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第1部 本

潜入取材、全手法(横田増生)

『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで (角川新書)』2024/9/10
横田 増生 (著)


(感想)
 ユニクロ、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで……数々の組織に潜入することで、世に知られていない実情を掘り起こしてきた横田さんが、自らの取材経験をもとに、実例ですべてを解説。証拠集めの調査方法から裏取りの仕方、執筆、更には訴訟対策に至るまで全技法を伝授してくれる本で、主な内容は以下の通りです。
まえがき
第一章 いかに潜入するか
第二章 いかに記録をとるか
第三章 いかに裏をとるか
第四章 いかに売り込むか
第五章 いかに身を守るか
第六章 いかに文章力をつけるか
あとがき
参考文献一覧
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「第一章 いかに潜入するか」では、横田さんが実際に潜入取材した方法について……
「一言で言うと、取材相手に身分を明かさず、労働者や組織の一員として潜り込んで取材をして、そこでの体験をもとにノンフィクションの記事や書籍を発表すること、となる。」
 ……例えばアマゾンの場合は、アルバイトとして入ったそうです。
「(前略)潜入取材と取材の一つの手法として確立しようとするなら、入念な準備が必要だ。
 アマゾンならアマゾンという企業について、また出版流通業界や労働問題について調べる必要がある。関連書籍を読んで大枠をつかみ、新聞や雑誌記事を読み、最新事情を知る。また決算情報を集めて、経済状態を分析する。書き手に明確な問題意識が不可欠となる。」
 ……そして……
「潜入レポを書く上で大事にしていることは何かと問われれば、
 「二つある」
と、私は答えることにしている。
 一つは、書くことが目的であっても働くことに手を抜かないことだ。(中略)
 もう一つ大事にしていることは、ウソはつかないことだ。」
 ……潜入取材でも、偽名などのウソはついてはいけないそうです。なぜなら偽りの住所を書いた履歴書が潜入先企業に残っていれば、私文書偽造などの犯罪に問われかねないし、たとえどれだけ素晴らしい潜入ルポを書けても、潜入過程が罪に問われたら、すべてが台無しになってしまうから……確かに、その通りですね。
 また「第二章 いかに記録をとるか」では、メモを取ることの重要性を教えてくれました。
「ジャーナリストを志すためには、そんないいかげんな自分の記憶力に頼らないことが必要となる。何でもメモに残す。何が重要かという判断は二の次として、書くための材料を集めるために、とことんメモを取る。」
 ……メモだけでなく、ICレコーダーなどで秘密録音もしたようです。これらをなくさないように持ち歩くことはとても大事だそうです。
「メモ帳やノートをなくすということは、取材自体がなかったことにもなりかねないのだ。」
 ……さらに撮れるときには、隠し動画も撮ったようです。
「第三章 いかに裏をとるか」では、潜入したトランプさんの集会での発言はウソだらけだったことが書いてありました。
「大統領就任以来、トランプの発現をファクトチェックしつづけてきた「ワシントン・ポスト」紙によると、ウィスコンシン州の演説だけで、七〇カ所を超す部分がファクトチェックされ、間違いやウソ、誤解を招くと判定されている。前回のオハイオ州の演説では一一〇カ所以上が同様の指摘をされている。」
 ……ところがトランプさんの支持者たちは、むしろ「ワシントン・ポスト」紙がフェイクニュースだと信じていたようです。ありがちなことだ……(苦笑)
 ここでは「なぜ事実が大切なのか」について……
「民主主義の社会では、市民一人ひとりが、行政や政治、経済に対してお客様ではなく、当事者であり、さまざまな場面で決定を下していく。その判断の基盤になるのが事実だ。(中略)
 そうした判断を下すための材料であり事実を報道するのが、マスコミの役割だ。よって、マスコミは事実を自らの都合がいいように歪曲しようとする権力を徹底的に監視する必要がある。」
 ……まさしく、その通りだと思います。
 なお潜入取材では、取材相手に事前に原稿を見せてはならないそうです。
「もし取材相手が、あなたの書いていることが正しいかどうかをチェックするため、原稿を見せてほしい、と言い出したらどうすればいいのか。(中略)
 必要以上に取材相手の言い分を取り入れては、本の趣旨が捻じ曲げられることになる。取材相手の言い分があれば、取材の段階で、それを全部聞いたうえで原稿を書けばいい。しかし、書き終わった原稿を相手に見せてしまえば、書かれた本人の都合のいいように書き換えられることになる。」
 ……うーん、確かにそうなのかもしれません……。
 さらに「第五章 いかに身を守るか」では、潜入取材したユニクロの記事や書籍について、名誉棄損で訴えられたときのことが詳しく紹介されていました。
 ユニクロ側は高額の賠償金や謝罪などを求めましたが、結果的には、地裁、高裁、最高裁のすべてでユニクロが敗訴したそうです。それでもユニクロはこの裁判で、一次的な言論の封じ込めに成功したようで、この状況を「スラップ裁判」と言うようです。それは……
「スラップ裁判とは、資金や組織などの資源を持つ強者が、裁判という手段に訴えることで言論機関を威嚇することにより、不利益になる発言が広まるのを妨げる目的で起こす裁判を指す。そこでは、提訴すること自体に意味があり、勝ち負けは二の次だという。訴訟の体裁をとりながら、報道の自由を妨害するのが本当の目的だ。」
 ……そうなんですか……確かに、大企業から高額の賠償金を求められる恐れがあると感じただけで、取材には消極的になってしまいますよね……。この点について横田さんは……
「(前略)大事なことは、たとえ訴えられても、裁判で勝つことができることを意識しながら、日々の取材を進めることだ。もし、このまま書いて訴えられたら負ける、と思ったら、勝てると思えるまで取材を続けることだ。
 それには、書いてあるものに公共性と公益性があることが前提となるが、それに加え、真実であることを証明できるよう、メールの記録や手書きのノート、写真などの映像、加えて取材音源や、重要な電話の音源もきっちり保存しておくことが、ジャーナリストとしての自分の身を守ることにつながる。」
 ……正しい方法での取材(及び記録を残すこと)は、裁判でも強い味方になるようです。
 さらに「第六章 いかに文章力をつけるか」では……
・「取材現場で必要なのは一瞬ごとの判断力と行動力。さまざまな障害をものともせずに突き進む突破力や胆力などが求められる。取材現場は刻々と変わりつづけ、取材対象の話も次々と流れていく。二度と再現されることのない事実をどうやって切り取り、保存していくのかという動態の能力が求められる。
 それに対し、書くことは静態で、内向的だ。取材で集めた膨大な証言や事実を、本という容器に丁寧に流し込んでいく精密な作業だ。潜入体験を本として未来に残すには、取材力に加え、書くという技量があってはじめて成り立つ。」
・「本を書くうえで、私が大切にしているのは対象企業や業界の年表を作ることだ。大切なのは時系列の流れだ。さまざまな出来事を時間軸に沿って並べてみると、企業の歴史がみえてくる。私が書いた本の多くには年表が載っている。
 書き手が、時間軸に沿って事実をしっかりつかんでおくことは、読みやすい物語が生まれる土台となる。歴史には流れがあって、意味が生まれてくる。」
・「(前略)真実の門番であるジャーナリストは、混沌とした状況でも真実を救い出すために目を光らせておく必要がある。」
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『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』……これから潜入取材をしようと思っている人のために、横田さんが実際に使った貴重なノウハウを詳細に教えてくれる本で、とても参考になりました。
 なお横田さんは本名で活動を始めてしまったそうですが、そのことを少し後悔しているようで、これから潜入取材を始める方には、「ペンネーム」を使うことを勧めていました。潜入先にアルバイトなどを申し込む時に、本名が邪魔をしてしまう可能性があるからだそうです。潜入時に意図に気づかれずに取材に邁進できるようにするためには、確かに「ペンネーム」を使う方が良さそうですね。
 具体的なアドバイスもたくさんあって、実践的に役に立つ本だと思います。ジャーナリストを目指している方はもちろん、著作活動に興味のある方も、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『潜入取材、全手法』