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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
暮らしと霧の科学(井川学)
『暮らしと霧の科学』2025/3/27
井川 学 (著)
(感想)
霧についての科学入門書で、第一章では霧の定義や、水蒸気が水滴に変わるときどんなことが起こっているのか、どのような条件で霧が発生するのか、について詳しく解説、第二章では霧に関するさまざまな事柄を広く紹介、第三章では丹沢大山で行った霧の観測結果と、大気汚染により酸性化した霧の植物への影響や、30年余り観測を続けていた間に起こった大気環境の変化について説明、最後の第四章では霧についての今後の科学研究の重要性について述べています。
霧の定義は、「微小な浮遊水滴により視程が1km未満の状態」で、霧は少ない水滴量でも、空気中に均一に広がった小さな水滴により光が散乱することによって、1km先を見えなくするそうです。
そして雲は、「空気中の水分が凝結して微細な水滴や氷晶の群となり、高く空に浮いているもの」ですが、実は「雲と霧との区別は困難であり、雲が地上に接した場合を霧と呼んでいます。麓から見える山にかかった雲も、その中にいる人にとっては霧となります。」なのだとか。
また霧の発生は……
「霧の発生メカニズムにはさまざまなものがありますが、そのメカニズムによって、霧は滑昇霧、放射霧、混合霧、蒸気霧、前線霧、移流霧に大きく分類されます。滑昇霧は、昼間に日射によって暖められた山の斜面で谷風と呼ばれる上昇気流が起き、上昇した気塊(気温や湿度がほぼ均一な空気の塊)の気圧が低下して膨張し温度が低下することによって発生する霧です。放射霧は夜間の放射冷却で地面近くの空気が冷やされて生じる霧で、冬季に多くなります。盆地で見られる盆地霧はこれによるものです。混合霧は湿った暖かい空気と冷えた空気が混合して生じた霧、前線霧は前線での暖気と寒気の混合により生じた霧、蒸気霧は水面からの水蒸気が冷やされて生じた霧、移流霧は水蒸気を多量に含んだ空気が低温の地域に移流して冷やされて生じた霧です。」
……霧は、いろいろなメカニズムで発生しているんですね。
意外だったのは、「都市では霧が顕著かつ経年的な減少傾向にある」ということ。「(前略)霧の発生頻度減少の原因になるのは、地球の温暖化と都市化に伴う湿度の減少です。」なのだとか。
そしてもう一つ意外だったのは……
「(前略)意外に思われるかもしれませんが、日本では酸性雨による典型被害とされる湖沼や土壌の酸性化は顕在化していません。(中略)酸性雨とは、大気汚染成分が雨に溶け込んで生じるものであり、日本の雨も酸性になっています。しかし、酸性雨被害のあったヨーロッパや北米と違って、日本の土壌は酸への耐性が高かったのです。また、日本は降水量が多く、酸性の大気汚染成分が溶け込んでも、薄まった雨になりました。日本の大気汚染の環境影響は、大気汚染の基体成分自体とこれを吸収した霧や霧雨のような微小水滴による、人体や森林への被害です。なかでも霧は水滴径が小さく、大気中の水滴量が少ないために、大気汚染の状況下では低いpHとなります。」
……日本の土壌は酸性への耐性が高かったんですか。
『暮らしと霧の科学』……長年、霧の研究を行ってきた井川さんが、霧について総合的に解説してくれる本で、勉強になりました。気象に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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『暮らしと霧の科学』