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第1部 本

ユーモア

ウィローデールの手漕ぎ車(ゴーリー)

『ウィローデールの手漕ぎ車: または ブラックドールの帰還』2024/10/29
エドワード・ゴーリー (著), 柴田 元幸 (翻訳)


(感想)
「ウィローデールのある夏の午後、エドナ、ハリー、サムの三人は、何か面白いことはないかと、ぶらぶら駅まで歩いていきました。」という文章から始まる、大人三人の謎めいた旅を描いた絵本です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 駅についたものの、プラットフォームには空の木箱しかなかったので、彼らは引き込み線に置いてあった手漕ぎトロッコで、遠出をすることにしました。
 気ままな旅をしている三人ですが、なぜかところどころで、さまざまな災厄を目撃してしまいます。一見すると偶然のようい見える出来事は、どこか関連性もあって、何か不吉な物語が暗示されていきます。たとえばそれは一人の捨て子(おそらく私生児)と錯乱した母親、さらに彼らに何か関わりがある電信技士の男の物語だったり、崖の上の御殿の所有者の破滅的行為だったり、廃墟になった酢醸造所に隠れていた男だったり……三人はそれに関心を抱くでもなく、たんたんと眺めながら、ひたすらトロッコで進んでいくのです。
 このトロッコの旅は長いようで、最初は夏服だった三人は、終わりころには高価そうな毛皮のコートをまとっています。
 そして最後のページ。三人は曇り空のなかで、また手漕ぎ車に乗っていて、その先には黒く開いたトンネルの口が……。
「日暮れとき、三人は鉄が丘のトンネルに入っていき、向こう側から出てきませんでした。」
   *
 ……うーん……なんとも言いようがない終わりかた……。
そしてこの三人の旅のなかで目撃された出来事で、いくつもの物語が妄想できそう……どれも不吉なものばかりですが……。
 これらの出来事や、彼ら三人の旅が暗示する「いくつもの謎」について、誰かに「答え」を教えてもらいたくなりますが、作者がゴーリーさんなので、「答え」などないんだろうなー……と思っていたら、柴田さんの「訳者あとがき」に、ちゃんと書いてありました。
「(前略)訳者が自信を持って言えるのは、この本のどこかに全体の謎を解く「鍵」があって、その鍵を使えば誰もが同じ「答え」にたどり着ける……などということはこの本に限らずいかなるゴーリー作品にもない、ということのみである。」
 ……まさしく、その通りですね(笑)。
 それでも個人的には、この本、とても楽しめました。
 それというのも彼ら三人は、夏服といい毛皮のコートといい、とても裕福な感じをまとっていて、「高等遊民」ってのは、まさにこういうのをいうんだろうなーと思ってしまったので……(苦笑)。こんなに長い「あてのない旅」をしたこともない一庶民としては、彼らの「あてのない旅」を、まさに無関係な他者として「傍観」するだけで……傍観者たちの旅を、さらに傍観している感じが、なんか不思議で楽しかったのでした……(苦笑)。
 いろんな妄想のネタをたくさん提供してくれる不思議な絵本です。ミステリー小説好きの方には、とくに楽しめると思います。ぜひ読んで(眺めて)みてください☆

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『ウィローデールの手漕ぎ車』