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第1部 本

医学&薬学

本物の医学への招待(北原大翔)

『本物の医学への招待 驚くほど面白い手術室の世界』2024/8/2
北原 大翔 (著)


(感想)
 世界最高峰のシカゴ大学心臓外科で働く「本物の外科医」の北原さんが、「外科医とはどんな生態をしているのか」、「手術室では一体何が行われているのか」という普段知ることのない、知らなくてもいい、できれば一生知ることなく過ごしたい、外科医と手術に関する疑問に答えてくれる全く新しい教養書です。
「まえがき」には、次のように書いてありました。
「この本は、私が日本とアメリカ、両国で働いていた経験を礎に、医師の視点から見た病院・医療の実態や、外科医として手術室の中で体験した事象を、すべての方々に理解してもらう目的で作りました。」
 ……この本は、医学(特に心臓外科)について紹介してくれる本ではありますが、1ページまたは見開き完結するQA形式になっていて、興味のあるページから自由に読むことができます。
 また難しい手術や体の仕組みは、北原さんがノートに描きためたイラストで解説してくれるし、ところどころに珠玉のギャグが散りばめられているので、とても気楽に楽しく読み進められました(笑)。
 さて「第1章 驚くほど面白い手術室の世界」では、手術室で何が起こっているのかを具体的に知ることができます。
 心臓手術など「全身の血液の流れを止める」手術は、スピードが求められますが、その理由は、酸素のない状態では、脳が5分とたたないうちに死んでしまうからだそうです。
 その制限時間を伸ばす方法としては、
1)体を20℃くらいに冷やす(20分ぐらいまで伸ばせる)
2)機械に頼って頭にだけ血液を流す
 ……などがあるのだとか。
 これらの情報が、QA形式で短い記事で綴られていきます。例えば……
「021 手術はどれくらいの人数で行われるのか」には……
「たくさん。
 手術には、外科医、外科医の助手、看護師、麻酔科医、臨床工学技士、手術道具の洗い師、医療機器を扱う業者など、本当に大勢の人間が関わっている。ただし、手術で何か起きたときに最終的に判断を下せるのは、外科医だけである。なぜなら、患者を治療する責任を持っているのが外科医だからだ。(後略)」
   *
 そして「022 なぜ2回目の手術はむずかしいのか」には……
「(前略)基本的に心臓や肺などの臓器は薄い膜のようなものでつながっており、この膜をうまくはがすことで、それぞれの臓器を傷つけることなく手術をしている。ところが一度手術をすると、はがれた膜が治っていく過程で、臓器同士が通常とは違う形でくっついてしまい、この境目が分かりづらくなってしまう。そのため、2回目の手術がむずかしくなるのだ。(後略)」
   *
 ……という感じに、とても分かりやすく解説してくれるのです。
 興味津々で読み進めているうちに……
・手術で取り出した臓器は、病理検査してから捨てる。
・心臓手術をするときには、胸の真ん中の骨(ネクタイみたいな形をしている)を真っ二つにする。(最近では、胸に開けた小さな穴からロボットアームを入れて手術する「ロボット手術」もあるので、骨を切らないこともある。)
・心臓手術をするときには、血液を空っぽにする(回収した血液を全身に送り返すためには、人工心肺というポンプを使う。人工心肺は血液量のバランスがとても大事なので、専門家が直接、慎重に操作する)。
・手術中の心臓を止めるために、カリウムを打つ(高濃度のカリウムは心臓の働きを止める効果を持っている)。手術が終わったら、冠動脈に通常の血液を流すとカリウムは洗い流されるので、心臓は再び動き出す。
・医療用ワイヤーは血管のあるところなら全身に通すことができる。このワイヤーを手がかりに、特殊な風船やマジックハンドも通せるので、ワイヤーは治療によく使われている。
・心臓の治療で、足のつけ根の血管から管を入れることがある理由
1)皮膚に近いところにある太い血管で入れやすいから
2)血を止めるのが簡単だから(皮膚を抑えるだけで止められる)
   *
 ……などなど、「手術室で起こっていること」について詳しく知ることが出来ました。
 また日本とアメリカの病院には、給料を含め、いろいろな違いがあるようですが、アメリカにはPAという職業もあるそうです。
「アメリカにはPA(フィジシャンアシスタント)という医師の仕事を代わりに行う職業が存在し、彼らが外科医の代わりに手術の大部分を行っている。彼らは同じことを何度もやっているので、縫ったり切ったりする技術だけでいうならば、外科医よりもうまくできる人はたくさんいるのだ。」
 ……最近は医療現場で「医師不足」が問題になっているようですが、外科手術などでは、実際に臓器の手術をする前に、その周辺の皮膚や骨を切り開くなどの作業が必要なはずなので、外科医が手術する前後にそれを代わりに行ってくれるPAを養成するのも、解決策の一つになりそうな気がしました。
『本物の医学への招待 驚くほど面白い手術室の世界』……「医療現場の実際」について教えてくれるだけでなく、医療機器や医学用語、さらに医療ドラマと現実は違うことなど(「手術室は適温になっているので、看護師が医師の汗をふくことはほとんどない」など)、いろんなことを教えてくれる本でした。ユーモアにくすくす笑いながら、隙間時間に1~2ページずつ読んでいくと、医療や病院についての知識がいつの間にか増えていくという素敵な本なので、医療に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『本物の医学への招待』