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第1部 本

医学&薬学

体内時計の科学(フォスター)

『体内時計の科学: 生命をつかさどるリズムの正体』2024/7/29
ラッセル・フォスター (著), 高橋洋 (翻訳)


(感想)
 過去数十年の間に、体内時計と私たちの24時間の生物学的サイクル(概日リズム)の科学に関する発見が爆発的に増えています。この睡眠と生活のリズムが、私たちの行動、環境との関わり方、そして誕生から老齢期までの経過によって変化することを詳しく解説してくれる本です。
 最終章(第14章)に、まとめのようなものがあったので、まずそれを紹介します。
「本書の主なメッセージは、「概日リズムは、私たちの生体機能のあらゆる側面に埋め込まれており、それを無視すれば危険な状態に陥りうる」というものである。ここまで概日システムや睡眠の健康を増進するために必要な活動やその理由について取り上げてきた。要するに、その種の「矯正手段」は認知、健康全般、代謝、フィットネス、寿命を改善する方向に作用する。」
 ……概日リズムを司る体内時計は、私たちの身体が効率よく働けるように「予測して準備」しているようです。「はじめに」には……
「体内時計は単に時間を知らせるだけでなく、時間の予測や、少なくとも環境内の規則的なできごとの予測を可能にする。(中略)私たちの身体は、しかるべき時間と場所において適量の最適な資源を確保する必要がある。体内時計は、このニーズを予測することができる。」
 ……と書いてありました。
 そして概日リズムの具体的な働きには、次のようなものがあるようです(ごく一部の抜粋紹介です)。
・「現在では、免疫反応のあらゆる側面が概日システムによって調節されていることが知られている。皮膚はもっとも重要でありながらも見落とされている免疫防御手段の一つで、ウイルスや細菌などの病原体が身体に侵入することを阻止する非常に効果的な防壁として機能している。(中略)皮膚の浸透性は夕方から夜間にかけて高まり、午前から日中にかけて低下する。この事実は、夕方には皮膚からの水分の蒸散が高まることを意味する。だから私たちは、皮膚が乾燥する夕方から夜間にかけて皮膚のかゆみが増し、それが皮膚炎や乾癬によって悪化するのだ。(中略)皮膚の増殖にも、概日リズムが存在することが報告されている。増殖や、古い皮膚の剥離が最も高い割合で生じるのは真夜中頃で、古い皮膚についた細菌はそれによって除去される。日中に皮膚を傷つけたりやけどをしたりすると、夜間と比べて二倍以上速やかに治癒する。」
・「概日システムは、空腹感や消化から代謝ホルモンの調節に至るまで、代謝のあらゆる側面に影響を及ぼす。」
・「(前略)概日システムは二四時間を通じて生じる変化をコントロールしている主体であり、ホメオスタシスの設定点はこの概日システムによって細かくコントロールされている。活動や休息にともなう必要性の変化に対しては、設定点の変化によって準備が整えられる。」
   *
 この「概日リズムに混乱が起こる(SCRD)」と、疲労、睡眠困難、認知的問題、記憶喪失、身体の痛み、消化管問題、見当識障害、肥満など、身体にさまざまな障害がおこります(時差ぼけはSCRDの典型)。SCRDになりやすいのは、夜間労働者と、頻繁に複数のタイムゾーンを横切る旅行をしている人だそうです。
 そして概日リズムは身体のホルモンなどの調節も行っているので、薬の服用や治療は、それがもっとも必要とされ、効果が期待できる時間帯に行われるべきなのだとか。(それを研究しているのが「時間薬理学」です)
 しかもなんとSCRDは、認知症とも関連がありそうで……可能なかぎり防止したいと願ってしまいましたが、そのための参考になりそうなのが、次の「がん患者の概日システムを安定させるアプローチ」。これを実行することで、生活の質の改善、生存率向上が期待できそうです。
1)適切な時間に食事を取る
2)日の出時と日没時に適切な量の光を浴びる
3)夕方における光への曝露を減らす
4)一貫した睡眠/覚醒のスケジュールを遵守する
5)暗さ、室温、マットレスや枕の質など、睡眠空間を適切に調整する
6)睡眠薬の使用は最小限に留める
7)日中の警戒感を高め、居眠りを減らす
8)就寝間近になってからは、コーヒーなどの刺激物の飲用を避ける
   *
 ……これらは一般的な健康本で「良質な睡眠を得るための活動」として紹介されているものとほぼ同じなので、一般人が行っても生活の質の改善が期待できそうに感じました。
 またSCRDは腸内細菌とも関係があるようです。
・「(前略)最近になって、SCRDによってマイクロバイオーム(中略)が変化することが認識されるようになってきた。特筆すべきことに、マイクロバイオームの変化は代謝やエネルギーのバランス、さらには免疫系の経路までをも変えることがあり、その種の混乱はメタボリックシンドローム関連の問題をもたらしうる。」
・「現在では、SCRDが腸内細菌を変化させて、腸管上皮細胞内の概日時計を混乱させる場合があることを示す強力な証拠が存在する。概日時計の混乱は、代謝障害を引き起こしうる。」
・「(前略)マイクロバイオームの混乱は睡眠の阻害、ならびにうつ発症のリスクの上昇をもたらす。」
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 ……SCRD(体内時計の混乱)は、身体だけでなく精神にも問題を起こしてしまうようです。
『体内時計の科学: 生命をつかさどるリズムの正体』……私たちの生活や人生に大きな影響を与えている体内時計について、最新研究を含めて具体的に詳しく解説してくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『体内時計の科学』