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第1部 本
数学・統計・物理
質量はなぜ存在するのか(橋本省二)
『質量はなぜ存在するのか 「質量の謎」から始まる素粒子物理学入門』2025/8/25
橋本 省二 (著)

(感想)
物質を構成する最小単位・素粒子の理論をひもといていくと、「質量があるのはおかしい」ことに気づきます。では、質量はなぜ存在し、どのように生じるのか?……質量の起源を追って、真空、重力、相対性理論、ゲージ理論、自発的対称性の破れ、量子色力学、クォーク、ヒッグス粒子、ダークマター……現代素粒子物理学について分かりやすく語ってくれる本で、主な内容は次の通りです(なお本書は、2010年に刊行された『質量はどのように生じるのか』の改訂新版だそうです)。
第1章 すべては理解できるものか ──元をたどってみる
第2章 質量とは何か ──押しても引いても動かない
第3章 ゼロと有限の境目 ──光のように速く飛んでみる
第4章 自転する素粒子
第5章 右と左が違うのは ──見えざる弱い力
第6章 沈むときは二人で ──真空に沈澱する素粒子
第7章 陽子に針を突きさす ──クォークの登場
第8章 真空の雑踏 ──何でもありの量子論
第9章 未知へのとびら、ヒッグス粒子
おまけの章 ダークマターもあるじゃないか
*
実を言うと、「質量=物体の重さ」としか思っていなかったし、「なぜ質量があるのか」なんて考えたこともなかったのですが、基本法則によれば、「物質を構成する最小単位・素粒子の質量はゼロ」なのだから、「質量があるのはおかしい」そうです。……へー、そうなんだ……。
「第1章 すべては理解できるものか」には、次のようなことが書いてありました。
「原子の中の波はどうなっているのだろう。波が原子核のまわりに巻きついている。波というものは周期的に正にふれたり負にふれたりと波打ちをくりかえすわけだが、一定の形に落ち着く、つまり定常波になるためには、原子核のまわりを1周回ったときにちょうど元に戻らないといけない。だから、原子の中の電子の波は勝手な波ではなく、1周回る間の波打ちが0回、1回、2回というふうに決まったものだけが許されることになる。」
……なるほど。原子はそうなっているのね。
あれ? たしか質量には「ヒッグス粒子」が関係していたはずだよね。原子にヒッグス粒子がまとわりついているから質量が生まれたような……と少ない記憶を拾い上げてみたら、この本には、ちゃんと次のように書いてありました。
「(前略)ヒッグス粒子が関係するヒッグス機構からは物質の2パーセント分しか導くことができない。残りの98パーセントは量子色力学(QCD)という別のところから生まれている。」
……量子色力学(QCD)? それが質量のほとんどなの? ……半信半疑で読み進めることに。
続く「第2章 質量とは何か」では……
「(前略)重力というのは質量をもつ物質の間に働く引力だ。重力がないところでは重さは存在しない。」
……とありました。うん、重力と質量が違うことぐらいは、さすがに知っているけど……ん? え? えーと、知ってるよね?(苦笑……なんだか、だんだん弱気に)。
ところで本書は、各章の末尾に「まとめ」が書いてあり、この章には次のように書いてありました。
・質量と重さは別のもの。地上では両者は比例関係にあるので意識しにくいが、宇宙空間では重さを感じることがない一方、質量は運動の方向や速さの変えにくさから認識できる。
・質量は物質固有の性質。質量を分解していけば、陽子・中性子の質量に帰着する
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……このように、本書は分かりにくいことを、可能な限り、分かりやすく教えてあげようという親切な構成になってはいます。
「第3章 ゼロと有限の境目」では、質量と相対性理論に関係があることが書いてありました。
・「(前略)物質の質量はその物体がもっている固有の性質であって、見る人が走っているかどうかによって変わるエネルギーとか運動量とかとはまったく異なる。」
・「(前略)有限の質量をもつ粒子は決して光速に達することはない。エネルギーが無限大になってしまうからだ。逆に光速で進む光では、対応する粒子(光子という)は質量ゼロでなければならない。光速で飛ぶことができるかどうか。これがゼロと有限を区別する。つまり、ある物質に質量があるかどうかという問いは、その物質が光速で飛べるかどうかという問いと同じということになる。」
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……「ある物質に質量があるかどうかという問いは、その物質が光速で飛べるかどうかという問いと同じ」なんですか!
そして「第4章 自転する素粒子」になると……
「結局のところ、陽子のまわりを回る電子は、光を失ってエネルギーを失いながらあるところまでは陽子のほうに落ち込んでいくものの、あるところでこの不確定性関係の限界に到達してそこで落ち着くことになる。こうして、原子は安定して存在する。原子が存在すること自体が、電子が波であるということの一つのあらわれなのだ。」
……などということが書いてあり……このあたりが私に理解できる(かもしれない)ことの限界だったような気がします……。
そして「第6章 沈むときは二人で」のまとめには、次のように書いてありました。
・ボース粒子とフェルミ粒子はまったく異なる性質をもつ。多数のボース粒子が最低エネルギー状態で集まるボース―アインシュタイン凝縮は、例えばヘリウム超流動を引き起こす。フェルミ粒子は対を作ることでボース粒子と同様に凝縮することができる。超電導はこうして起こる。
・南部陽一郎は、粒子と反粒子がペアを作って真空中に凝縮するというアイデアをもち出した。この真空中を進む粒子では、右巻き粒子と左巻き粒子が混ざり合う(カイラル対称性の自発的破れ)。本来は質量ゼロだった素粒子が質量を獲得するメカニズム。
……質量については……
「(前略)粒子と反粒子のペアが凝縮した真空の中で、粒子が行きつ戻りつをくりかえして思うように進めなくなり、それが質量の源になっている。」
……なるほど、それが「質量の源」なんですか……。
ところが質量の話はここで終わらず、さらにクォークへと進んでいきます。ただ……私のライフはここでゼロになってしまったので、この先の紹介はできません(涙)。こんな状態で、本書の紹介をするのはダメではないかとも考えたのですが、少なくとも「質量のことを考えるためには、相対性理論や素粒子物理学の知識が必要」だということを知ったことに価値があるような気がしたので、不十分ではありますが、ここで紹介させていただくことにしました。物理学が得意な方には、たぶんとても役に立つ本だと思います。
『質量はなぜ存在するのか 「質量の謎」から始まる素粒子物理学入門』……「質量はなぜ存在し、どのように生じるのか?」の謎を追うことで、相対性理論、ゲージ理論、自発的対称性の破れ、量子色力学、クォーク、ヒッグス粒子、ダークマターなどの現代素粒子論の基本的な考え方を「数式なし」で語ってくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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『質量はなぜ存在するのか』