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第1部 本

生物・進化

動物たちのインターネット(ヴィケルスキ)

『動物たちのインターネット 生きものたちの知られざる知性と驚異のネットワーク』2025/9/17
マーティン・ヴィケルスキ (著), プレシ 南日子 (翻訳), 佐藤 克文 (解説)


(感想)
 野生動物に超小型の無線タグを装着し、国際宇宙ステーション(ISS)からその動きを追跡することで、鳥、アザラシ、キツネ、サメ、ゾウ、トンボに至るさまざまな生きものたちの生態をリアルタイムで「可視化」する壮大な構想……そのビジョンが、動物追跡技術「ICARUS(宇宙を利用した動物研究のための国際協力)」プロジェクトになるまで、現場で経験した笑いと涙のエピソードの数々や、その結果導き出された深い洞察を詳しく紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
キース・ギャディスによる序文
序章:アシカのベビー・カルーソ
第1章 大草原から宇宙へ、そしてまた大草原へ
第2章 鳥の情報ハイウェイ
第3章 小さなカマドムシクイから教わったこと
第4章 初期の追跡調査
第5章 カウボーイのような歩き方になったわけ
第6章 私たちのスプートニク的瞬間
第7章 知っているようで知らないネズミたち
第8章 イカロスへ続く長い道のり
第9章 ヨーロッパへ戻って
第10章 誰が主体か?
第11章 ICARUSの設計が始まる
第12章 野外で動物にタグを付ける
第13章 打ち上げに近づく
第14章 待ちに待った打ち上げ
第15章 タグ開発の険しい道のり
第16章 システムの明暗
第17章 遊ぶ動物たち
第18章 プーチンのウクライナ侵攻
第19章 アリストテレスからフンボルトにいたる宇宙の概念
第20章 地震予知をするウシ、ベルタ
第21章 動物たちのインターネット
終章:さらに速く、さらに遠くまで飛ぶICARUS
あとがき:明るい未来への展望
解説 佐藤克文
『動物たちのインターネット』というタイトルだったので、動物たちが交わしている会話に関する研究についての話なのだろうと思っていたのですが、ほとんどは動物追跡技術「ICARUS(宇宙を利用した動物研究のための国際協力)」の開発に関する苦労話でした。
 それでも動物たちの会話に関する話題ももちろんあって、「第2章 鳥の情報ハイウェイ」には、次のように書いてあります。
・「夜空で甲高い鳴き声をあげながら絶え間なくコミュニケーションしている様子から、鳥たちは、渡りをするという習性が生まれつき遺伝子に組み込まれてはいるものの、それだけではなく、渡りのあいだお互いに情報交換もしていることがわかった。」
・「(前略)いまでは鳥たちが会話をし、どの高度で、どの方向に飛ぶか相談していることがわかっている。個々の鳥はほかの鳥と交流することで、非常に長い年月のあいだに何十億羽もの鳥たちが蓄えた共通の知識を活用できるようになるのだ。」
   *
 ……この鳥たちの行動の初期の調査には、ヴィケルスキさんたちが鳥に小さな発信機をつけて、それを車で追いかけるという技術が使われています。ヴィケルスキさんたちは、なんとスプートニク打ち上げの日に、自作のスプートニク用の受信機で、電波を受信することに成功していて、鳥の研究にはそれを応用しているのです。
 ヴィケルスキさんたちはこの初期の研究を発展させて、「動物たちのインターネット」を構築することを思いつきます。
「(前略)大まかにいって、私たちが求めていたのは、情報を提供したり、保存したり、共有したり、アーカイブしたりできる、動物たちのインターネットだった。」
 ……そして人工衛星を使って通信できないかと考えるようになり、「ICARUS(宇宙を利用した動物研究のための国際協力)」へ向けて動き出しました。
「第11章 ICARUSの設計が始まる」では、宇宙アンテナをソユーズのカプセルに搭載する時の苦労が語られています。ロシアとドイツのエンジニアのシステム構築への考え方の根本的な違いや、ソユーズのカプセル内の空間的制約など、多くの問題はありましたが、最初のシステムは無事稼働しました。
「第15章 タグ開発の険しい道のり」によると、動物につけるタグの開発もまた大変な困難の連続だったようです。
「誰もがICARUSプロジェクトというパズルにおいて最も革新的で難しいピースは衛星だと思っていたが、実のところ最大の難関は、実際に宇宙にある受信機と地上にある発信機、つまりタグをリンクさせる最善の方法を見つけだすことだった。小型で強力な発信機を搭載した野生動物用の本物のウェアラブル機器をつくりたければ、それに合わせて受信機を設計する必要があり、発信機も受信機に合わせる必要があった。(中略)しかし、何より重要なのは動物が装着した状態でタグがうまく機能することだ。タグによって、それを装着している動物の生活が妨げられてはならない。」
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 ……タグに要求されるさまざまな課題をなんとか解決し、ICARUSシステムは……
「ICARUSシステムは稼働から1年後の2021年3月21日にやっと予定どおり機能した。世界各地の研究者たちとつながり、すべての種類の動物たちにタグを付けおわったのだ。(中略)
 4月21日以降、すばらしいデータが届くようになった。」
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 ところがロシアが、映画撮影のために無断でISSを回転するなどして衛星を動かしたことで、ICARUSタグからの信号を受信できなくなる(しかもそのためにタグは衛星を探して貴重なエネルギーを消耗させてしまった)などの問題が起こっただけでなく、なんと2022年には、ロシアのウクライナ侵攻が始まってしまいます。そのため……
「ドイツ航空宇宙センターは慎重ながらきっぱりと、ドイツとロシア2国間の宇宙ステーションプロジェクトは継続できないと宣言し、私たちはその指導に従った。」
 ……こうしてISSに搭載されたICARUSは過去のものとなってしまったのでした(涙)。
「私たちはこの失敗から、ロシアのエンジニアとは二度と共同研究を行うべきではないと確信した。そして、イカロスの性能やさらに新しいテクノロジー、自分たちで全面的にコントロールできる小型衛星などの宇宙アセットに集中する必要があった。そうすれば、動物たちを戦争犯罪の隠れみのに使われる心配もなくなる。(中略)
 現在、私たちはICARUS CubeSatの工学設計に取り組んでいる。2024年後半に打ち上げる予定で、ついに自分たちでコントロールできるシステムが手に入る。」
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 ……ICARUSは素晴らしいプロジェクトなので、新しいICARUSシステムの開発ができて本当に良かったと思います。「第19章 アリストテレスからフンボルトにいたる宇宙の概念」には、次のように書いてありました。
「(前略)動物たちの持つ自然の知能、つまり地球上で最も知的なセンサー同士の集団的相互作用は、少なくとも局地的レベルにおいて、自然災害の予知に役立つ最も重要な早期警戒システムといえるかもしれない。
 ICARUSの利点は、こうした種類の動物の行動を地球のどこにいてもリアルタイムで測定できることだ。私たちはどの瞬間でも、動物たちをチェックし、何を感じているか確認できる。そしてもし集団の動物たちが全員異変に気づき、危険や脅威を感じていたら、これはまさに私たち人間が直感的に第六感として受け入れているものである。一連の知的センサーをつなぎあわせるとそれが可能になる。すばらしいのは、こうしたセンサーをつなげたあとの行動をとらえ、物理と化学の法則に従って定量化することができる。つまり、行動を分析し、今後何が起きるか予知するために利用できることだ。」
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 そして「終章:さらに速く、さらに遠くまで飛ぶICARUS」には……
・「新しいICARUS受信機をCubeSatと呼ばれる超小型人工衛星に載せて飛ばすことになった。ICARUSは初めて北極圏と南極圏を含む地球全体をカバーできるようになるのだ。おかげで地球上のどこにいる鳥やコウモリ、海洋爬虫類、陸生哺乳動物でも見つけられる。最初のテスト段階で下準備をしたあと、2024年秋には新しいCubeSatを利用した運用システムがデータの収集を始める。
 戦争のせいで再設計を強いられたわけだが、その際に私たちは最新の技術革新の恩恵を受けることができた。すべての辺が10センチメートルの立方体で重さは2キログラムの新しいICARUSシステムは、国際宇宙ステーションに載せた先代のICARUSよりも小型で効率が良く、強力になった。」
・「ICARUSのホストであるCubeSatはISSなどの多くの衛星と同じように地球低軌道を回る。比較的地球に近いこの高度なら、CubeSatは1日に15回地球を回ることができる。つまり、地球上のあらゆる場所をカバーできるということだ。」
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 ……2基目のICARUS CubeSat受信機を2025年に、3基目を2026年に打ち上げる計画が進んでいるそうです。新しいICARUSは、世界中の研究者の協力のもと、成果を上げつつあるようです。今後の研究にも期待したいと思います。
『動物たちのインターネット 生きものたちの知られざる知性と驚異のネットワーク』……人口衛星と地上の巨大アンテナ、そして無数の小さなタグを使った動物追跡システムの構築にまつわる知恵と工夫、そして動物たちの生態について詳しく紹介してくれる本で、とても興味津々でした。冒頭にはICARUSのタグをつけた動物たちや、タグを取り付けている様子などのカラー写真も4ページあります。
ヴィケルスキさんたちの大変な苦労があったおかげで、今後、動物の生態や地球環境についての新しい知見がたくさん得られることでしょう。面白くて勉強にもなる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『動物たちのインターネット』