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第1部 本

防犯防災&アウトドア

アウトドア

フィールド調査のための安全管理マニュアル(日本生態学会)

『フィールド調査のための安全管理マニュアル』2025/3/24
日本生態学会 (監修)


(感想)
 生態学・地理学・地質学などフィールド調査(野外調査)を行う研究者が、事前準備やトラブル対応で気を付けるべきことをまとめた手引書で、主な内容は次の通りです。
1. 総論
安全なフィールド調査のための基本的心得/野外活動におけるリスクマネジメントの考え方/フィールドではどんな事故が起こるか/研究者の管理責任
2. フィールド調査における安全管理の流れ
調査実施前の安全管理/調査準備/調査中の注意/重大事故発生時の対処(事故現場)/重大事故発生時の対処(事故対策本部)/メンタルケアと専門家への連絡/事故報告書の作成
3. フィールドで安全に調査を行うための基礎技術
遠隔地通信/地図と利用にあたっての注意/救急法/危険生物および感染症への対処/気象予測/ロープワーク
4. ケース別安全管理
森林・草地/雪山/木登りと林冠調査/洞窟/渓谷・河川/海洋・水辺
5. 資料編
事故事例集/フィールド保険について/装備リスト/参考文献/参考URL
あとがき
   *
「1. 総論」の冒頭には、次のように書いてありました。
「フィールド調査を安全に行うために、最も重要なことは、調査そのものをあきらめる勇気をもつことである。データが十分とれないと、もちろん困る。だが、データはとれても死んでしまっては元も子もない。」
 ……まったくその通りですね!
「3. フィールドで安全に調査を行うための基礎技術」には、クマの生息地でキャンプをする場合は、食料や生ゴミは厳封し、テントから十分に離れたところに置くという注意の他に、次のことも書いてありました。
「クマに食料やザックなどを一度とられた場合は、取り返してはいけない。クマは自分のものと認識したものに執着するので、それを取り返すことは挑発行為となる。」
 ……こんな時、せっかくの調査データがなくなってしまう! と、とっさに奪い返したくなりそうですが、それは非常に危険な行為なんですね……(怖)。
 ちなみにクマ撃退スプレーは、イノシシやニホンザルなどにも有効とのことなので、山林でのフィールド調査には、ぜひ携帯したいものです。
 またフィールドワークには危険がつきまとうものですが、事前調査や技術で被害を最小限にできるようです。
・「(前略)遭難者本人の行動に問題が全くないにもかかわらず遭難するケースは比較的少ない。つまり、大部分の事故にはヒューマン・エラーが関与する。このようなエラーの多くは、事前のトレーニングとリスクアセスメント(危険の予測)によって排除できる。これにより事故を未然に防ぐ、または被害を最小限にとどめることが可能である。」
・「登山などの野外活動に必要とされる技術には、救急法(蘇生・止血・包帯など)、気象予報(天気図・観望天気)、読図、ロープの操作、通信技術、雪上・氷上行動技術、ビバーク(不時露営法)などがあり、ほとんどのものはフィールド調査に流用可能である。」
  *
 ……この本には、救急法や気象予報、ロープの操作についても概要説明がありました。
「2. フィールド調査における安全管理の流れ」では、「フィールド調査における安全管理フローチャートの例」だけでなく、旅程表や活動計画書、研究者の個人情報カードなどの書式例も掲載されているので、とても実践的に参考になると思います。
 ちなみに個人情報(血液型・保険情報・歯の治療歴など)に関しては、本人の了承なしに知るべきではないものの、重大事故の時には救援活動のための重要な情報になるので、「重大事故発生時のみ開封することを条件として厳封して組織として厳重に保管」するという方法があるそうです。
 そして個人的に一番参考になったのが、「3. フィールドで安全に調査を行うための基礎技術」。ここでは連絡手段や地図、救急法や気象予報などの解説がありました。
 例えば地図については……
「(前略)フィールド調査で役立つのは、登山用に設計されたGPSである。最新型はメモリー内に地形図を取り込んで使用する。もともとGPSは水平方向の座標の精度に比べて、高さ方向の精度が悪い。このため、登山用GPSでは気圧高度計を併用して、高さ方向の精度を高める工夫がなされている。(中略)
 GPSは非常に便利なツールだが、弱点もある。地図の表示画面が小型なので、広範な地形把握には不向きである。森林内や渓谷内では、信号にマルチパス歪みが生じやすい。衛星の信号が受信できない場合もある。(中略)さらに電池切れだと稼働しない。」
 ……もちろん紙の地図が一番重要ですが、登山用GPSというものもあるんですね。
 また救急法では、対処法概要の他に……
「日本赤十字社の主催で頻繁に開かれている「救急法基礎講習」を、最低限受講しておきたい。この講習は、講習時間が4時間と短い。基礎講習受講者は救急員養成講習(10時間)を受講でき、けがの手当てや搬送などについても学べる。同様の講習は消防署も行っており、こちらは3時間・8時間・24時間などのコースを設定している。内容は自治体ごとにかなり違うので、確認が必要である。」
 ……日本赤十字社や消防署で講習を受けられるんですね。
 また気象予測については「ウェザーニュース」や「国際気象海洋株式会社(IMOC)」などの役立つ情報の他、次のように書いてありました。
・「(前略)天気図読図法が書かれた書籍で、典型的な気圧配置とそれがもたらす気象変化パターンを頭に入れるとよい。」
・「雲・風・体感気温・空の色などから短期間の天気予測を行うことを観望天気という。雲や風は直接的に気象現象を起こす主体であり、その変化を正確に分析することは今も昔も気象予測の原点である。」
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『フィールド調査のための安全管理マニュアル』……リスクマネジメントの基本的な考え方から、場面別(森林、雪山など)の具体的な安全知識までを総合的に解説してくれる本で、とても勉強になりました。内容が充実しているのにサイズが意外にコンパクトなので、通勤通学の途中でも読みやすいと思います。フィールド調査をしている方はもちろん、一般の方も、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『フィールド調査のための安全管理マニュアル』