ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
工作(紙以外)
建築を楽しむ教科書(倉方俊輔)
『見かたがわかればもっと面白い! 建築を楽しむ教科書』2025/9/16
倉方 俊輔 (著)

(感想)
明治から現代へと移り変わる時代の中で、建築家たちはそれぞれどんな想いをもって数々の建築を手掛けたのか……建築史家の倉方さんが、イチオシの近現代建築30をピックアップして、美しいフルカラー写真とともに、見どころや歴史をわかりやすく解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
巻頭特集 近現代建築の宝庫!上野~日暮里 建築めぐり
第1章 訪れてみたい! 日本の近現代建築30
第2章 押さえておきたい! 近現代建築ヒストリー

『建築を楽しむ教科書』というタイトルですが、本書で紹介されているのは、主に「日本の開国以来、現代に至るまでに建てられた30の建築作品」なので、「日本の近現代建築」についての『建築を楽しむ教科書』でした。
「巻頭特集 近現代建築の宝庫!上野~日暮里 建築めぐり」では、気軽に散歩しながら、すばらしい近現代建築を楽しめる上野~日暮里エリアの紹介。
例えば「国立西洋美術館(東京都・上野公園)1959年竣工」については、「2016年、国立西洋美術館を含む7ヶ国のル・コルビジェ作品17点が一括で世界遺産に登録された」という解説がありました。……世界遺産って、そんな広域で設定されることもあったんですね!
有名な建築物が多いこのエリアですが、「国立国会図書館国際子ども図書館レンガ棟(東京都・上野公園)1906年竣工」は、意外に知らない人も多いのではないでしょうか。素敵な大階段のある美しい洋館です。
そして、いよいよ「第1章 訪れてみたい! 日本の近現代建築30」。
その先頭を飾るのが、「大浦天主堂(長崎県長崎市)1864年竣工」。日本に現存する最古のカトリック教会堂で、1953年に国宝に指定、2018年にはユネスコ世界遺産(長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連資産)に登録されました。
「広い広間を柱の数を少なくして支えることができるアーチ形天井の一種、リブ・ヴォールトが特徴的。西洋で一般的な石ではなく、木を用いて造作した日本人大工の技術の高さもうかがえる。」
……内部は、本当に外国の教会にいるみたいな広間なのですが、どことなく日本っぽい温かみが感じられるのは、「木のリブ・ヴォールト」だからなんでしょうね……とても美しいです。
ちなみに、実は大浦天主堂よりも2年早く「横浜天主堂」が建てられたがそうなのですが、建物は現存していないのだとか……そうだったんだ……。
そして驚かされたのが「宝山寺獅子閣(奈良県生駒市)1884年竣工」生駒山中の伽藍に溶け込む、懸造の洋風客殿で、「洋風建築と寺院建築が高度に組み合わされています」というもの。まさにその言葉通りで、和風の建築でありながらも、柱に装飾のある洋風ベランダがあったり、赤・青・緑の色ガラスをはめ込んだ広い1階洋室があったりと……とても不思議な建築です。特に驚かされるのが、ベランダの下が「清水の舞台」みたいな懸造になっていること!
「石垣からせり出した南側のベランダは、柱と貫(柱を貫く水平材)を格子状に組み合わせた懸造によって支えられている。」
……「懸造の構造をもつ擬洋風建築は全国でもめずらしい」そうですが、石垣や懸造という日本伝統の建築技術と、西洋風の建築が、一つの建物として成立していて……とても見応えがありました。
不思議なこの建物を見て思い出したのが、本書でも紹介されている「築地本願寺(東京都中央区)1934年竣工」。
何の予備知識もなく初めてここを訪れた時には、本当に衝撃を受けました。寺院のはずなのに、これは……何? インド風なの? 洋風なの? その光景が「日本の寺院建築」とはあまりにもかけ離れていて……寺院建築に抱いていた、それまでの私の「常識」が粉々に打ち砕かれてしまいました。本書によると……
「(前略)東西の建築様式をひとつに織りなした、世界でもほかにない寺院が誕生したのです。
ちなみに、江戸浅草御堂が浅草から築地に移転した理由は、1657年の明暦の大火で消失したため。再建にあたって江戸幕府から与えられた場所は、なんと海でした。本願寺門徒でもある佃島の漁師たちが埋め立て、築地御坊という新しい本堂が完成。「地面を築いた場所」を意味する築地という地名も、このときに誕生しました。
広い境内にある建物は、中央部が最も高く、左右で象徴的な塔が端部を引き締めています。こうした西洋建築に由来する左右対称の構成の中に、古代インドをはじめとした多彩な意匠が大胆に融合されています。」
……この不思議な寺院は、なんと「土地から築いた」んですね。
この建物は本当に衝撃的なので、ぜひ訪れてみて欲しいと思います(誰でも参拝できます)。内側もまるで「教会」みたいで、畳敷きではなく床に椅子が並んでいる上に、なんと巨大なパイプオルガンまであるんですよ!
また別の意味で驚いたのが、「国立京都国際会館(京都府京都市)1966年竣工」日本初の国立国際会議施設なのですが、台形と逆台形の組合せという印象的な形をしています。その理由が……
「(前略)大谷は当初、四角形の建物をイメージしたものの、大会議場のスケールが大きくなり、そのままでは景観を乱す恐れがあると判断。山肌に迫っていた議場の壁面を内側に傾けて台形とし、必要な床面積を確保しながら建物のボリュームを削り、周囲の山々に溶け込む外観を導き出したのです。」
……この素晴らしい特徴的な造形は、最初から考えられていたわけではなく、「周囲の景観(比叡山などの山々や古都の風情)」になじむように設計を修正していたんですね!
京都の建築物としては他にも、「東華菜館(京都府京都市)1926年竣工」も紹介されていました。四条大橋の西端にある現役レストランなので、見たことがある方は多いのではないでしょうか。ヴォーリズ建築の素敵な洋館ですが、見学だけの来店は不可なので、内側を見た人は少ないかもしれません。本書では、この建物の内側も多数の写真で見ることができました。内側も、とても素敵なんですね。(京都の建築物は、この他にも多数紹介されています)。
そして現代建築の例では、「梅田スカイビルとグラングリーン大阪」が。まさに「既存のまちとの調和を意図したランドスケープデザインの最先端」です。(ちなみに「梅田スカイビル」は、英紙『THE TIMES』の「世界の建築TOP20」に選ばれているそうです。あの「空中庭園とツインタワーを連結した、未来都市の門みたいな姿」は、まさに「現代建築の極み」感がありますよね……。)
素晴らしい日本の近現代建築を写真で紹介してくれる本で、とても見応えがありました。
ところどころに「図書館5選」とか「レストラン5選」とかのコラムもあり、例えば「図書館5選」では次のものが紹介されていました。
1)大阪府立中之島図書館
2)神奈川県立図書館前川国男館
3)山口県立山口図書館
4)福井県立図書館
5)みんなの森 ぎふメディアコスモス
……図書館は誰でも気軽に立ち寄れる建築物なので、お近くの方はぜひ見学に行ってみてください。
そして巻末の「第2章 押さえておきたい! 近現代建築ヒストリー」では、日本の近現代建築の歴史とともに、日本で活躍した代表的な建築家の紹介があり、これもとても勉強になりました(ここは「教科書」らしい部分でした)。
『見かたがわかればもっと面白い! 建築を楽しむ教科書』……日本の素敵な近現代建築を、写真とともに解説してくれる本で、眺めて楽しく読んで勉強にもなる本でした。建築に興味がある方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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『建築を楽しむ教科書』