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第1部 本
医学&薬学
私たちは電気でできている(アディー)
『私たちは電気でできている: 200年にわたる生体電気の研究の歴史と未来の展望』2024/6/27
サリー・アディー (著), 飯嶋貴子 (翻訳)
(感想)
骨、皮膚、神経、筋肉など、私たちの体のすべての細胞は、小さな電池のように電圧を持っている……200年にわたる生体電気の研究の歴史と未来の展望を、詳しく紹介してくれる本です。
電気を当てると死んだカエルの筋肉が痙攣することを発見して生体電気研究の端緒を開いたイタリアの物理学者ガルヴァーニから、生体電気の科学的研究は始まりました。ところがこの研究を真っ向から批判したヴォルタが、世界初の電池を発明してガルヴァーニに対抗。ガルヴァーニの「動物電気」説は影をひそめてしまいます。
その後も、「動物電気」は、復活するとインチキ治療に使われてしまって潰されるなど大変な紆余曲折を辿りましたが、ようやく現在、その真の姿が明らかになりつつあります。
実はまさに「私たちは電気でできている」ようで、「はじめに」には次のように書いてありました。
「人間の体は、(中略)「生体電気」で動いている。その電流は、電子の代わりにカリウム、ナトリウム、カルシウムといった、ほとんどがプラスに帯電したイオンの働きによって生成される。これにより、すべての信号が脳の内部を通り、神経系を介して脳と体内のすべての器官との間を行き来することで、知覚、運動、認知が可能となる。」
……この生体電気があるからこそ、私たちの脳は体に信号を送ることができるのです。
それどころか、明らかになりつつある生体電気の能力には凄まじいものがあるようで、「訳者あとがき」には次のように書いてありました。
「細胞や組織、生物全体が持つ電気的特性である「エレクトローム」を理解することが、医学の進歩において極めて重要な役割を果たすと著者が主張するように、本書の後半で彼女は、生態電気の医療への応用に目を向ける。電気は、骨や皮膚、神経や筋肉など、私たちの身体にあるすべての細胞を流れている。脳が体の各部分に信号を送ることができるのも、私たちが子宮の中で決まった姿形に成長するのも、けがをしたときに自己治癒力が発揮できるのも、すべてこのおかげなのだ。生体電気に何らかの異常が起きると、がんをはじめとするさまざまな病気になる可能性がある。したがって、この生体電気を制御したり、修正したりすることができれば、私たちの健康は今よりもはるかに改善されるだろう。さらに、四肢麻痺の患者のための脳インプラントや骨髄再生、身体の一部を失った人のための幹細胞による身体組織の修復、パーキンソン病に有効なDBS(脳深部刺激療法)、がん治療や不妊治療、胚発生、イオンチャネル薬やウェアラブルデバイス、アンチエイジングにいたるまで、医療分野に応用できる生体電気の可能性は計り知れない。」
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例えば、皮膚にケガをしたときも、次のように生体電気が、その修復に大きく関わっています。
「(前略)損傷電流が作る自然発生の電界は、細胞全体を傷に移動させるのだ。それは身体の緊急作業員(構造を再構築するケラチノサイトと線維芽細胞)やクリーンアップ要員(マクロファージ)を誘導し、かれらに指示を出す。これらはすべて、表皮を再構築するために力を合わせて働く。(中略)
ここから修復プロセスが始まる。そして修復が始まると、損傷電流とそれに関連する電界がフェードアウトしはじめる。傷が完全に癒える頃には、検出される損傷電流は存在しなくなる。」
……このような生体電気をうまく活用することで、がん治療や免疫に関わる病気など、さまざまな治療が大きく進んでいく可能性が大いにあるのですが、まだ研究段階のものが多いだけでなく、倫理・道徳上の問題もあります。さらに治療だけでなく、これらを人間のエンハンスに使用していいのかなど、まだまだ多くの課題があるようでした。「訳者あとがき」には次のようにも書いてあります。
「(前略)先人たちが命を賭して発見した生体電気は、私たちの命を救うだけでなく、命を制御するものへと発展していくのだろうか。私たちは自らの意識をも、脳に埋め込まれた小さな装置に託すことになるのだろうか。言葉を介さずとも相手の考えていることが「テレパシー」でわかってしまったら、以心伝心とか微細な心の機微までをも汲み取る、人間が本来もっている、いかにも人間らしい能力までもが失われてしまうのだろうか。」
……生体電気は私たちの身体に必要不可欠で、大きな役割を果たしているだけに、その人工的な操作は、慎重になされて欲しいと願わずにいられません。
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『私たちは電気でできている: 200年にわたる生体電気の研究の歴史と未来の展望』……「21世紀最大の科学的発見」となる可能性を秘めた生体電気について、歴史から最新研究、さらにその未来まで総合的に詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました。今後は遺伝子治療や肝細胞と並び立つ、未来の医療の中心課題の一つとなりそうな気がします。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『私たちは電気でできている』