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第1部 本

数学・統計・物理

なぜ重力は存在するのか(野村泰紀)

『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門 (マガジンハウス新書 024)』2024/7/25
野村泰紀 (著)


(感想)
 カルフォルニア大学バークレー校教授で理論物理学者の野村さんが、「ニュートン力学」や「相対性理論」といった古典物理学から、「量子力学」などの現代物理学に至るまでを概観しつつ、「重力はなぜ存在するのか?」という謎に迫っている本で、YouTube チャンネル『ReHacQ─リハック─』で配信された動画を元に、追加の取材・再編集を行い、書籍化したものだそうです。
「はじめに」によると……
「17世紀にアイザック・ニュートンが発見した万有引力の法則は、重力があらゆる物体に働く普遍的な力であり、この力が物体の質量に比例し、距離の2乗に反比例することを示しました。万有引力の法則は、地球上の物体の運動から惑星の軌道までを説明する画期的なものでした。」
 ……というように物理学の主要な法則について、式をつかわずに「言葉で説明」してくれるので、とても分かりやすくて助かりました。
 ガリレオの落下運動の法則や慣性の法則などから始まり、ニュートン力学、アインシュタインの相対性理論、さらに量子論まで、歴史的な経緯を含めて「文章で」概説してくれます。
 参考になったことばかりですが、そのごく一部として量子論から紹介すると次のような感じです。
・「シュレディンガー方程式と確率解釈により、量子力学は一応の完成をみたことになります。すなわち、最初の電子の状態がわかっていれば、その波動関数が時間的にどのように変化していくかはシュレディンガー方程式を使って解くことができ、その結果得られた波動関数は、電子を観測した時にどこに見つかるかを、確率的に予言することができます。また、水素原子のように時間的に変化しないものの場合には、シュレディンガー方程式に時間的に変化がないという条件を課すことにより、電子のとり得るとびとびの軌道半径などを導くこともできました。」
・「(前略)一般に、特殊相対性理論では、粒子をエネルギーに変換したり、その逆をしたりすることができます。しかし、粒子の波動関数に基づくシュレーディンガーとハイゼンベルクの量子力学では、原子や電子などの粒子がエネルギーに変換されて消滅してしまうと、その先は扱うことができませんでした。そのため、粒子が生成したり消滅したりする場合であっても記述できるように、量子力学を修正する必要に迫られたのです。そこで、導入されたのが、「場」という概念でした。
 場とは、空間に満ちていて、その空間が持ち得る物理的な性質を決定するものです。」
・「(中略)場の量子論により、真空は、決して何も存在しない静寂な空間ではなく、至ところで粒子と反粒子がペアで生まれては消えるということが繰り返されている忙しい空間であることがわかってきたのです。」
・「(中略)湯川が予言したパイ中間子の発見により、原子核内に陽子と中性子が一緒に存在している理由も解明されました。パイ中間子には、プラスとマイナスの電荷をもつものがあり、陽子がプラス電荷のパイ中間子と中性子に変わるのです。さらに、このパイ中間子と中性子が一緒になり、陽子に変わります。また、中性子がマイナス電荷のパイ中間子と陽子に変わることもできます。つまり、陽子と中性子は、パイ中間子を介して、絶えず切り替わりながら結びついていたのです(後にパイ中間子には、電荷をもたないものもあることがわかります)。」
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 ……なるほど、そうだったのか……文章で書かれると、なんとなく「分かったような」気にさせてもらえます(笑)。
 そしてタイトルの『なぜ重力は存在するのか』についてですが……重力の存在理由への直接的な答えはありませんでした。でも重力について考えることで、物理学を学べる本だったように思います。
 重力を考察したことで生まれたガリレオやニュートンの万有引力の法則は、物理学の基礎となりましたが、「光速不変の原理(観測者によらず、止まっている人から見ても動いている人から見ても、光の速度(光速)は常に一定の秒速約30万キロメートル)」が、ガリレオの相対性原理およびニュートン力学に重大な欠陥があることを示し、アインシュタインの相対性理論(時間の進み方は対象を記述する慣性系によって異なる)につながっていきました。そして……
「(前略)一般相対性理論は、物質が周囲の時空を歪めるということを明らかにしました。物質と時空は決して独立して存在するものではなく、相互に関係するものだったのです。特殊相対性理論が、それまで別のものだと考えられていた時間と空間を時空として統一したように、一般相対性理論は、等価原理を出発点として、それまで独立に考えられていた物質と時空という概念を、お互いに関連した概念として統一的に扱う理論体系を打ち立てたのです。」
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 さて、自然界のさまざまな現象は、つきつめると「電磁気力」「強い力」「弱い力」「重力」という4つの力で説明できるそうです。このうち「重力」は他の3つの力よりずっと弱い力ですが、他の力にない次のようなユニークな特性をもっています。
「(前略)実際、私たちが地表に立っていられるのは重力のおかげですし、天体の運行なども重力に支配されています。しかしこれは、重力の、他の3つにはないユニークな特徴のせいなのです。私たちの体や星などのマクロな物体は、多くの素粒子からできています。これらマクロな物体においては、他の3つの力は、プラスとマイナスの間で相殺されてしまうのです。たとえば電磁気力の場合、原子は中性であり、そのためマクロな物体では引力と斥力が互いに打ち消し合って、事実上、力が消えてしまいます。しかし、重力の場合、そうはいきません。重力には引力しかないため、マクロな物体を構成する素粒子間の重力は、打ち消し合うことなく単純に足し上げられていきます。この結果、塵も積もれば山となり、マクロな物体では重力が最も重要な力となるのです。歴史上、力の中で重力が最初に見つかったのもそのためです。
 しかし、粒子がたくさん集まったマクロな状態というのは、まさに量子力学の効果が均されて事実上消えてしまう状況に対応しています。そのため、現在のところ、重力と量子力学がともに重要になってくる場面に出会うことはほとんどないのです。」
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『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』……ニュートン力学から相対性理論、さらには量子力学まで現代物理学を文章で概説してくれる本で、とても勉強になりました。式がほとんどないので、数学や物理が苦手な方でも読みやすいと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『なぜ重力は存在するのか』