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第1部 本
社会
そのアプリが危ない(シトロン)
『そのアプリが危ない: プライバシーと法の穴』2025/8/6
ダニエル・キーツ・シトロン (著), 小松 佳代子 (翻訳)

(感想)
日々利用するSNSや検索サイト、マッチングアプリに入力した情報が、誰かに悪用されているとしたら……法学者のシトロンさんが、通院や恋愛など極めて個人的な情報を「機微なプライバシー(インティメイトプライバシー)」と定義して、その漏洩リスクと防止策を深く考察している本です。
本書の主なテーマについて「訳者あとがき」で簡潔にまとめてあったので、まずそれを紹介します。
「(前略)きわめて私的な生活の周囲に境界を設定して、その秘匿性と自律性を確保する「機微なプライバシー(intimate privacy)」という概念を創出し、公民権として連邦法による包括的な保護を与えるべきだという画期的な提案をしている。各人の心身、健康、ジェンダーや性的指向、親密な人間関係にかかわり、有意義な人生を送るための前提条件となるこの基本権の侵害は、被害者に長期にわたって深刻な影響を及ぼす。
現在、この権利はかつてない危機に直面している。デジタル技術によって、従来とはまったく質の異なるプライバシー侵害が可能になったからだ。シトロンが「スパイ株式会社」と呼ぶテクノロジー企業やデータブローカーは、サイバー空間で広範な自由を享受しており、ユーザーの情報を搾取して私利を図っている。(中略)政府でさえも、市民に対する監視や抑圧の手段として機微な情報を悪用している。この事実は社会に深く根差した偏見を反映しており、結果として平等という重要な人権を損なう。」
……この「機微なプライバシーを公民権として保護すべき」という考えの底にあるのは……
「私たちはみな本能的に、機微なプライバシーの権利があるはずだと感じている。自分の私事の詳細が収集され、悪用されているのではないかという不安を抱かずに、誰もが暮らせるべきだ。監視されている可能性など心配せずに、浴室で服を脱いだり、スマートバンドを身につけたり、(中略)デート相手や友人にメッセージを送ったりできるべきだ。」
……まったく、その通りだと思います。そして……
「機微なプライバシーを公民権にまで引き上げられれば、社会の態度や慣行はいくつもの点で変化するだろう。一般の人々は機微なプライバシーの侵害を人間の主体性、尊厳、私的な領域、平等の侵害と見なすようになる。被害者はネット上での攻撃の通報を無駄だと考えなくなるため、名乗り出る可能性が高まり、法制改革を求める進行中の取り組みに加わろうとさえするかもしれない。被害者の身近な人たちも、困惑や拒絶を示すのではなく、支援の手を差し伸べやすくなるだろう。加害者になりかねない人たちのなかにも、プライバシーの侵害は不当であり、アイデンティティ、尊厳、私的な領域を損なうものだと考える者が出て来るはずだ。」
……ただしプライバシー権は、しばしば言論の自由と衝突します。それについては……
「言論の自由とプライバシーの権利が衝突する場合には、綿密に検討したうえで、どちらの権利が優先されるべきかを見極める必要がある。」
……両方とも、とても大事な権利だと思います。これらは世界各国でも……
「プライバシーと言論の自由はどちらも、世界各国で基本的人権として認められている。世界人権宣言には、「プライバシー権」、すなわち私生活についての権利と表現の自由の権利が明記されている。」
……本書では、EUなどに比べてアメリカのプライバシー権はあまり尊重されていないことが、悲惨な多数の事例とともに指摘されていますが、そんなアメリカも変わりつつあるようです。
「アメリカの議員や法執行者は、おもに差別禁止という観点からではあるが、機微なプライバシーを公民権と見なし始める兆候を示しており、それは現代の公民権法の趣旨に沿っている。」
……法制化などによって、世界中の誰もが、安心して暮らせる社会になることを願いたいと思います。そのためには……
「もちろん法律が一夜にして変わることはない。そこで、差し当たって私たちに必要なのは、慣行の改革だ。ここで、良心に訴える道義的な説得の出番となる。企業には自発的に慣行を変える動機はないので、私たちは機微な情報の過剰な収集をやめ、収集に起因するリスクを回避するよう企業を説得しなければならない。」
……そして私たち自身が、自分の身を守る方法についても「付録」にアドバイスがありました。例えば「日常的な交流のためのヒント(抜粋紹介)」としては……
ヒント1)強力で多様なパスワードを使用する
ヒント2)通信とオンライン活動のプライバシーを確保する
ヒント3)広告主のトラッキングを回避する方法がある
ヒント4)プライバシー管理のセキュリティレベルを高める
ヒント5)公衆無線LAN(フリーWi-fi)の利用を避ける――モバイル機器のハッキングを防ぐ
ヒント6)クリック、閲覧、共有をする前にいったん考える
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もちろん本書では、もっと詳しい解説があります。例えば「ヒント2」には、「パソコンに搭載されたカメラのレンズは、使用時以外は覆っておこう」などの具体的なアドバイスがありました。
また「被害者の方々のためのヒント(抜粋紹介)」については……
ヒント1)被害状況を記録する
ヒント2)画像を掲載しているサイトやコンテンツプラットフォームに機微なプライバシーの侵害を通報する
ヒント3)グーグル、ヤフー、ビングに、自分の名前の検索結果から同意のない画像やビデオへのリンクを削除するようリクエストする
ヒント4)地域の被害者支援の担当者やソーシャルワーカーに相談することを検討する
ヒント5)セラピストや医療従事者の診察を受けることを検討する
ヒント6)オンラインの支援コミュニティに参加してみる
ヒント7)弁護士を見つける
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付録には、この他にも「アプリ利用者へのヒント」、「ホームデバイスをその他のツールに関するヒント」、「親および保護者のためのガイド」、「親密なパートナーたちへのヒント」、「アドボカシー活動に参加するには」などがありました。これらは、実際に自分のセキュリティ能力を向上させるのに役立ちそうです
『そのアプリが危ない: プライバシーと法の穴』……誰もが被害者になりかねない現代社会で安心して生活が出来るようにするために、私たちに何が出来るかを具体的に教えてくれる本で、とても参考になりました(アメリカでの話ではありますが、日本も同じような状況にあるのではないでしょうか(ここまで酷くはないとは思いますが……))。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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シトロンさんは『サイバーハラスメントーー現実へと溢れ出すヘイトクライム』という本も出しています。
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『サイバーハラスメント』