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第1部 本

歴史

砂糖と人類(ボスマ)

『砂糖と人類:2000年全史』2024/9/12
ウルベ・ボスマ (著), 吉嶺 英美 (翻訳)


(感想)
 砂糖は人類をいかに変えてきたか……起源のアジア、戦争と奴隷、科学と植民地化、企業、健康被害など、砂糖の歴史について詳しく総合的に語ってくれる本です。
「訳者あとがき」に本書の簡単な概説がありましたので、まずそれを紹介します。
・「(前略)サトウキビを原料とした粒状の砂糖に関する最古の記録があるのは、今から二五〇〇年ほど前のインドだ。けれども世界には蜂蜜など簡単に甘味料として利用できるものはさまざまあり、サトウキビを栽培し、収穫して搾り、それを煮詰めてさらに精製しなければならない砂糖は、主流の甘味料と呼ぶにはほど遠い存在だった。インドのように、伝統的に農民が無精製の砂糖を日常的に食べていた地域は別としても、世界のほとんどの地域では、砂糖は王侯貴族だけが楽しむことのできる貴重な贅沢品であり、薬、そして富の象徴だったのだ。」
 ……製糖技術は一五〇〇年前にインドから中国へ伝わり、一七世紀には、製糖技術はすべての文化的境界を超えて驚くべきスピードで広まったようです。大航海時代の植民地には、砂糖プランテーションがどんどん作られていきました。そして……
・「奴隷制度というと、綿花のプランテーションを想起しがちだが、アフリカ人奴隷のおもな行き先は砂糖プランテーションで、海を渡ってやってきたアフリカ人奴隷一二五〇万人のうち、半数から三分の二は砂糖プランテーションに送られていたという。」
・「本書の特徴は、砂糖そのものの歴史や製糖技術の発達のみならず、砂糖が政治に与えた影響や、プランテーションが生んだ砂糖ブルジョワジー、製糖業者が支配する強力な砂糖資本主義といった点からも、砂糖を語っているところだろう。(中略)全世界の砂糖の歴史を俯瞰して見ることができる。
 砂糖は植民地間の競争を生み、宗主国間に争いを生み、プランテーションの拡大で環境の破壊は大規模に進んだ。また甜菜糖の登場とヨーロッパ各国の保護主義が砂糖の過剰生産を招き、世界の砂糖価格が大暴落するという危機も訪れる。世界を襲うその変化はめまぐるしく、砂糖を引き金に革命が起こり、人種間あるいは社会階層間に対立が生じ、品種改良はサトウキビの病害を招いて砂糖業界を窮地に追いやった。」
 ……さらに人工甘味料の歴史についても紹介されています。
 さて砂糖というと、単純にお菓子などの美しいスイーツを思い浮かべてしまいがちでしたが、驚いたことに悲惨な労働搾取の上に成り立っていたようでした(涙)。
「カリブ海地域は植民地資本主義のフロンティアであり、弾丸と鞭、飢え、病気が渦巻くその地獄では、強制的に連れてこられた者たちが苦しみながら死んでいき、幸運な一部の者だけが、とてつもない富を得た。」
 ……しかも政府がそんな砂糖産業を後押しすらしてきたようです。
「一三世紀以来、約五〇〇年にわたって砂糖資本主義を推進してきたのは、砂糖取引の高度な収益性と熟練した製糖職人、製糖所建設に必要な資本、非情な労働搾取、そして収益基盤拡大のために砂糖産業の発展に注力した政府の存在だ。」
 ……あまりの過酷さに奴隷たちが反乱を起こすこともあったようですが、ちょうどその頃、産業革命(水力圧搾機など)も始まって……
「(前略)アフリカ人奴隷の値段の上昇、利益率の低下、ヨーロッパの需要の拡大、奴隷貿易禁止の機運の高まりも技術革新を促進した。」
 ……また灌漑事業、運河やトロッコ用の線路などのインフラ整備も行われて……
「大規模な投資だけでなく、さまざまなインフラや経営上の変革もまた、生産性を一気に押し上げた。」
 ……こうして砂糖価格が下落し始めますが……
・「世界中のサトウキビ糖および甜菜糖の生産者と精製業者は、減少する利益に、事業規模の拡大とカルテルの結成で対抗した。」
・「(前略)近代的な砂糖の複合企業体は、砂糖価格の下落が続く市場での激しい国際競争や、大損害を引き起こす病害リスクにつねにさらされている環境、そして労働力の管理と確保という難題に対応した結果、生まれたのだ。技術と科学は生産を均一化し、プランターたちを規制した。また試験場は、植物の取扱い時の汚染を防ぐ最善の方法を定めた。」
 ……また奴隷労働への批判や奴隷制度廃止が始まると、アフリカ人奴隷ではなく、最貧地域のヨーロッパ人やアジア人を強制労働させるように変わっていきましたが、この強制労働もほとんど奴隷と変わらないようなのです……(涙)。
 さらに砂糖価格の変動のなか、関税や補助金などの政府の政策や金融界の動きが絡み合って、市場はどんどん歪んでいったようです。例えばアメリカでは……
「アメリカ砂糖王国の歴史は、アメリカ東海岸の精製業者による砂糖生産チェーンの支配および砂糖と銀行の複雑に絡み合った利権を抜きにしては語ることができず、その発展は、ヒスパニック系カリブ海諸国の金融部門の大半をアメリカ金融界が支配したことで促進された。そしてアメリカ砂糖王国は、通常の土地の所有権を完全に無視して砂糖のフロンティアを切り拓き、地元住民とのあいだに暴力的な対立を引き起こした。」
 ……他の国も同じような保護政策や関税を行いました。
 さらに砂糖が虫歯や糖尿病を引き起こすことが明らかになってくると、砂糖業界は……
・「砂糖や食品、飲料業界の広告もロビー活動もそのほとんどは、砂糖は肥満と二型糖尿病を引き起こす重要な要因だという事実をわかりにくくするために行われている。」
・「この一五〇年間、砂糖業界は食生活に関する健全なアドバイスの矛先をかわすために、ありとあらゆる策を弄し、その財力を使って政治家、メディア、科学者に影響を及ぼしてきた。」
 ……もちろんノンカロリー甘味料の市場への参入も全力で阻止してきたので、普及が遅れたようです。
 そしてなんと現在でも、砂糖業界の問題は解決されていないようです。
「(前略)ほとんどの砂糖は依然として最低限のコストで大量につくられており、たいていの場合、それは劣悪な労働条件と壊滅的な環境破壊につながっている。また砂糖産業は肥満と二型糖尿病の主因にもなっている。」
 ……うーん、そうなんだ……。
『砂糖と人類: 2000年全史』……甘さで私たちを癒してくれる「砂糖」の歴史が、意外なほどドロドロしていたことに驚かされました(涙)。この砂糖ビジネスは、二〇世紀の大半、限られた有力者一族によって牛耳られてきたそうです。しかもそれは……
「(前略)有力製糖業者たちが大きく成長したのも、保護主義的関税や政府の補助金によるところが大きかった。」
 ……労働搾取、関税や補助金などによって、一部の人間が「甘い汁」を吸ってきたこともある「砂糖の歴史」をじっくり語ってくれる本でした。砂糖のイメージが、ちょっと変わってしまうほど衝撃的な内容でした……でも……やっぱり砂糖の魅力にはどうしても抗えない気もします。うーん……健康のためにも、少し控えた方がいいのかも……。
 428ページもの長大な本で読むのはちょっと大変ですが、砂糖の歴史に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『砂糖と人類』