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第1部 本
IT
ネット炎上事例300(小林直樹)
『ネット炎上事例300 なぜ企業や個人は失敗を繰り返すのか?』2025/5/16
小林直樹 (著)

(感想)
300件の実例トラブルからネット炎上対策を教えてくれる本で、主な内容は次の通りです。
Chapter 1 2025年、炎上事件簿
1章 2025年も大型炎上が頻発
Chapter 2 ジェンダー炎上
2章1 男性差別型、イジリ・からかい型炎上
2章2 性別役割の固定化型炎
2章3 性的、セクハラ型炎上
2章4 萌えキャラトラブル型
2章5 不安、ルッキズム助長型
2章6 炎上未遂型
2章7 その他ジェンダー炎上
Chapter 3 不適切な投稿、行為、広告
3章1 不適切な「投稿」による炎上
3章2 不適切な「行為」による炎上
3章3 不適切な広告、コンテンツなど
Chapter 4 バイトテロ
4章1 2005年から今なお続くアルバイトの暴走
Chapter 5 炎上エトセトラ
5章1 生成AIトラブル
5章2 ステルスマーケティング
5章3 告発、クレーム
5章4 イベント不手際
5章5 フェイクニュース
5章6 情報管理不備
5章7 誹謗中傷
*
「はじめに」には、『デジタル・クライシス白書2025(デジタル・クライシス総合研究所)』によると2024年に発生したネット炎上の年間件数は、前年比(2023年比)で22.6%と大幅に減少したと書いてありました。
減少しているという感じはしなかったので、ちょっと意外でしたが、減少しているのは「個人の炎上」の部分のようで、2025年に有名インフルエンサーの滝沢ガレソさんが憶測記事を投稿した後、炎上によって投稿を削除・謝罪することになった事件の影響で、「素人イジリ・さらし」が減ったためのようです。
それでも安心はできないようで……
「2023年から24年にかけて、ネット炎上の拡散装置になっているXにおいて、ポスト(投稿)のインプレッション数(投稿の表示回数)に応じて投稿者に広告収入が配分されるようになったことで、インプレッション数稼ぎの「インプレゾンビ」と呼ばれるアカウントが乱立しました。さらに、「おすすめ」欄に小規模アカウントの投稿でも、おすすめ欄に表示されるようになり、場合によっては数千万単位のインプレッションを弾き出すようになりました。」
……X の方針転換で、炎上しやすさは、むしろ高まっているようです……。
「Chapter 1 2025年、炎上事件簿」では、こんなことで炎上が起こるの?と、ちょっと怖くなってしまいました。
例えば「事例002 OD(オーバードーズ)よりSD(相談)」。これは「2025年3月3日、厚生労働省の政府広報アカウントが、薬の過剰摂取「オーバードーズ(OD)」について、「ODするよりSD(相談)しよう」と呼びかけるアニメ啓発動画を公開した」という事例ですが、「キャッチコピーが軽すぎる」、「ODするほど追い詰められた人にキャッチコピーが届くのか?」などと炎上してしまった後、厚生労働省は、若者を相談支援につなげたかったという制作意図を説明したのですが、最終的には削除することになったそうです。
……ODなど精神的にデリケートな人への広告は、制作時に、専門家やOD経験者などの意見を取り入れるべきだったのかもしれませんが……難しいですね……。
また「事例006 道路陥没事故を笑い飛ばしたモデル降板(八潮市の道路陥没事故を人気ユーチューバーが笑い飛ばした)」という事例では、この騒動から得られる教訓として……
「(前略)過激な発言をするほど再生回数が伸びることに味を占めると、「前回、この発言でも炎上しなかったから……」と不適切・不穏当な発言をすることに感覚がまひしてしまう。」
……と指摘されていました。その通りだと思います。
「事例020 屋外から生配信、居場所特定される恐怖」。これは2025年3月11日、東京・高田馬場の路上で、ライブ配信中だった人気の女性ライバーが視聴者の男に襲撃されて命を落とした事件で、この騒動から得られる教訓としては……
「「都内某所から配信」と配信者は伏せているつもりでも、背景に映り込んでいる建物や看板、聞こえてくる電車の走行音などから、案外と簡単に居場所は「特定」される。ライブ配信文化そのもののリスクが広く周知される事件になった。」
……本当に恐ろしい事件でした。路上でのライブ配信は、止めるべきなのかもしれません。
また炎上したら、すぐに削除・中止・撤退してしまうという選択をしない場合もあるようで、環境省の温暖化啓発の萌えキャラ(君野イマ、君野ミライ)に賛否両論が起こった時には……
「萌えキャラに対する賛否が過熱したが、環境省は特にキャラクターの取り下げや、コメントなど表だった対応はしておらず、コンテンツをそのまま掲載し続けている。公的機関が若者向けを意識してポップな表現を採用する際は、慎重な判断、配慮が必要だ。萌えキャラは一部の層には強くアピールするものの、反面、アレルギー反応を示す人も少なからずいる。(中略)公的機関が萌えキャラを起用すれば、一定の賛否が出てくることは避けがたく、起用する以上は腹をくくるしかないだろう。」
……どんなことでも「反対」する人が一定数いることは普通のことだし、もしかしたら多様性を認める社会であるために、むしろ歓迎すべきことなのかもしれないので、賛否両論なら、そのままにしておくという対応でも良いのかもしれません。
「Chapter 3 不適切な投稿、行為、広告」では、過激な投稿(ヘイト)や誹謗中傷をしていた匿名アカウントについて、投稿がたびたび炎上したことで、アカウント主の情報収集が進んで、それぞれ、共同通信のデスク、新潟日報の報道部長、復興庁の幹部役員、群馬大学の教授だったなど、複数の事例が紹介されていました。
その教訓として……
・「本件は、匿名アカウントを通じた発言でも個人が特定され得ること、それによって所属組織、立場に多大な影響が及ぶことを示す一件だった。(中略)匿名の場合も、本人が特定されて困るような投稿はしないことが賢明だ。」
・「匿名アカウントの使用が長くなると、身元がバレることはないと過信しがちだ。その勘違いが投稿の暴走をもたらす。(中略)「身バレ」すると、個人はもちろん組織全体の信頼を失墜させる。ストレスを暴言投稿で解消するのは極めて危うい解消法である。」
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また過去の発言が発掘されて問題になることもあるようで、2021年に誹謗中傷を抑止する目的で設立された一般社団法人「この指とめよう」の代表理事が、過去に不適切な投稿(団体の理念と矛盾する内容のもの)を繰り返していたことが発掘され、結果として団体が解散することになったという事例もありました。この騒動から得られる教訓としては……
「個人が“公人”になるに当たって、果たしてその任にふさわしい人物であるかどうか、個人の過去の言動が掘り返されることがある。(中略)“公職”に就く前に、過去の投稿は振り返っておいたほうがいいだろう。任命する側も同様である。」
……インターネットでは「過去の発言データ」も探しやすいので、「発言」にはとにかく気をつけるべきだと思います。
また驚かされたのが、2006年、オンライン百科事典Wikipediaの楽天証券の解説ページにおいて、同社に不利益な情報が同社の社員によって削除されたという事例で、その教訓としては……
「(前略)Wikipediaのような公共性、中立性の高いプラットフォームに意図的な情報改ざん、情報操作を仕掛けるのは、ネット社会の発展を妨げる悪質な行為とみなされる。」
……誰でも編集できてしまうWikipediaですが、意図的な情報改ざんは、バレるものだと心得るべきなのでしょう。
そして「生成AIトラブル」の事例についても、考えさせられました。
2014年、福岡県キャンペーン「福岡つながり応援」公式メディアに、誤情報が多数あったことが判明しましたが、これは、記事制作に生成AIを活用したら、実在しない施設や祭りのPR記事が書かれて、そのまま公開していたというもの。指摘を受けて全記事を削除したそうですが……生成AIがもっともらしい回答を返してきても、そのまま公開しては絶対にいけませんね……。
その一方で、大阪府の生成AIチャットについては、どう対策すればいいのか迷ってしまいました。これは大阪府が2023年9月から提供を開始している生成AIチャット「大ちゃん」が珍回答を連発したというもので、例えば、開設当初、「大阪万博は中止ですか?」と聞くと、「せやな、大阪万博は中止やねん。残念だけど……」などという珍回答をしてきたそうですが……さきほどの福岡の事例とは違って、生成AIチャットはリアルタイムな会話なので、途中に「人間のチェック」を挟むのは現実的ではないですよね……。
さて、「おわりに」では、300件もの事例を読み切れないという人のために、「これは知っておくとよいかもという事例」の概要が紹介されていました。それは次の3つの事例で……
・P&G くさや対ファブリーズに産地激怒も、翌年コラボCM
・味の素冷凍食品 ギョーザがフライパンに焦げ付く不満投稿から商品改良へ
・スープストックトーキョー 離乳食提供に反発の声が挙がるも方針貫き賞賛される
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……これらはどれも、炎上への対応によって、より良い方向へ変えることが出来たという事例です。炎上をプラスに変えることはとても困難だと思いますが、不可能なことではないことを事例で知ると、ちょっと勇気づけられますね☆
『ネット炎上事例300 なぜ企業や個人は失敗を繰り返すのか?』……300件の実例トラブルを通して、ネット炎上対策やネットリテラシーを学ぶことが出来る本で、とても参考になりました。誰もが炎上の標的とされる可能性のある時代です。炎上を避ける・広げない・終息させるために、どうすればいいのかを考えるヒントがたくさん得られると思いますので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『ネット炎上事例300』