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第1部 本

描画参考資料

50の名画でたどる西洋美術史(宮下規久朗)

『50の名画でたどる西洋美術史 角川選書ビギナーズ (角川選書 1202)』2024/10/2
宮下 規久朗 (著)


(感想)
 西洋絵画の父ジョットから、現代の巨匠リヒターまで、美術史に名を刻む50の名画をオールカラー図版とともに概観。キリスト教、擬人像、寓意・象徴の表現など、作品の背景に広がる基礎知識とともに、西洋美術史の精髄にふれる絵画入門です。
「はじめに」には次のように書いてありました。
・「本書は、西洋の無数の名画のうちから50点を厳選し、それを簡潔に解説して、それぞれの絵画の基本的な見方と作者について解説したものである。」
・「本書は2012年に角川ソフィア文庫から出した『知っておきたい世界の名画』をカラー版にしたものが基本となっているが、最新の知見に従って解説の多くを書き直して増補している。」
   *
 宮下さんは厳選した50名画を、次のように格付けしています。
★3つ「死ぬまで誰もが一度は見るべき人類究極の至宝 9作品」
★2つ「わざわざ見に行く価値のある西洋美術の最高傑作」27作品
★1つ「見ることができれば幸福な西洋の最重要名画」14作品
 このうち「★3つの9作品」は次の通りです。
1)ミケランジェロ・ブオナローティ『アダムの創造』
2)ラファエロ・サンツィオ『聖ペテロの解放』
3)ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『聖母被昇天』
4)ファン・エイク『神秘の子羊(ヘントの祭壇画)』
5)グリューネヴァルト『磔刑(イーゼンハイム祭壇画)』
6)カラヴァッジョ『聖マタイの召命』
7)ペーテル・パウル・ルーベンス『十字架降下』
8)ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』
9)レンブラント・ファン・ライン『夜警』

 確かにどれも素晴らしい名画で、この本ではこれらのカラー図版とともに、西洋美術史の専門家の宮下さんの解説を読むことが出来るのです。
 例えば、ペーテル・パウル・ルーベンス『十字架降下』の解説には、名作「フランダースの犬」のラストシーンで、主人公ネロが愛犬パトラッシュとともに大聖堂の中で凍死したのは、この絵の前だったことが書いてありました。
 またディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』には、次のように書いてありました。
「ベラスケスは、闊達な筆触を走らせ、空間の奥行きや光だけでなく、空気まで表すにいたったのである。それは徹底した現実の描写でありながら、現実を超えた魔術的なリアリズムといってもよい。300年後にマネや印象派の画家たちがそこから多くを学んだのは当然であった。」
   *
 さて50の名画は、ジョット・ディ・ボンドーネ『マギの礼拝』(★2つ)から始まります。ここでは次のように書いてありました。
「西洋における名画の時代は14世紀にはじまる。中世の後期、ゴシックといわれる時代、フィレンツェの画家ジョットは、三次元の奥行きと自然な人間表現によって説得力のある物語表現を生み出した。ジョットの自然主義的な様式はイタリア中に伝播し、フィレンツェでは15世紀になってルネサンスがはじまった。」
 ……14世紀初頭のジョットの出現によって、中世の美術は著しく現実的で自然主義的なものに変わったそうです。
 また、コレッジョ『羊飼いの礼拝(夜)』(★1つ)は、夜に生まれた幼児キリストから光が発せられて、周囲の聖母や天使たちを照らし出しているとても印象的な作品ですが、キリスト降誕図は、最初は昼の情景として描かれるのが普通だったそうです。それが夜景になりキリストが光るようになったきっかけは、14世紀の聖女ビルギッタが、生まれたばかりのキリストがまばゆい光を発している情景を幻視したからなのだとか。
「以後、キリスト生誕の情景と夜景表現は深く結びつくことになり、20世紀まで数多くの画家が描くことになった。このように、絵画に夜景が登場するのは、特定の主題と結びついたときであることが多く、降誕図はその最たるものであった。」
 ……へー、そうだったんだ。
 そしてとても興味深かったのが、ヨハネス・フェルメール『牛乳を注ぐ女』(★2つ)の解説。次のように書いてありました。
「窓の下に置かれたテーブルの上には、籠に入ったパンや食器が並んでいるが、それらは明るい光に照らされてきらめいている。画面に近寄ると、パンや籠、陶器の器や女の衣には白い光の斑点がびっしりとちりばめられているのがわかる。
 こうした光の粒(ポワンティエ)はフェルメール作品に特有のもので、彼がカメラ・オブスクラという針穴写真機の一種を用いたのではないかという根拠となっている。写真機の前身となったこの装置を用いて外界を投影板に映すと、こうした光の粒が見えるという。また、フェルメールの後期作品に顕著な、ハレーション、つまりピントがぼけたような曖昧な輪郭もこの機器による映像に見られるという。(中略)
 カメラ・オブスクラの投影板に映し出された小さな光景は、色彩が凝縮されてそれ自体が珠玉のようなきらめきを見せた。現実の光景であるにもかかわらず、現実を超えた美となる装置、フェルメールはこの映像の美に刺激されて、日常の光景がそのままで光の芸術に昇華される絵画を追求したのであろう。」
 ふーん、そうなんだ……。フェルメールは、オランダの小都市デルフトから生涯離れることがなかったことで有名ですが、カメラ・オブスクラを活用した描画方法にも、その一因があったのかもしれないなーと思ってしまいました。
 こんな感じで、素晴らしい名画(フルカラー)とともに興味深い解説を多数読むことが出来て、西洋美術に関する教養を深めることが出来る本でした。
 ただし作家の代表作や、★の評価については、異論がある方もたくさんいるのではないかなーとも思います。
 例えば上記の9作品には、あの超有名な『モナ・リザ』が入っていないどころか、レオナルド・ダ・ヴィンチで取り上げられている『最後の晩餐』は、なんと★2つ! 美しい聖母子像で有名なラファエロも、取り上げられているのは『聖ペテロの解放』(★3つではありますが……)。エドゥアール・マネの『草上の昼食』(★1つ)は、その不謹慎さや女性差別感がすでに現代に合っていないのではないかと思いますし……他の作品の方が良かったんじゃないかなー(あるいはマネの作品自体、名画50に入れなくても良かったんじゃないかなー)とか、★3つ作品に、アンジェリコの『受胎告知』や、ボッティチェリの『プリマヴェーラ(春)』、ピカソの『ゲルニカ』が入っていないのは何故? とか、フェルメールは『真珠の耳飾りの少女』でないのは何故? とか、ポロックとかウォーホルとかリヒターの作品は、他の作品と比較して見劣りしないほどのクオリティがあるのかなー?(名画50に入れるほどの作品なのかなー?)とか、色んな異論や疑問が、心のなかを激しく渦巻きました(笑)。
 でも、そういうのも含めて、とても楽しめたような気がします。なんといっても名画50作品を、フルカラー&解説で眺められるのがとても嬉しかったので……。私と同じように異論や疑問を感じた方は、自分なりの格付けや自分なりの「名画ベスト50」を妄想してみるのも楽しいかもしれません(笑)。
『50の名画でたどる西洋美術史』……歴史に名を刻む50の名画をオールカラーで解説してくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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『50の名画でたどる西洋美術史』