のようで、神奈川県民は、それをよく知っているそうです。ちなみに日本固有種のニホンリスは、ささやき声しか出さないそうですが……(静かなリスもいるんですね)。
「第4章 リスが感じる匂いと味覚の世界」では、リスの「貯食について」……
「(前略)基本的には自分が貯食した場所を記憶して種子を回収しているのだが、補助的には種子の匂いも手がかりにしている可能性もある。野外のリスは他個体が貯食した種子も可能ならば盗んで利用する。匂いか記憶どちらかということではなく、状況に合わせて両者をうまく組み合わせて、貯食物を回収しているようだ。」
……リスは記憶力がとても良いことが、実験でも明らかになっていました。
「第5章 リスと人間」では、リスが人間環境に適応していることが書いてありました。
・「(前略)小型の哺乳類は小さな隙間や狭い場所を隠れ家にできるし、生存に必要な食物量も少なくてすむ。なによりも人間との軋轢が少ないことで共存が可能である。リス類は都市化に順応する可能性のある限られた哺乳類なのである。世界各地で町の公園や緑地にリスがいることがそのことを物語っている。」
……ただしリスへの給餌には問題が多いようで、伝染病問題だけでなく、人間への攻撃行動もあるようです。それだけでなく、リス自身に対しても、栄養劣化、運動不足、交通事故などの問題があるのだとか。そのため……
「(前略)まずは野生動物と適切な距離を保つことは、人間が健康に生きていくために不可欠な常識といえる。」
……なるほど……。
さて、クリハラリスは二〇二四年現在、一四都道府県で、一九カ所で野生化しています(クリハラリス定着の最北地点は、栃木県真岡市)。過去には城の公園などで、意図的に放獣されたこともあるようですが、二〇〇五年の外来生物法の施行により、クリハラリスを含む五種のリス類が特定外来生物に指定されました。(他の四種はフィンレイソンリス、キタリス(エゾリスを除く)、トウブハイイロリス、タイリクモモンガ(エゾモモンガを除く))。神奈川県も、二〇二四年に防除実施計画を作成しています。
「第6章 たくましいクリハラリス」によると、熊本県宇土半島で、農林業被害を拡大させないために、クリハラリスの捕獲が開始された結果……
「(前略)二〇二四年現在、根絶の見込みが高まっている。この間、およそ一億円の税金が使われ、六〇〇〇体を超えるクリハラリスが捕獲された(中略)。巨額と思われるかもしれないが、この金額は長引く多くの外来生物対策予算のなかでは、格段に安く、効率的な防除が行われたことを示している。クリハラリスを放置した場合、今後生じ続けるであろう九州各地の農産物被害額やそれに対する防除費用を想像すれば、早期に根絶へ持ち込んだ意義がわかるだろう。」
……クリハラリスは、島の場合は必ずしも根絶を目指さず、農林業・生活被害防止が優先されているようですが、本土地域の場合は、個体数がおおむね一万頭未満であれば、根絶可能性が高いので根絶が優先。それより多くなってしまった場合は、根絶が困難なので、分布拡大を抑え封じ込めを目標にしているようです。
とても可愛いクリハラリスですが……
「(前略)クリハラリスの野生化が確認されたならば、できるだけ早く捕獲してしまうことが、クリハラリスもほかの生物も犠牲を最小限にするために最善の方法である。」
……というのも捕獲作業が長引くほど、必要経費はふくれ上がり、多額な税金をつぎこまなければならない事態になるから……可愛いリスでさえ、ただ愛でるだけではいけないことに、ちょっと複雑な気持ちになってしまいました……野生動物との付き合い方は難しいですね……。
『となりのクリハラリス: たくましい開拓者から学ぶこと』……愛玩動物として日本に持ち込まれ、野生動物としてたくましく暮らすようになったクリハラリスについて、その生態や人間との関係を詳しく教えてくれる本でした。とても勉強になり、また考えさせられる本でもあったので、生き物が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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『となりのクリハラリス』