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第1部 本
歴史
アメリカ大統領と大統領図書館(豊田恭子)
『アメリカ大統領と大統領図書館 (筑摩選書 283)』2024/7/18
豊田 恭子 (著)
(感想)
アメリカ合衆国大統領の様々な記録やゆかりの品々を収集、保存、展示、提供する施設が大統領図書館です。第31代ハーバート・フーバーから第43代ジョージ・W・ブッシュまで、全米各地に現存する全13館を訪れ、それぞれの大統領の知られざる横顔とともに、大統領資料をめぐる制度や現在の大統領図書館が抱える問題、さらに大恐慌、第二次世界大戦、ウォーターゲート事件、ベトナム戦争、ソ連と核軍縮、9・11など……「その時、大統領は何を考えたか」を紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
はじめに
1 ハーバート・フーバー……生まれ故郷を公園としてよみがえらせる
2 フランクリン・D・ルーズベルト……図書館開館で民主主義の強さを示す
3 ハリー・S・トルーマン……見学者に考えさせる教育的プログラム
4 ドワイト・アイゼンハワー……アメリカのど真ん中から地平を見渡す
5 ジョン・F・ケネディ……理想主義的メッセージを次世代に伝える
6 リンドン・B・ジョンソン……テキサス・サイズで魅せる記録保存室
7 リチャード・M・ニクソン……すべてを変えたウォーターゲート事件
8 ジェラルド・R・フォード……ミシガンの歴史に刻まれる双子の施設
9 ジミー・カーター………センターを退任後の活動拠点に
10 ロナルド・レーガン……圧倒的な磁力を持つ大統領専用機の展示
11 ジョージ・H・W・ブッシュ……大学の知名度向上に貢献
12 ビル・クリントン……町全体の再開発を呼び込む
13 ジョージ・W・ブッシュ……大統領自身がプロモートする歴史
おわりに オバマ政権以降の議論
関連年表
謝辞
主要参考文献
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『アメリカ大統領と大統領図書館』というタイトルから、執務用に準備されている大統領専用の図書館があるのかなーと想像していたのですが、図書館というよりは文書館で、次のようなものでした。
・「大統領図書館には大統領の文書、記録、物品などを統合的に保存、整理、提供するアーカイブ部門と、そのなかから選択した史料や物品を解説付きで展示するミュージアム部門とがあります。」
・「大統領図書館のアーカイブは無料で、外国人にも門戸が開かれていますが、調査目的や閲覧したい資料名を書いて事前に申請する必要があります。一方ミュージアムは有料で一〇-三〇ドルの入館料をとりますが、基本的に予約なしにいつでも訪問が可能です。」
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最初に建てられたのはルーズベルトの図書館で……
「一九三八年、「フランクリン・D・ルーズベルト図書館会社」(現ルーズベルト協会)が設立され、二万八〇〇〇人から四〇万ドルの献金が集まりました。
一九三九年七月、米国議会は「私費で建てて公費で運営する」というルーズベルトの提案を承認し、ここに最初の大統領図書館が誕生することになります。」
……ということで最初の大統領図書館はルーズベルト図書館なのですが、それを見て、フーバー前大統領も図書館を作ったので、この本ではフーバー図書館から紹介が始まっています。
そして、これらの大統領図書館がつくられる以前の大統領の記録はどうなっているかと言うと……
「一九〇三年、連邦政府はその時点で集まっていた歴代二二人の大統領の文書を、すべて米国議会図書館(LC)に集約します。それ以降、大統領たちはおおむね、退任すると自分の主要文書を議会図書館に収めるのが慣例となっていました。」
……だそうです。
大統領図書館にアーカイブ部門とミュージアム部門の二つがある構成は、最初のルーズベルト図書館が手本になっているようです。
この本は、実際に全米各地に点在する全13館を訪ねて書いているのですが、表紙のイラストでも分かるように大変な距離を移動しないと行けません。なんとアイゼンハワー図書館などは、カンザスシティから車で五時間(二五〇キロ)!
アイゼンハワー図書館によると、軍人だったことで有名なアイゼンハワーさんのモットーは、意外にも「物腰は柔らかく、行動は力強く」だそうで、「当時の側近によれば、閣議では決して声の大きな人に惑わされることなく、常に「それはアメリカにとっていいことなのか」と問い質し、議論の方向性を決めていったと言います。」
……そして、次のエピソードにも驚かされました。
「一九五三年四月、アメリカの記者編集者協会でアイゼンハワーは語ります。
「銃の製造、軍艦の進水、ロケットの発射は結局のところ、飢えや寒さに苦しむ者たちからの搾取を意味する。この武装した世界はお金だけではなく、労働者の汗、科学者の才能、子供たちの希望を浪費している。これは本当の意味での生き方ではない。戦争の脅威という雲の下で、人類は鉄の十字架に吊るされている。」」
……彼の経歴を考えると、この言葉はとても重いものですね……。
各地の大統領図書館では、その時代の情勢や政治的成果だけでなく、このように大統領の人柄もわかるような展示がなされているようです。
さて本書の各章は、まず大統領の人となりや政治活動を紹介する「来歴」、続いて大統領図書館の制度や歴史的変遷の「大統領文書と図書館建設」、そして「ミュージアム訪問(2022~23年に来訪した訪問記)」という構成になっています。大統領の就任順になっているので、アメリカの近代史の概要も復習できて勉強になりました。
最初のルーズベルト図書館は、ルーズベルトさんの急死で残された大量の未整理文書を整理して、国益に背くものやプライバシーに関わるもの以外が開示されることになったようです。意外なほど多数の文書が公開されているようですが、この整理は大変な負担になっているようで、新しい方の大統領図書館の文書整理は大幅に遅れているのだとか。しかもそれに拍車をかけているのが、最近の大量のデジタル記録だそうです。え? デジタルの方が整理しやすいような…と思ってしまいましたが、EメールやSNSなどで関連記録が「激増」したのだとか……あー、そうですよね……。
また公開の程度も濃淡を繰り返してきたようで、特に、ホワイトハウスの会話録音は、フォード大統領(ウォーターゲート事件のニクソン大統領の後任)以降、途絶えることになったようです(会話を録音しようとする大統領がいなくなった)。
「将来の開示の可能性が生まれたとたんに、逆に記録が残らなくなってしまうという公文書のパラドックスは、アーキビストたちの永遠の課題かもしれません。」
……確かにそうですね……。
なおこの本で紹介されているのは、「ジョージ・W・ブッシュ図書館」までですが、オバマ政権以降の大統領図書館は、それまでとは別の構成になることが予想されているようです。大統領図書館の建設には多額の費用が必要ですし、デジタル化時代でもあるので、オバマ政権の場合、アーカイブはNARA(国立公文書記録管理局)が管理し、WEBサイト「オバマ大統領図書館」を通じてデジタル・ライブラリとして運営されるのみとなるようです。
一方、ミュージアムの方は、オバマ大統領センター(OPC)として、ミュージアムやスポーツ施設、シカゴ公共図書館の分館、コミュニティ・ガーデンが、オバマ財団によって運営されるのだとか。
アメリカ各地にある「大統領図書館」……とても興味深い展示がされているようです。本書を読んで、もしも訪問したくなったら、「ジョン・F・ケネディ図書館」(ボストンの街なかから三十分もあればアクセスできる段トツのアクセスの良さ)がいいかもしれません。次のような展示室もあるようです。
「展示室のなかにはもうひとつのシアターがあります。ここでは一九六二年一〇月のキューバ危機を描いた二〇分のドキュメンタリーを見ます。
流されるのは、キューバにミサイル基地が建設されていることが分かった一〇月一六日からフルシチョフが撤去に合意するまでの一三日間の緊迫したやりとりで、ケネディの死後に見つかったテープに録音されていた生の会話を編集したものです。
「大統領、ミサイル基地が建設されています。」「なぜ分かる?」「この長さです。」
「大統領、今すぐ直接軍事行動を起こすべきです。」「ミサイル基地を破壊し、ロシア人を沢山殺して、彼らが何もせずにそれで終わると君は思うのか」
畳みかけるような会話の応酬を聞きながら、緊張で息が詰まりそうになります。集まってくる情報の欠片、憶測、矛盾する事実、次々と塗り替えられる状況判断、軍部の強硬論を抑えながら、ケネディが繰り返し問います。
「フルシチョフは何を考えている」「フルシチョフは何をしたい」」
……大統領の苦悩がよく分かりますね……。
なお「ジミー・カーター図書館」にも、大統領の一日を追体験できるシアターがあるようです。
そして本書で最初に紹介されたフーバー図書館の最後の部屋にある、晩年のフーバーさんの言葉は……
「釣りは心を洗うことができる。澄んだ空気、小川のせせらぎ、青い水面に映る太陽の輝き、自然の品位からくる柔和さと感動、道具に対する慈愛、魚に対する忍耐、利益やエゴを笑い、憎しみを静め、今は何も決めなくていいのだという安心をもたらす。そして魚の前ではすべての人間が同じだという、人間の平等性を思い出させてくれる。」
……「今は何も決めなくていいのだという安心をもたらす。」……アメリカ大統領の重圧を実感させてくれる言葉ですね……。
『アメリカ大統領と大統領図書館』……アメリカ現代史とそれを彩る歴代大統領を知ることができる素晴らしい入門書でした。アメリカ大統領は、裕福な家庭生まれのエリートだけでなく、貧しい家で生まれた人も意外に多く、「普通の人」でも大統領になれるのが「アメリカ」なんだなーとちょっと感動しました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『アメリカ大統領と大統領図書館』