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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

地図と地形でわかる日本の川と流域外分水(三橋さゆり)

『山の向こうから水を引け! 地図と地形でわかる日本の川と流域外分水』2024/9/26
三橋 さゆり (著)


(感想)
 なぜこの地域が豊かな水田地帯になったのか。なぜこの地域に工業が発展したのか。それらを「育てた」水の分配を、豊富な地図と写真で、わかりやすく解説してくれる「地図と写真でわかる、学ぶ。農業・工業のための国土造り」の本。次の10の流域外分水について、地図、写真と共に詳しく紹介されています。
・安積疏水(福島県/猪苗代湖の水で「不毛地帯」の安積台地開拓)
・両総用水(千葉県/房総半島南東部まで利根川の水を引き、水田を広げる)
・深良用水(神奈川県・静岡県/芦ノ湖の水を外輪山の外に出す)
・うそぶき放水路(山梨県/河口湖の水を相模川へ)
・愛知用水(長野県・岐阜県・愛知県/木曽川の水を知多半島先端、その先の島嶼部まで行き渡らせる知恵)
・吉野川分水(奈良県・和歌山県/和歌山県に流れ出す水を奈良県へ)
・愛媛分水・香川用水(四国四県/吉野川の水を瀬戸内へ)
・福岡導水(福岡県・佐賀県/水に乏しい福岡都市圏へ筑後川の水を渡す)
・通潤用水(熊本県/阿蘇の高原を潤す)
・宮古用水(沖縄県/宮古島の地下にダムを作り水を溜めて島全体へ)
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「川を流域でとらえるということは、地形を意識して川を見ること」なのだとか。そして地域外分水は……
「(前略)自然の摂理を大いに打ち破って、とある流域から隣の流域に、とてつもない人為的な力技で分水界の山を越えて、水を分けて移動させてしまっている「流域外分水」が世の中には意外とあったりするのだ。」
 ……ということで、この本は峠を越えたトンネルや、大きなダムなどを作ることで、流域外分水をした事例をじっくり見ることが出来るのです。
 トップバッターは、福島県の「安積疏水」。日本海側の阿賀野川流域から、太平洋側の阿武隈川流域へ水を流したダイナミックな流域外分水で、明治時代、お雇い外国人ファン・ドールンの指導で造られた有名な疎水です。次のように書いてありました。
・「(前略)疎水として異なる水系から通水するには、ネックとなることが二つある。一つは、地形に抗って水路を建設するには、最も効率がよく費用もかからず技術的に可能なルートを選ばなければならないということ。もう一つは、流域外分水において非常に重要なこととして、取水する水量が元々の既得権益である猪苗代湖下流の利水に影響を与えないようにすることである。」
・「(前略)特に水量の問題解決のために用いられた「実際に流量を測ってその実測値から取水量を決める」という手法は、当時の日本にはまだ存在しなかった西洋のやり方であった。こうした近代技術は、明治以降の日本全体の治水利水の基礎ともなっていったのである。」
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……「流域外疎水」につきものなのが、「分水で水を取られる側の既得権益を損なわないようにすること」で、その対策として、たいていの「流域外疎水」には、大規模なダムがありました。例えば、安積疏水の場合も「十六橋水門」で、猪苗代湖をダム化して水位をコントロールしています。この施設のおかげで……
「(前略)安積平野に必要量を導水できるだけでなく日橋川の渇水や湖岸浸水をなくすことができる。まさに一挙両得の施設となるのだ。」
 ……安積疎水は、水不足だった平野を潤すと同時に、洪水を防げる素晴らしいプロジェクトだったんですね! さらにダムがもたらす高低差を利用した水力発電所もあるのです!
「大谷一号水路橋」という写真は、周囲の農地が凹地なので、水路が地上から持ち上がったような形になっているものですが、どことなくローマの水道橋のような雰囲気も……。
 この本は解説が充実しているだけでなく、流域外疎水の主要な施設の写真も豊富なので、現地を旅しているような気分になれます☆ 広域に渡る流域外疎水の施設は、もちろん広域に点在しているので実際に訪れるのは大変ですが、こうやって地図・解説とともに眺められるので、とても気楽に楽しめるのです。
 この他にも、次のような解説に興味津々☆
・両総用水
「利根川から水を吸い上げるためのポンプ場を造り、流域界を越すためのトンネルを掘削し、さらに広大な平野部の末端まで水を行き渡らせるための用水路の総延長は88.9kmにもおよんだ。」
・愛知用水
「木曽川の水を徹底的に利用し、遠く知多半島を潤し、さらには海を渡って三河三島にも供給される。愛知の工業・農業・水道を担う戦後の巨大インフラだ。」
 ……この愛知用水は、木曽川から知多半島まで幹線水路112km。なんと全てが、標高差だけを利用した自然勾配で送水されているそうです! また三島へは、海底送水管を通って送水されているのだとか。
・吉野川分水
「降水量が少ない大和平野に、多雨地帯から流れ出る吉野川(紀の川)の水を流せないか。元禄時代の構想は、地域の利害対立を越え、最後にようやく実を結んだ。」
・福岡導水
「福岡都市圏には260万人が住むが、大河川がない。そのため遠く筑後川から25kmのパイプを通して水を引き、それは、必要な量の3分の1をも占めている。」
 ……全国各地の政令都市の中で唯一、一級河川が流れていないのが福岡市なのだとか!
・宮古用水
「地下水を溜め、海水の流入を防ぐための、地下の遮水壁「地下ダム」。ポンプで汲み上げられた水は、長大な橋を渡り、周辺の島々にも行き渡っている。」
「(前略)宮古島では、琉球石灰岩層に蓄えられた地下水が、断層と断層で区切られた島尻層の傾斜した地下谷に蓄えられている。島尻層は断層と平行した南北方向にも傾斜しているので、地下水の流れの下流側にあたる南側で海に流出してしまうのだが、そこに壁を作ればダムとして貯留することができる。」
 ……「離島架橋としては日本一の長さ」「通行料金を徴収しない橋としても日本最長」で有名な伊良部大橋は、この宮古島の地下ダムからの水を送る送水管でもあるそうです!
『山の向こうから水を引け! 地図と地形でわかる日本の川と流域外分水』……日本の国土と開発の歴史をリアルに学べる本で、とても勉強になるだけでなく、フルカラーの写真&地図が満載で、土木をテーマとした旅をしている気分にもなれる素晴らしい本でした。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『地図と地形でわかる日本の川と流域外分水』