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第1部 本

工作(紙以外)

模型でわかる建築構造のしくみ(WHAT MUSEUM 建築倉庫)

『模型でわかる建築構造のしくみ: 歴史的木造建築から月面構造物まで、未来をひらく構造デザインの世界』2025/7/11
WHAT MUSEUM 建築倉庫 (著)


(感想)
『感覚する構造』(WHAT MUSEUM 建築倉庫、2023-2024年)に展示された構造模型の中から、日本を代表する名建築32点を中心に豊富なビジュアル資料を収録。構造力学の基本の概説や、模型の拡大写真、イラスト解説も充実している本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
序論 構造を感覚的に理解するための「構造模型」 文:腰原幹雄
構造力学の基本
建築の基本構造―力の流れとかたち
Chapter 1 木造の可能性 法隆寺から未来へ
1-1 部材断面にみる伝統木造
1-2 工学的アプローチによる木造
1-3 これからの木造建築の可能性
寄稿 建築素材としての竹の可能性 文:陶器浩一
寄稿 木造建築の普及と現在 文:腰原幹雄
47都道府県 木造建築MAP
Chapter 2 構造デザインの展開
建築家と構造家の協働 自由で自然な構造の探究 インタビュー :佐々木睦朗
構造設計者系譜図
構造家の言葉と略歴
次世代を担う構造家たち
寄稿 構造デザインの他領域への展開 文:鳴川肇
建築の構造設計がひらく、宇宙の構造物の可能性 インタビュー:佐藤淳
巻末資料
掲載資料索引
著者・執筆者略歴
あとがき

『模型でわかる建築構造のしくみ』というタイトルだったので、建築模型の作り方の解説もあるのかなーと期待したのですが、模型の作り方ではなく、「建築構造の仕組み」が中心の本でした。
「序論 構造を感覚的に理解するための「構造模型」」には、次のように書いてありました。
「(前略)構造模型は、部材の構成、断面寸法の適切さを視覚的に捉えることができるとともに、実際に手で力を加えることによって変形の仕方も理解することができ、構造計算ができない人とも感覚を共用することが可能となる。(中略)
 構造模型のもうひとつの大きな役割は、制作中に建物の建て方を検討することができることである。部材を組み立てるにあたって仮設材が必要か、柱などの位置や角度修正できるのはどの段階か、建物の形状が固まるのはどの段階かなどを、実物で捉えることができるのである。
 構造設計において、数値だけでなく、構造を感覚的に理解するスケッチや模型が果たす役割はまだまだ大きく、今後も変わらないだろう。」
 ……確かに、その通りですね。
 そして次のような有名な建築の骨組みの模型写真(表紙写真のようなもの)とともに、その建築の構造についての解説がありました。
〈部材断面にみる伝統木〉
●法隆寺 五重塔(国宝) ●薬師寺 西塔/東塔(国宝) ●正倉院 正倉(国宝) ●東大寺 大仏殿(国宝)/南大門(国宝) ●松本城 天守(国宝) ●錦帯橋 ●会津さざえ堂 ●白川郷合掌造り民家・旧田島家
〈工学的アプローチによる木造〉
●旧峯山海軍航空基地格納庫 ●八幡浜市立日土小学校 ●小国ドーム ●海の博物館 展示棟 ●長野市オリンピック記念アリーナ(エムウェーブ) ●東京大学弥生講堂 アネックス ●梼原 木橋ミュージアム 雲の上のギャラリー ●クラサス武道スポーツセンター(大分県立武道スポーツセンター) ●堅の家 ●ストローグ社屋
〈これからの木造建築の可能性〉
●大船渡消防署住田分署 ●The Naoshima Plan「住」 ●エバーフィールド木材加工場 ●小豆島The GATE LOUNGE ●大阪・関西万博 大屋根リング ●Port Plus 大林組横浜研修所 etc.
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 とても感心させられたのが「東大寺大仏殿の復元」。この時代には、すでに森の枯渇で部材不足になっていて、大きな心柱などの調達が困難になっていたのですが、それを「貫構造」という技術革新で克服したそうです。
「(前略)この大仏殿の主要な特徴である挿肘木や貫は、部材を柱に貫通させ、楔で締めこむものである。挿肘木を多段に重ねることで軒先の加重を分担して負担するという構造合理性に加えて、この多段の挿肘木が建物の意匠を特別なものにしている。貫は地震時に柱が傾いた際に、柱が貫にめり込むことによってエネルギーを吸収する。」
 ……素晴らしいですね。この創意工夫は、以降の日本建築に多大な影響を与えたそうです。
 また〈工学的アプローチによる木造〉では、間伐材を用いた立体トラスによる日本初の大規模木造(熊本県の小国ドーム)が、素晴らしいと思いました。この構造を可能にしたのは、次のような接合部の工夫によるものだそうです。
「ドリフトピン及びポールジョイントの接合部は、ミリ単位の変形を許容し、力を伝達できるエポキシ樹脂が注入されている。エポキシと木はヤング係数がほとんど同じであり、樹脂が固まるまで自由に動かせるため、寸法精度±0にでき、これが立体トラスを可能にしている。」
 ……本書では、このような素晴らしい木造建築の模型とその構造解説を、たくさん読むことが出来ました。
「寄稿 木造建築の普及と現在」によると、日本ではなんと縄文時代から木造建築に「貫穴」が使われていたようです。
「縄文時代の竪穴式住居や三内丸山遺跡(青森県)にみられる櫓は、太くて長い木材を原始的に縛る技術で建設されたといわれていたが、同じく縄文時代に建設された桜町遺跡(富山県)で貫穴、欠込などの加工された材が出土した。縄文時代にすでにこうした加工技術が始まっていたとすると、木材の加工技術は数千年という時間の積み重ねの中で磨かれていったということになる。」
 ……日本の技術者は、古代から凄かったんですね。
 さらに〈これからの木造建築の可能性〉では、月面に滞在するためのベースキャンプの開発に、ワクワクさせられました。「建築の構造設計がひらく、宇宙の構造物の可能性」によると……
「(前略)現時点では、すべての構造物に関わる、メインの躯体構造デザインを進めています。小さく折り畳める構造体にエンジンを取り付けて、ロケットで打ち上げられて月軌道に放出された後は、自力で着陸する。さきほどの枕型多面体のモジュールも、フレームに守られた状態で着陸させて、月面にパタンと倒れたところで、外皮が空気で膨らむというシステムです。
 加えて、この枕型の外皮が膨らむと同時に、内部に床が張られるというアイデアを考えました。外皮だけでなく床も折り畳まれていて、ふたつを一緒に展開できたらいいんじゃないかと。というのも、月面では地上と違い、建物のために地面を整地していられません。整地のために機械や人員を送り込むような作業を省略したかったので、モジュールの脚部分が凸凹の地面にアジャスト(調節)するようなシステムにできないかということを思い描いていました。」
 ……これは表紙右の下から2番目の銀色の模型(部分)のものですが、とても面白い仕組みのようです。今後の展開に期待したいです☆
『模型でわかる建築構造のしくみ: 歴史的木造建築から月面構造物まで、未来をひらく構造デザインの世界』……まさにタイトル通りの本で、建築構造の概要や歴史を、有名建築物の模型とともに知ることができました。工作好きには、パラパラめくるだけで楽しめる本だと思います。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『模型でわかる建築構造のしくみ』