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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

日本の気象観測と予測技術史(古川武彦)

『日本の気象観測と予測技術史』2024/6/28
古川 武彦 (著)


(感想)
 長年、気象庁で観測・航空気象・予報業務に携わってきた気象学者の古川さんが、日本の気象観測の歴史とともに、気象観測の全体像と仕組みについても解説してくれる本です。
「第1章 赤坂葵町・代官町時代(1875~1923)」では、1875年に、東京気象台が赤坂葵町に誕生したことが書いてありました。最初の天気予報と天気図の写真もあります(この時の観測所は22カ所。観測種目は気圧、風、雨量、湿度、天気)。
 とても驚いたのが、「コラム1 日露戦争の頃の通信インフラ」。
「(前略)すでに日本とその周辺には有線電信・電話回線、海底ケーブル回線、洋上無線を利用した一種のネットワークが形成されていた。(中略)
 海外との通信網であった海底ケーブルは、明治初年にすでに長崎~上海、長崎~ウラジオストク間が開通していた。」
 ……ええっ? 海底ケーブルは明治初年にはすでに敷かれていたんですか!
続く「第2章 竹平町時代(1923~1964)」では、1948から高層気象観測(ラジオゾンデ)での定常的観測始まったことが紹介されていました。レーウィンゾンデによる上空の観測データは数値予報の計算に必須の要素で……
「(前略)国内で16カ所、世界で約1,600カ所で、一斉に同じ時間(世界標準時00時と12時、日本時間午前9時と21時)に行われている。」
 ……そうです。なんとこれは使い捨てで、一回の飛揚観測コストは約3万円、年間予算は数億円なのだとか!
 またこの章でとても面白かったのが、「東洋初の電子計算機導入」の顛末。
1959年、当時世界第一級の電子計算機IBM704が横浜港に到着し、大手町の気象庁の近くの「IBM704のために特別に新築された電子計算室ビル(空調付き)」に入れられたそうです。この電子計算機は真空管式。残念ながらこの時にはまだ、本格的な国産の電子計算機はなかったそうです(計算機としてなら、一応は富士通のFACOM-100(リレー式)(1954完成)などがあったようですが……)。
 この時代には、電子計算機のための「専用ビル」が必要だったんですね(笑)。ちなみにFortran(科学計算の計算機言語)の使用も、日本で最初に気象庁で始まったそうです。そしてこれが、「数値予報の幕開け」へ繋がりました。
 さらに1974には、アメダスの運用が始まりました。
「「アメダス」は世界に先駆けて開発・展開された自動的な気象観測システム(観測ロボット)であるが、国際的に見ても、最も早く開発された先進的な自動気象観測システムである。」
 ……気象庁は、どんどん最先端技術を導入していたんですね!
 さらに「第3章 気象観測の高度化と数値予報の進化(1964~2021)」では、数値予報のことが詳しく解説されていました。
「(前略)数値予報は、大気の運動(振る舞い)を支配する物理的な原理や法則を定式化した「支配方程式」を用いて、気温、気圧、風、水蒸気などの気象要素の将来(時間変化)を予測し、種々の天気予報の基礎的なデータを生産することである。」
 そして観測から天気予報までのプロセスとしては……
1)観測:地上観測、高層観測、気象衛星、レーダー、航空機、海上観測
2)解析
2-1)電文処理(デコード)
2-2)品質管理(観測データが極所値や誤観測ではないかなどの解析)
2-3)客観解析(観測データが直近の予測モデルと比較して合理的かなどの解析)
3)予報(数値予報の実質的計算)
4)応用(ガイダンス、画像処理)
 ……などのことをしているようです(本文中には詳しい解説があります)。
 この他にも「富士山レーダー(1964~1989年)」や「気象衛星ひまわり(1977~)」など、日本の気象観測と予測技術にとって重要なものが、その経緯を含め、当事者ならではの視点でリアルに紹介されていました。
『日本の気象観測と予測技術史 単行本 ? 2024/6/28』……気象予報をはじめ波浪・地震・津波・火山についての情報を24時間体制で提供している、社会活動および防災において必要不可欠な機関・気象庁の仕事を中心に、日本の気象観測と予測技術の歴史を詳しく教えてくれる本で、とても参考になりました。明治時代の気象台などの歴史だけでなく、現在の気象庁で使われている最新技術の解説もあるので、日本の気象について本当に総合的に知ることが出来ます。気象に興味がある方はもちろん、科学好き、IT好きの方もぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『日本の気象観測と予測技術史』