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第1部 本
描画参考資料
竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー(京都市京セラ美術館)
『竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー』2023/10/14
京都市京セラ美術館 (著)
(感想)
明治期には新たな表現を模索して西欧に渡り、大正・昭和期には第一線で活躍しながら多くの弟子を育てた竹内栖鳳。「写生」を重要視し、抜群の筆力で「万物に生命を与える」とまで称された画家は、いかに古い常識を破壊して日本画の新たな地平を創生したか……重要文化財『絵になる最初』をはじめ、若手時代から円熟期に至る代表作約130点で画業を振り返る「京都画壇のカリスマ・竹内栖鳳の生涯と代表作が一冊でわかる決定版」で、主な内容は次の通りです。
第1章 栖鳳登場 京都画壇の麒麟児
第2章 栖鳳、世界へ まだ見ぬ美術を求めて
第3章 日本画は一度破壊すべし 新しい時代へ
第4章 躍動する写生
第5章 栖鳳、旅に出る 心の風景を探して
第6章 生き物たちの賛歌
論考:平野重光(美術史家)、廣田孝(京都女子大学名誉教授)、森光彦(京都市京セラ美術館)、後藤結美子(京都市京セラ美術館)
なお、本書は次の展覧会の図録です。
【展覧会情報】
京都市美術館 開館90周年記念展「竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー」
会場:京都市京セラ美術館
会期:2023年10月7日(土)~12月3日(日)

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抜群の筆力で素晴らしい作品をたくさん残してくれた竹内栖鳳さんの絵が、フルカラーで数多く掲載されているだけでなく、なんとその下絵や写生、模写などの資料も多数紹介されていました。
また解説やコラムもとても充実していて、竹内栖鳳さんの生涯や、絵に対する考え方、絵の描き方などについても詳しく知ることが出来ました。
例えば「第1章 栖鳳登場 京都画壇の麒麟児」では……
「修業時代の栖鳳は、四条派の画風を着実に学ぶ一方で、雪舟や相阿弥といった室町水墨画、また円山応挙など江戸絵画の模写を多く行っている。こうした古画学習は、のちに栖鳳が独自の画風を開拓する手助けともなった。」
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また「第2章 栖鳳、世界へ まだ見ぬ美術を求めて」では……
・「栖鳳の画業にとって大きな出来事となったのは、1900(明治33)年、36歳の時にヨーロッパに渡り、約半年間の外遊を行ったことである。農商務省と京都市から派遣された公務出張として、第5回パリ万国博覧会を中心に、ヨーロッパ美術の状況を視察するためである。」
・「帰国後は西洋体験を存分に発揮した作品を次々と発表した。この時期の代名詞ともなった、写実的にライオンを描いた獅子図やヨーロッパの景色を描いた風景画などは前衛的な画題として人気を博した。また栖鳳は画題のみにあらず、西洋画の描法も参照して日本画の革新を目指した。西洋絵画の特徴は写実にあると語り、特に光の当たり方の表現と、それに基づく色彩に注目している。しかしあくまで、西洋の写実性は参照すべきひとつの要素で、日本画本来の長所である「写意」(外形にこだわらず、対象の本質や精神を写す)とともに表現することで、日本画の発達を目指すという理念を持ち続けた。」
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そして「第3章 日本画は一度破壊すべし 新しい時代へ」では……
「「日本画の将来」についても各所で意見を求められるようになり、栖鳳はその理念を広く述べている。いわく、日本の水墨画の伝統は学ぶべきである、ただし、古人の模倣に陥ってはならない。温故知新の精神をもって、時代に適応した新しい日本画を作るべきだ、と。」
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こんな感じで、竹内栖鳳さんの作品だけでなく、生き方や考え方も知ることができました。
本書はコラムも充実していて、例えば「コラム:日本画ができるまで」では……
「写生をしたのちに取り掛かるのが「下絵」づくりである。(中略)小下絵で画面の構図を決め、大下絵で具体的な描線にして描いていくのだが、大下絵の制作が作品の内容を決める最も重要な工程となる。なぜなら、大下絵は最終的に和紙や絹といった本番の画面に写し取られ、その線を基に着彩をし、完成を目指していくからである。
日本画の絵画は、描き直しや塗り直しという作業に不向きであり、余白が多い構図であればなおさら、何度も筆を入れられないため、大下絵の時点で納得のいく絵を描かなければならない。」
……なるほど。実際に本書には、美人画の『アレ夕立に』や、『絵になる最初』という美しい絵のそれぞれに、見開きページで下絵と作品が並べてあって、見比べることが出来ます。下絵の構図も力強くて、とても良いのですが、それが作品になったときには情感までもが柔らかく滲み出ていて……本当に素晴らしいです。
「夏鹿」という作品では、下絵に描かれていた鳥たちがすべて消えていて、鹿の群れだけが残っているのですが、余白がとても美しく見え、すっきりとした作品に仕上がっていると感じました。(もちろん、ここで紹介した以外の作品の下絵も掲載されています)。
また「コラム:栖鳳と画材」では……
「栖鳳は、絵を描く材料にも思い入れが大きかった。良い作品を生むために、良い画材を必要とした逸話が、多く残っている。
墨については、「散らない」墨を求めていたという。すなわち、線描の後、絵の具を塗っても線描の墨がにじまないものである。結果、鳩居堂で栖鳳専用の墨を作ってもらったという。」
……この墨は良いですね! 鳩居堂で今でも手に入るのでしょうか……?
『竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー』……竹内栖鳳の生涯と代表作をじっくり眺めることが出来る素晴らしい図録でした。作品と共に、下絵や写生なども見ることができるので、絵を描く人にとっては、とても参考になるのではないでしょうか。美術展(京都市美術館
開館90周年記念展「竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー」(2023年))の図録なので、手に入りにくいかもしれませんが……機会があったら、ぜひ眺めてみてください☆
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『竹内栖鳳 破壊と創生のエネルギー』