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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
ADAPTATION アダプテーション(肱岡靖明)
『ADAPTATION アダプテーション 適応 気候危機をサバイバルするための100の戦略』2024/4/16
肱岡 靖明 (編集), 根本 緑 (著)
(感想)
「気候変動適応」とは一体何なのか……実際の写真とともに具体的な「適応」への取り組みを紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
・はじめに
(適応とは/本書の使い方/読者のための参考情報)
・農業
(栽培時期の変更/品種改良・他品種の導入/土壌・施肥管理/病害虫 ・雑草対策)
・林業
(マツ枯れ/人工林/きのこ)
・水産業
(養殖技術の改善/野生魚の保全・河川環境整備/魚病対策/養殖品種の開発/放流方法の改善・漁獲規制の強化/食害対策/消えゆく海の森「藻場」の再生/将来に向けた対策/高付加価値化)
・水環境・水資源
(湖沼/河川/沿岸域/地表水/地下水/農業用水)
・自然生態系
(高山帯/自然林・二次林/里地里山/竹林/スギ人工林/ニホンジカ/淡水生態系/沿岸生態系/サンゴ/マングローブ/生物季節 ・ 生物季節モニタリング/生態系サービス/Nature based Solution)
・自然災害
(河川洪水/流域治水/生態系を活かした気候変動適応/生態系を活かした防災・減災/ハザードマップ ・ 地先の安全度マップ/タイムライン/防災訓練 ・防災教育/アプリ/垂直避難/遊水地/田んぼダム/廃棄物/集団移転/高潮・高波/内水氾濫/下水管渠/土砂災害/強風)
・健康
(高齢者・乳幼児への配慮/学校・幼稚園/作業環境管理/グリーンカーテン/クールスポット)
・産業経済
(TCFD/ESG投資/グリーンボンド/TNFD)
・国民生活・都市生活
(道路交通/地下鉄/ヒートアイランド)
「はじめに」によると、気候変動を抑える対策には、大きく分けて次の2つがあるそうです。
1)緩和:省エネや資源の有効活用で、温室ガスの排出を抑制する
2)適応:発生しうる気候変動の影響を予測し、人や自然、社会の仕組みを調整する
そして2018年6月に、初めて法的な枠組みとして適応策を推進するために制定された「気候変動適応法」の5つの柱には、次のものがあるのだとか。
1)適応の総合的推進
2)情報基盤の整備
3)地域での適応の強化
4)適応の国際展開等
5)熱中症対策の推進
*
「気候変動」への対応としては、「温室ガスの排出抑制」をすぐに思い浮かべてしまいますが、進みつづけている温暖化に対して「適応」する(仕組みを調整する)ことも、それ以上に急務なのだと思います。
この本は、いかに「適応」していくかを中心に、各産業での取り組み、自然や健康、都市生活などについて、総合的かつ具体的に紹介(解説)してくれます。
最初に取り上げられているのは、「農業」の「水稲」。その適応策の概要は……
「安定した米生産のためにとられる適応策は、栽培時期の変更、管理方法の変更、品種改良・多品種導入、および病害虫の防止の4つに大別されます。」だそうです。
具体例もいくつか紹介されていましたが、その一つが富山県の新品種「富富富」。これは、DNAマーカーによる遺伝子診断技術を用い、高温に強い形質を発揮するための遺伝領域を突き止めた世界初の例となったそうです。この品種は「いもち病」にも強いようで……すでにいろんな取り組みがなされているんですね!
また「果樹」についても……
「気候変動の影響を受けやすいといわれる農業生産において、特に適応性の低さが懸念されるのが果樹です。一度植栽すると同じ樹で30~40年栽培することになるため、1990年代以降の気温上昇に適応できない場合が多いと考えられています。」
これについては、栽培技術による対応(遮光資材を樹上や果実に被覆する。細霧を散布し周辺気温を下げるなど)の他、高温耐性品種への改植、樹種転換・産地拡大などが行われているようで、具体例として「愛媛県宇和島のブラッドオレンジ栽培」などが紹介されていました。ブラッドオレンジは、イタリアのブランド果実で、高温に強い高級品種だそうです。宇和島では、平均気温がこの30年で1℃上昇してイタリア・シチリア地方と同じ程度の気温になったので、ブラッドオレンジの生産が望める環境へと変化したことをチャンスと捉え、県、農協、生産者、食品会社などが協力して取り組んでいるのだとか。ピンチをチャンスにする……素晴らしい取り組みのようです。
また「水産業」も、日本近海の海水温がこの100年で約1℃上昇するなど、大きな影響を受けているようです。
海面養殖業の適応策としては……
「日本で養殖される種は、ブリ類やマダイを中心に市場性のあるさまざまな魚類や貝類など多岐にわたります。養殖業における適応策には、大きく分けて養殖技術の改善、魚病対策、養殖品種の開発、漁場モニタリングが考えられます。」
そして海藻養殖の展望は……
「海藻養殖の適地は今後減少すると予想されています。高水温下でも養殖漁業を継続するために、最新技術を用いた生産管理や食害対策とともに、高水温耐性品種の選抜や作出が積極的に進められており、暖海性品種の導入も検討されています。」
……なのだとか。
また、とても良い試みだと感じたのが、「自然災害」での「田んぼダム」。大雨の際に雨水を一時的に田んぼに貯留する仕組みで、新潟県見附市の取り組みなどが紹介されていました。
そして「都市緑化・雨庭」では……
「京都駅ビル内に雨庭を展示する「緑水歩廊」は、京都で雨庭の導入を試みた最初の事例のひとつです。既存の建築物に設置できる雨庭として計画され、その植栽は京都の原風景である「里山」「棚田・湿地」「池沼」がモチーフとなっています。駅ビルの高低差を利用し、屋上に降った雨水と地下湧水が徐々に下の階のプランターに供給される仕組みで、湧水の汲み上げには太陽光発電の電力のみが使われています。」
……これも良い試みのようですね! 「既存の建築物に設置できる雨庭」のようなので、他のビルでも実行可能なのかもしれません。
こんな感じで、自然災害や健康、水環境、生態系、そして農業、林業、漁業を含むあらゆる産業・経済活動のリスクに備えるための事例が、たくさん紹介されていました。
気候変動は農業や林業、水産業だけでなく、建設業にも大きな影響を与えているようです。
「現時点で、国内の職場における熱中症死者数・死傷者数は建設業がトップであり、現場における熱中症対策は急務です。」
……私たちが気候変動にどう「適応」していけばいいかについて教えてくれる本でした。国立環境研の公式サイト「A-PLAT」に数年にわたり掲載された記事を再構成し、各業界/関係者からの声や実例を追加して解説してくれる『ADAPTATION アダプテーション 適応 気候危機をサバイバルするための100の戦略』です。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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『ADAPTATION アダプテーション』