ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
伝記・職業紹介
深海の闇の奥へ(ウィダー)
『深海の闇の奥へ――生物発光に魅せられた海洋学者の冒険』2025/8/1
エディス・ウィダー (著), 橘 明美 (翻訳)

(感想)
世界で初めて生きたダイオウイカの撮影に成功した科学者の一人で、海洋生物学のパイオニアである女性研究者のウィダーさんが、未知の世界に挑んだ40年の軌跡を綴る科学ノンフィクションで、2013年放送「NHKスペシャル 世界初撮影! 深海の超巨大イカ」の取材秘話も明かされています。
「プロローグ」には次のように書いてありました。
「(前略)外洋は不思議に満ちた驚くべきところで、隠れる場所のないこの世界では生死をかけた「かくれんぼ」が日々繰り広げられている。ここで成功率の高い生存戦略は、日中は<闇の縁>――とわたしたちが呼ぶもの――より下の深海に身を潜め、<闇の縁>が海面に向かって上昇する夜間にだけ、餌の豊富な海面近くまで浮上するというものだ。(中略)
実際、深海の<闇の縁>より深いところに網を下ろして船で曳くと、毎回ほぼ例外なく、網にかかって引き上げられる動物のほとんどが光を発する。海面から海底までの海の容積と、この広大な水域が地球最大の生態系を構成していることを考え合わせれば、そこに発光生物があふれていても何の不思議もないとわかるだろう。さらに視野を広げると、ほとんどの海洋生物が(単細胞のバクテリアから巨大イカまで)発光するということは、地球上の大半の生物がわたしたちの知らない光の言語でコミュニケーションしていることになる」
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実は海の中には驚くほどたくさんの発光生物がいるそうで、しかも発光の種類もとても多いそうです。それというのも……
「(前略)発光能力という形質は多くの種の生存に不可欠であり、だからこそ進化史のなかで五〇回以上も独立して獲得された。このように近縁種ではない生物が類似の状況に適応するために類似の形質を獲得することを「収斂進化」と呼ぶ。」
……「目」も同じように五〇回以上も独立して獲得されたので、生物の目の構造や種類もさまざまものがあるそうです。
さて、陸上には木や茂み、穴など生物が隠れることができる場所がたくさんありますが、海の中(とりわけ中層)には隠れる場所がないので、生物は「下から見上げたときに自分の影が見えない」ように発光する能力を利用しているようでした。
またその他にも、餌を探す、獲物をおびき寄せる、仲間や交配相手を探す、種別や性別を見分ける、防衛(注意そらし、目くらまし)などにも利用されているようです。
本書では、どきどきするような海中生物の観察記録を、リアルに眺めることができます。美しい海中環境やダイナミックな生物の動きの描写が素晴らしくて、自分で体験しているような気分になれそうでした。冒頭にはカラー写真が16ページもあり、本書を読ながら写真を眺めると、ますますリアルに感じられます。
しかも海洋生物の研究方法や生態を詳しく知ることが出来るだけでなく、海洋科学ドキュメンタリー番組の制作についても垣間見ることができました(ディスカバリーチャンネル、NHK、BBSの番組撮影に協力しています。BBSの映像は、あの『ブルー・プラネットⅡ』です☆)
著者のエディス・ウィダーさんはとても精力的に活動している方で、海軍が使うHIDEX(生物発光測定装置)や、生物に気づかれずに撮影できる遠隔操作の長時間バッテリー深海カメラ(EITS)、さらに設置・回収が楽な深海生物観察用の新しいプラットフォーム(メデゥーサ)などの開発もしている他、2005年に海洋調査保護協会(ORCA)という環境NPOの設立にも携わっています。
そんな凄腕研究者のエディーさんですが、決して順風満帆な人生だったわけではなく、11歳のときには1年休学して両親と世界旅行に行き、なんと大学1年のときには病気で手術を受けて3回も死にかけ(しかも失明しかけ)ているのです……その後に、こんなにも冒険的な研究生活を送っているんですね……本当に感心していまいます。
「訳者あとがき」には、次のように書いてありました。
「挑戦者ならだれもがそうであるように、エディーもやはり繰り返し壁にぶつかり、穴につまずく。だが彼女は、若い時に九死に一生を得る体験をしたからか、うまくいくほうがむしろ普通ではないと悟っていて、失敗して精神的にかなりダメージを受けても、頭は瞬時に切り替わって対処法を探しはじめる。そしてそんなときに発揮されるのがエディーの得意技、「プランB」と「融合」と「ウィット」である。」
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『深海の闇の奥へ――生物発光に魅せられた海洋学者の冒険』……海洋学者の半生を通して、海洋学者の仕事や、へこたれない精神力など、本当にさまざまな学びを得ることができる本でした。海洋学に興味のある方はもちろん、研究者を目指している方も、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『深海の闇の奥へ』