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第1部 本

社会

国連入門(山本栄二)

『国連入門 ――理念と現場からみる平和と安全 (筑摩選書 0298)』2025/2/14
山本 栄二 (著), 中山 雅司 (著)


(感想)
 外交官として国連日本代表部に二度勤務した山本さんの経験と、長年にわたり国連の理論的研究に携わってきた中山さんの分析で、国連の実像に迫っている本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
序 章 国連の現在――機能不全のなかで
第1章 国連誕生――歴史を振り返る
第2章 国連の描く平和と安全保障構想
第3章 国連の現場から①――冷戦崩壊後、一九九二~一九九五年
第4章 国連の現場から②――9・11後、二〇〇一~二〇〇三年
第5章 北朝鮮の核・ミサイル開発と国連
第6章 ミャンマーと国連――クーデター以降
第7章 国連改革の行方
第8章 国連の課題と未来への展望――改革の三つの方向性
終 章 国連改革に向けて日本に求められるもの
おわりに
参考文献
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 ウクライナ侵攻とガザ情勢の悪化以降、国連は機能不全に陥っているように見えますが、この本は、国連が何をしてきたのか、今後どうなっていくのかを、深く考察しています。
 さて、国連とは何かというと……
・「(前略)国際機構とは広義では、「国境を越えた基盤をもち、国際的に活動する組織体」を指す。その意味では、広義にはNGOや多国籍企業も含まれることになる。しかし「国際的に活動する組織」という定義はあまりにも広いことから、一般には狭義の定義、すなわち政府間国際機構(inter-governmental organization)を指して用いられる。少し固い表現になるが、「国際機構とは、複数の国家により、共通の目的達成のために条約にもとづいて直接設立された固有の常設的な組織」のことである。国連をはじめ、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、ユネスコ(国連教育科学文化機関)などが含まれる。」
・「(前略)“国連”というと一つ(単一)の組織や機関をイメージするが、国連というひとつの組織や機関があるわけではない。すなわち、国連とは多くの機関からなる国連システム全体の総称であり、ひとくくりに「国連は」という言い方自体が曖昧で広すぎるということになる。」
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 ……そうだったんだ。「国連」という一つの組織があるものだと思っていました……。
「第1章 国連誕生――歴史を振り返る」によると、国連は、その前身となる国際連盟の失敗を教訓とした上で作られ、その目的は……
・第一に「国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。」
・第二に「人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強力にするために他の適当な措置をとること。」
・第三に「経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。」
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 そして第3章、第4章では、実際に国連で働いていた山本さんが、自らの経験について語ってくれます。なんと山本さんは、ニューヨークで、あの9・11に実際に遭遇したそうです。これらの章は、国連職員など国際機関で働きたいと思っている方にとって、特に参考になりそうです。
 そして「第7章 国連改革の行方」では、現在の国連について……
・「(前略)ウクライナ戦争、イスラエル・ガザ紛争の対応をめぐって安保理が機能を果たせない現状を前に、安保理への信頼が揺らいでいる。そのことは同時に安保理改革の必要性を訴える議論につながっている。」
・「安保理改革については、拒否権の問題と構成メンバーの問題がとくによく指摘がなされるところであるが、これらの何が問題なのであろうか。それは、その実効性であり、正統性であり、代表性である。全会一致による機構運営の名のもとで常任理事国のみが拒否権を有すること、そしてその結果として大国(常任理事国)が事実上不可罰であることは、主権平等主義、とくに形式的平等からすれば不平等な特権である。機能的平等として説明されるとしても非民主的な制度であり、正統性を欠いているといわざるを得ない。」
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 ……まさしく、その通りだと思います。でも、次の決議案に、ほんの少し希望を見いだせそうな気がしました。
「(前略)安保理の拒否権行使に対する対応として注目されるのは、二〇二二年四月二六日、安保理で拒否権を使った常任理事国に国連総会での説明を求める決議案(A/RES/76/262)が総会でコンセンサス(意見の一致による無投票)で採択されたことである。」
 ……拒否権行使国に説明責任を求めることは、濫用の抑止に少しは効果があるかもしれません。
将来的には、常任理事国の数をもっと増やした上で、「多数決(または四分の三や、三分の二以上の賛成(棄権を含む)」で決められるようにするべきではないかと思いますが、当面は、それを目指せるように、毎年、「これまでの決議案の実績(決議の成果、拒否権はどんなケースで発動されたか)」を全加盟国にレポート配布して、今後の安保理のあり方を問うようにすべきではないでしょうか。
 さて、個人的に最も参考になったのは、「第8章 国連の課題と未来への展望――改革の三つの方向性」。
 今後の国連改革の三つの方向性とは……
1)国連における国家間の不平等を是正すること。国家間の民主化。
2)グローバルな地球社会を反映した国連の民主化。(NGOをはじめとする市民社会の参画、国連のパートナーシップの構築)
3)地球環境との共生をはかりながら、国家を超えて一人一人の自由や平等、人権が守られる平和で持続可能な社会を国連を通じてどう築いていくか
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 そして「よりよき世界への処方箋と私たちの役割」とは……
「以上をふまえて今後の国連による平和と安全保障について求められることは、第一に、侵略やジェノサイド等の事態を阻止するために軍事力の行使を認めざるを得ない場面があうとしても、その恣意的行為を極小化するために改革を通じた安保理の正統性の回復、および武力行使の基準の設定と総会等を通じた監視を行うことである。
 第二に、軍事力による安全保障がもたらす危険性を軽減するために、とくにウクライナ戦争における核による威嚇を通じて核兵器の使用が現実味を増す昨今にあって、軍縮とくに核軍縮と廃絶に向けた取り組みがより求められる。
 第三に、(中略)紛争が発生した場合も武力衝突に発展することを未然に防ぐための外交努力や国際裁判等を通じた紛争の平和的解決と法の支配が重要である。(中略)
 第四に、国連そのものではないが、ICC等による戦争犯罪、人道犯罪の訴追、処罰である。その実行は容易ではないが、報復の連鎖と不処罰の歴史にピリオドを打つためには法による正義の実現がきわめて重要である。
 第五に、経済的・社会的・文化的・人道的諸問題の解決を通じた紛争の予防である。また、PKOや紛争後の平和構築への取り組みも紛争の再発を防ぐうえで重要である。」
 注)ICC=国際刑事裁判所
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『国連入門 ――理念と現場からみる平和と安全』……国連の実像を詳しく解説してくれて、とても勉強になりました。ただ……国連が一つの組織ではなく、複数の国際組織から成っているというのが、具体的にどのような組織なのか、その「体制図」が欲しかったとも感じました。そういう意味では、完全な「入門書」ではなかった気もしますが、外交官の経験と研究者の分析・今後の展望の内容が参考になったので、とても有意義だったと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『国連入門』