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第1部 本
社会
ビジネスと人権(伊藤和子)
『ビジネスと人権──人を大切にしない社会を変える (岩波新書 新赤版 2052)』2025/2/25
伊藤 和子 (著)
(感想)
企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる……私たち一人一人が、国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えていくことを目指している本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 なぜビジネスと人権なのか
1 人権とは何か
2 ビジネスと人権の諸問題
3 「ビジネスと人権」に関する意識の高まり
第2章 ビジネスと人権に関する指導原則とは何か
1 指導原則誕生までの道のり
2 国家の「保護」する義務(第一の柱)
3 企業の責任(第二の柱)
4 救済へのアクセス(第三の柱)
5 指導原則の実施に向けての動きと課題
第3章 指導原則の世界での実施 ──ソフトローからハードローへ
1 各国による指導原則の実施
2 企業による指導原則の実施
3 ハードロー化の潮流とその背景
4 ハードロー化への道
5 欧州デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)とその影響力
第4章 日本企業が直面する人権課題
1 グローバル・サプライチェーン問題
2 日本国内で起きている人権侵害
3 特に憂慮される課題や悪影響
4 なぜ、実効性ある取り組みができないのか
第5章 企業は何をすべきか
1 人権の取り組みで留意すべきこと
2 人権デュー・ディリジェンスの取り組み
3 救済へのアクセスの取り組み
終 章 社会は変えられる
1 ビジネスと人権がアジェンダになった
2 国は制度や仕組みを変える役割を果たすべき
3 私たち自身の未来を変えるために
あとがき
参考文献/資料
*
「はじめに」には、次のように書いてありました。
・「現代社会は、環境破壊、地球温暖化、貧富の格差の拡大、権威主義の台頭、排外主義、差別、武力紛争、ジェノサイドなど、多方面の危機に直面しており、いずれの事態も人権侵害の現象的形態といえる。そして、企業活動はこれらの危機に深く関係している。」
・「「ビジネスと人権」は、ビジネス人権に及ぼす負の影響を多面的に把握し、企業に自らの事業活動によって影響を受ける人の人権への負の影響を抑止するとともに、責任ある行動によって問題解決を図り、被害を救済することを求める論理と営みであり、これを支える国際規範が急速に具体化されている課題領域である。」
……実は日本は、人権を尊重することに積極的ではない国のようです。
・「そもそも日本は人権に関する政府の取り組みがとても弱い。包括的な人権保護の立法も、差別を禁止する省庁も担当大臣もいない。」
・「こうした国際社会の変化を受け、日本でも2020年10月、ようやく国別行動計画(NAP)「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)」が制定された。人権に関する国別行動計画をまだ策定していないのに、ビジネスと人権に関する行動計画ができたというのは、きわめていびつと言わざるをえないが、指導原則を実施する国際社会のプレッシャーが非常に強いということを意味するだろう。」
……そうだったんですか……。
続く「第1章 なぜビジネスと人権なのか」では、1948年の国連総会で公布された「世界人権宣言テキスト」が紹介されていました。その最初の五条を紹介します。
第一条
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第二条
すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。
第三条
すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。
第四条
何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。
第五条
何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。
*
……ただし人権はまだ守られているとは言えず、さまざまな差別や奴隷的労働が依然として数多く残っています。これについては……
「このように人権概念は、人々の置かれた状況やニーズを反映して、少しずつ進化している。常に発展途上なのだ。こうした発展の基礎をつくっているのは当事者を中心とする社会運動である。とりわけ当事者は、生きづらさを可視化して声を上げ、運動をする中で権利の存在を国際社会に認めさせ、人権を勝ち取ってきたといえる。」
……人権侵害をなくす方向に向かわせるために、私たち自身も行動することが必要なんですね。
この後は、「ビジネスと人権に関する指導原則」や「国連グローバル・コンパクトの4分野10原則」、「指導原則を実践するための各種ガイダンス(OECDや欧州委員会、金融機関、国連など)」、「欧州デュー・ディリジェンス指令」などの取り組みについての解説がありました。
日本のものとしては、経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」や、農林水産省「食品企業向け人権尊重の取り組みのための手引き」など)があるようです。
そして「第5章 企業は何をすべきか」では……
「企業の取り組みの出発点は指導原則だ。企業には、指導原則に基づき、バリューチェーン全体を通して、人権尊重責任を果たしていくことが求められる。どのように人権デュー・ディリジェンスを進めたらよいかについては、OECDが公表している「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」、経済産業省がまとめた「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に詳しく書かれている。」
……日本の企業でも、残念ながら驚くほど過酷な労働の実態があるようでした(企業名が実名で書いてあります)。しかも「日本には諸外国と違って、包括的にあらゆる差別を禁止し是正する法律がない。」そうです。
最後の「終章 社会は変えられる」には、次のように書いてありました。
「貧富の格差や低賃金という構造的な問題を変え、誰もが人間らしく働ける経済構造に転換するためには、大企業の「買い叩き」をウォッチし、企業による発注価格や公正な取引条件に関する説明責任を果たさせる法規制や市民の監視が必要だと思う。」
『ビジネスと人権──人を大切にしない社会を変える』……人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が、国内外の企業活動で生じている実態と、国連などが主導する人権保護のための「指導原則」などの取り組みを紹介してくれる本で、とても勉強になりました。
今後の社会を「誰もが人間らしく働ける」社会へと向かわせるために、私たち誰もが知っておくべき内容ではないかと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『ビジネスと人権』