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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

世界の河川 地球科学大図鑑(ベスト)

『世界の河川 地球科学大図鑑』2025/7/23
ジム・ベスト (著), 藤岡 換太郎 (監修), 中川 泉 (翻訳)


(感想)
 私たちの暮らしと多様な生態系を支える河川・河口・三角州のすべてが分かる、世界中の河川に関するあらゆる情報が詰まった本で、地図、衛星写真、図解イラストなども豊富に掲載されています。主な内容は次の通りです。
1. 河川、河口、三角州の世界
2. 河川のしくみ
3. 河川の構造
4. 河川の生態系と生物多様性
5. 河川と人類
6. 河口のしくみ
7. 河口の構造
8. 河口の生態系と生物多様性
9. 河口と人類
10. 三角州のしくみ
11. 三角州の構造
12. 三角州の生態系と生物多様性
13. 三角州と人類
14. 未来の河川、河口、三角州

 とてもサイズが大きくて、美術カタログのような上質な紙を使ったハードカバーの本なので、机の上に乗せて読みました(苦笑)。大型の美しい写真はとても圧巻で、冒頭近くの「マダガスカル島のツィリビヒナ川が、モザンビーク海峡に大量の土砂を注いで三角州を形成させている写真」には度肝を抜かれました。茶色い大河が大量の土砂を海に垂れ流しています……こうやって三角州はできるんですね……。
 この本は川について総合的に解説してくれるので、各テーマそれぞれが参考になるのですが、その中で、最も気になった「三角州の老化」について以下に紹介します。
「11. 三角州の構造」には次のように書いてありました。
・「どの三角州にもライフサイクルがある。新たな河川三角州として誕生し、土砂堆積や有機物生産の作用を受けながら発達して、長い年月を経て最大規模に到達したあとは、老化が訪れると打ち捨てられて衰退する。この過程を地球科学者は「デルタサイクル」と呼んでいる。」
・「(前略)老境を迎えた三角州が受け取る河川の水量が減り始めると、海洋作用が優位に立つようになり、やがて三角州は衰退していく。」
・「(前略)自然分離という過程により河川が方向を転じると、地盤沈下や相対的海水準上昇を相殺できるほどの土砂を受けられなくなって、衰退を始める。そしてデルタサイクルの最終段階である浸水が生じたあとは、砂州がいくつか残るだけになる。」
・「三角州河道の放棄は、河川が氾濫して三角州の大部分が浸水したときによく起こる。氾濫時の河川は、勾配がより急な下り坂を「みつける」ことができると、その方向に進路を切り開いていくからだ。」
・「三角州の後退が始まるのは、河川の変化によって、波、潮汐、嵐が土砂の大掛かりな再分配を行い始めたときである。」
   *
 三角州に「老化」があることを知って、とても驚きました。なぜなら日本の大都市は、三角州にあることが多いからです。次のようにも書いてありました。
「河川は、食料、輸送、商売に関わる重要なネットワークの役目を果たすものであるため、河川流域に建造された多くの古代都市は、河道が干上がると都市自体も終わりを迎えた。そして新しい河道のそばに、新たな文明が築かれた。」
 ……なるほど。河川が道筋を変えると、人もそれについていったんですね。次のようにも書いてありました。
「現在では、三角州上にある世界中の多くの都市が、自然分離が起きないように策を講じている。」
 ……ちょっと安心しました。
 そして最後の「14. 未来の河川、河口、三角州」では、気候や環境の変動に応じた統合環境管理の成功例として、アメリカのミシシッピ川三角州の再生と、韓国のソウル都市圏の清渓川の復活が挙げられていました。韓国のものは、都市部の河川再生プロジェクトとして現在までで世界最長のものだそうです。
 河川はとても重要なものなので、私たちの生活だけでなく環境や生態系を守るためにも管理が必要だと痛感させられました。
そして、そのために役立ちそうな技術として、次のものが紹介されていました。
「リモートセンシング技術やデータ分析が発達するにつれて、地球観測衛星は水温や土砂、汚染物質や有機物など、河川、河口、三角州の水が持つその他の属性も、どんどん観測できるようになっている。」
 レーザーによる地表面のマッピング(レーザー光による検知と測距(LiDAR)法)としては……
「LiDAR装置には、跳ね返ってきたレーザーパルスの波長を、表面特性にしたがって変更できるという重要な特徴があり、それによって地表の真の姿をおおい隠している植生などの特徴を「排除」して、その下に「隠れている」細部を明らかにすることが可能である。」
 また宇宙から行うリモートセンシングとしては……
「宇宙から行うリモートセンシングが技術的進歩を遂げたおかげで、「鳩」と呼ばれる小型衛星のキューブサット群を用いて、地表の大部分をほぼ毎日カバーすることができている。」
 ……この小型衛星は靴箱程度の大きさなのに、撮影頻度が多くて空間分解能が高い映像なので、利用価値が高いそうです。
いろいろな技術も活用して、河川を含む自然環境が、より良い状態になっていくことを願っています。
『世界の河川 地球科学大図鑑』……美しい画像や世界地図とともに、河川・河口・三角州を詳しく解説してくれる本で、とても参考になりました。ここではそのごく一部、三角州(の老化)を中心に紹介しましたが、河川、河口、自然環境など、本当に幅広く解説されています。
 ただ……とても大きくて重く、価格もなんと「11800円+税」もする本なので、購入する前には書店などで実物を確認することをお勧めします。
 みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『世界の河川 地球科学大図鑑』