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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

自然のしくみがわかる地理学入門(水野一晴)

『カラー増補改訂版 自然のしくみがわかる地理学入門』2025/7/17
水野 一晴 (著)


(感想)
 数多くのカラー写真・図版とともに、地形・気候・植生について「なぜそうなったのか」という視点で具体的にわかりやすく解説してくれる本で、著者自身が体験したエピソードも交えながら、身近な環境の成り立ちや、自然の様々な不思議を明らかにしてくれます。なおこの本は、2015年発売の『自然のしくみがわかる地理学入門』をフルカラー化し、レイアウトデザインも含めて紙面を一新した増補改訂版だそうです。
 さて、最初の「地形」の「平野の地形」では、東京の地形の成り立ちについて詳しい解説がありました。関東平野では、何度も海面の上昇・下降があって、現在の地形になっているようです。そのごく一部を紹介すると……
「気温が下がるにつれ、大陸には氷河が広がって、その広がった氷河の氷の分だけ、海に流入する水が減る。つまり海面が下がるわけだ。最終氷期のときには、日本付近では現在より120~140m
も下がった。(中略)東横線沿線では、最終氷期に渋谷では渋谷川が河川の下刻作用によって大きな谷をつくり、中目黒では目黒川が、都立大学では呑川が大きな谷を掘った。」
 ……その後、最終氷期が終わって温暖化するにつれて海面が下がって下刻作用が止まり、逆に、河川が上流から運んでくる泥が、谷底に堆積していくという埋積作用が働いていきました。例えば渋谷(渋谷川の谷が埋まった場所)も、泥が溜まった場所で地盤が弱いようです。そして……
「(前略)いまから12~13万年前の下末吉期とよばれた時代は、いまより温暖で海面が高く、東京湾の奥まで海水が侵入し、古東京湾をつくっていた。そのときすでに海面より上の干上がっていた高台を洪積台地の下末吉面とよぶ。」
 ……そして新宿に高層ビルが集まっている理由は……
「(前略)沖積層より洪積層のほうが地盤がしっかりしている。とくに東京の場合、東京礫層とよばれる礫層が西に浅く、東に深く斜めに体積している。高層ビルはこの礫層まで基礎くい(支柱)を打って建てる。基礎くいの長さが長いほど建設費がかかる。」
 ……12~13万年前に形成された高台の新宿がもっとも地面が硬いので、建設費が一番安くなるそうです。
 また沖積平野の上野や浅草は、古くから開発されて家が密集して建ったのですが、……
「(前略)洪積台地は水が得にくいため、開発が新しい。しかし、上下水道が整備されれば、洪積台地は地盤が強いので地震の影響も小さく、高台なので洪水の影響も受けにくい。そして新しく開発されたため、敷地が整然として広く、緑も残された閑静な住宅地となり、目黒区や世田谷区など武蔵野台地は「山の手」=高級住宅地となっているのである。」
 ……東京のビル街や住宅地は、こんなふうに出来ていたんですね……。

 こんな感じで、沖積平野などのでき方が、科学的に詳しく説明されています。
 そして「気候」では、「なぜジェット機は高度1万kmまで揺れるのか?」の理由について……
「地面や海面が熱せられて地上付近の空気が暖められ軽くなって上昇するのだが、その空気の塊の温度がまわりの大気より高くないと上がっていかない。上空ほど気温が低いため、どんどん空気の塊が上昇するのだ。しかし、成層圏には紫外線を吸収するオゾン層があって、そこの温度は高い。そのため、ある高さまでいくと、それまで上空ほど気温が下がっていったのが、逆に上がっていくため、空気の塊はそれ以上上昇しない。その高さが圏界面の高さになる。ジェット機に乗ると、離陸してしばらくはシートベルトを外せない。なぜなら飛行機は対流圏を上昇していて大気の攪乱があるため、飛行機が揺れるからである。圏界面を受けると雲海をすぐ下に見ながら、真っ青な空の成層圏の中を圏界面すれすれの高度で飛んでいくのだ。」
 ……この高度がほぼ1万kmなのだとか(もちろん本文中では、もっと詳しい解説があります)。
 さらに「植生と土壌」では、熱帯地方の土壌が赤い理由として……
「(前略)熱帯雨林やサバンナなどの熱帯地方の土壌は赤い。気温が高い熱帯では岩石鉱物が分解して、鉄分やアルミニウム分が遊離し、それが雨で酸化して、酸化鉄すなわち錆になるわけだ。」
 ……そう言えば、沖縄の土も赤いような……同じ理由なのでしょうか……。
『カラー増補改訂版 自然のしくみがわかる地理学入門』……世界50ヵ国以上を訪れた水野さんのリアルな知見が詰まった自然地理学の入門書で、とても勉強になりました。地理や気候に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『自然のしくみがわかる地理学入門』