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第1部 本
伝記・職業紹介
サボテンは世界をつくり出す(堀部貴紀)
『サボテンは世界をつくり出す 「緑の哲学者」の知られざる生態 (朝日新書)』2025/10/10
堀部 貴紀 (著)

(感想)
日本で唯一のサボテン学者の堀部さんが、自らの研究生活や、サボテンの驚異の仕組みとともに、CO2削減など温暖化防止効果や食料の可能性といった「地球の救世主」の面についても詳しく紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです(冒頭にはサボテンのカラー写真も4ページあります)。
第1章 「センス・オブ・ワンダー」を探して
第2章 サボテンの聖地、メキシコへ
第3章 サボテンの驚異の生態
第4章 サボテンは救世主??食料可能性、地球温暖化防止
第5章 サボテンをどう学ぶ???大学研究室から
第6章 人はなぜサボテンに惹かれるのか?

堀部さんは大学卒業後にTV局に勤務したのですが、再び研究の世界に戻ってサボテン研究を始めたそうです。
2016年から2017年にカリフォルニア大学デービス校で客員研究員として働いている間に、アリゾナ州のサワロ国立公園にサワロサボテンの群生を見に行き、その巨大さや地平線まで延々と立ち並んでいる光景に圧倒されたそうです。広大な砂漠の中で、サワロサボテンは、動物たちに住まいと食料をもたらしていました。
サボテンがトゲをもつ理由は……
1)動物から身を守るため
2)強い日差しから身を守る(トゲの影で直射日光を抑える)
3)トゲには体温調節の役割がある
4)繁殖に利用することもある(動物にくっついて移動。落ちた場所で根を張る)
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……サボテンは「種」で繁殖するだけでなく、「栄養繁殖」によっても増加できるんですね! こんなにも役に立つトゲですが、農業・飼料用としては使いにくいので、トゲを圧倒的に少なくした品種改良もなされているそうです。
そして「第2章 サボテンの聖地、メキシコへ」では、サボテン研究のためにメキシコへ行った時に体験したことが書いてあったのですが……到着したその日に、露店で美味しそうなタコスを食べたら激しい食中毒に襲われたり、夜にホテルを出たらギャングらしい男に脅されたりと……命の危険に何度もさらされています(涙)……メキシコ、危ない所なんですね……。
それでもサボテン研究的には、多くの成果があったようです。メキシコではサボテンがさまざまな食品や製品に利用されていて、かつては「貧しい人が食べる野菜」という印象が強かったサボテンは、今はその健康効果(豊富な栄養素、低カロリー、高繊維質)が注目されていて、さまざまな製品(パン、野菜ジュース、菓子、化粧品、サプリメントなど)に取り入れられているようでした。中南米先住民の間では、はるか昔から医療的利用(火傷の手当て、痛みの緩和、胃の不調、皮膚病など)もされてきたようです。
「第3章 サボテンの驚異の生態」によると、サボテンは多様な環境(砂漠、熱帯雨林、高山)に適応しているようです。
「サボテンが高温かつ乾燥した過酷な環境に適応し、生存しているのは、進化の過程において乾燥に対する高度な適応戦略を獲得してきたためである。具体的には、第一に「水分を効率的に吸収する構造」、第二に「吸収した水分を逃さず保持する機構」、第三に「限られた水を無駄なく利用する代謝系」の三つが挙げられる。」
また健康効果も研究されていて、サボテンの粘液に含まれる多糖類に血中コレステロール低下や血糖値の急上昇抑制作用があることや、サボテン粘液の生分解性を、環境ポリマーとして利用することも期待されているようです。
さて、2017年に国連食糧農業機関(FAO)が「サボテンは世界の食糧危機を救う作物になりうる」との見解を発表しましたが、サボテンはすでに世界各地で広く栽培され、食料や飼料として利用されているそうです。実はウチワサボテンの水使用率は稲などに比べて4分の1以下で、気温が50度を超える過酷な環境下でも生き延びられる他、サボテンは「食べられる水」で、セルロース源にもなり、牧草地の生産性に比べ60倍の収量があがるなど、食品としての可能性が高いようです。
さらにサボテンには二酸化炭素を「鉱物(シュウ酸カルシウム)」に変換して、自らの体内に蓄積する能力があるので、地球温暖化への対応にも役に立ちそうです。
「(前略)サボテンが多く自生する乾燥地帯では、大気中の二酸化炭素がサボテンの体内で鉱物化され、最終的には土壌中に炭素として長期間蓄積されているのだ。」
……凄いですね。さらにサボテンにはカドミウム蓄積能力があり、汚染土壌の浄化にも役立ちそうなのです。
「(前略)サボテンは単に食料や飼料、加工品材料としての利用価値にとどまらず、地球温暖化の抑制や土壌の保全といった地球規模の課題にも応える潜在能力を持つ植物である。その多機能性を改めて見直すと、サボテンはただの乾燥地に適応した植物ではなく、今後の持続可能な未来を支える重要な資源の一つであると言えるだろう。これからの時代において、サボテンの役割はますます大きくなり、その活用法は広がりを見せるに違いない。」
……ただし、この栽培しやすさが、侵略的外来種として、深刻な問題を引き起こすこともあるようで、20世紀初頭のオーストラリアではウチワサボテンが大増殖し、その対策として天敵昆虫の導入することで90%以上を駆除したという事例が紹介されていました。日本でも高知県室戸岬などで、ウチワサボテンが大繁殖しているようです。
『サボテンは世界をつくり出す 「緑の哲学者」の知られざる生態』……サボテン研究者として日々奮闘する研究室でのエピソードや、いろんな意味で感動・驚きに満ちた海外でのフィールドワーク、さらに38歳の時に「ADHD(注意欠如・多動性)および双極性障害」と診断されたことなど、自らのさまざまな体験についても語ってくれる本でした。多くの「学び」が得られる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『サボテンは世界をつくり出す』