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第1部 本
社会
デジタルの皇帝たち(レードンヴィルタ)
『デジタルの皇帝たち――プラットフォームが国家を超えるとき』2024/8/20
ヴィリ・レードンヴィルタ (原著), 濱浦奈緒子 (翻訳)
(感想)
デジタルプラットフォームの君主たちの野望、成功と失敗の経済学的メカニズム、そして彼らに抗った人々を描いている本で、主な内容は次の通りです。
第1章 序論
第I部 経済的制度
第2章 互恵主義――サイバースペースの黄金律
第3章 評判から規制へ――巨人の誕生
第4章 プライバシーのジレンマ――仮面舞踏会で秩序を維持する
第5章 距離の死、境界の復活――サイバースペースの労働市場
第6章 中央計画自由市場――ソ連2.0のプログラミング?
第II部 政治的制度
第7章 ネットワーク効果――デジタル革命家からエブリシング皇帝へ
第8章 クリプトクラシー――政治を技術に置き換える探究
第9章 集合行為 I――インターネット労働者は団結する?
第10章 集合行為 II――デジタル中流階級の興隆
第III部 社会的制度
第11章 デジタルセーフティーネット――プラットフォーム経済の社会保障と教育
第12章 結論
謝辞
原注
索引
*
3部構成になっていて、第Ⅰ部が経済的制度、第Ⅱ部は政治的制度、第Ⅲ部は社会的制度を対象にしています。
冒頭では、デジタルプラットフォーム企業の紛争処理解決担当者が、システマチックかつ効率的に紛争を解決していく姿が紹介されています。これは、ある意味で、国の紛争解決力を越えているのかもしれません。実際、経済力の観点からみても、巨大テック企業の最高経営責任者(CEO)は、たいていの国の国家元首よりも大きな力を持っているのです……。
そして「第3章 評判から規制へ」では、マーケットプレイスやオークションウェブの創成期からの姿が描かれています。彼らはレビューシステムの構築で信頼を獲得しましたが、やがて詐欺師や裏切り者が市場を跋扈するようになると、自ら「規制」を作ってシステムの安全性を向上させていくようになりました。
また「第4章 プライバシーのジレンマ」では、トーア、ビットコイン、ハンドルネームによる評価システムで、麻薬取締法例の網の目をくぐる隠れた地下経済を創出したサイバー闇市場の「シルクロード」も、プライバシーをどこまで保護すべきかのジレンマを抱えることになったことが描かれていました(結果的に、シルクロード運営者は逮捕されました)。
「匿名性は、迫害や政府による虐待から私たちを守ってくれる。しかし同時に、匿名性は悪事をはたらく者たちが捜査や刑罰をかいくぐることを可能にし、その結果、社会の秩序が蝕まれているかぎりは、私たちを別の危害にさらすこともある。」
……まさに、その通りですね。
さらに「第5章 距離の死、境界の復活」では、サイバースペースの労働市場が取り上げられています。
雇い主と労働者をマッチングさせる労働市場のプラットフォームは……
「(前略)無数の労働者と雇用主が距離を超えてお互いを見つけ出し、国境を越えて協力し、さらには国籍にもとづく差別さえもある程度克服するということを見事にやってのけた。」
……しかもこのプラットフォームでは、労働者のプロフィールに、過去にプラットフォームを通じて取り組んだプロジェクトの情報が表示されるので、学歴などに関係なく「仕事能力」だけで評価(デジタル資格証明)されるのです。このことは貧しい国の労働者を有利にする一方で、実績のない労働者の参入を阻むことになるなどの問題も生みました。それでもプラットフォーム側は、さまざまな対策で常に改善を重ねているようです。
とても良い試みだと感じたのが、プラットフォームが作った「各請負業者が各仕事に対して請求すべき金額を計算するアルゴリズム(レート・ティップ)」……これは新規参入労働者に、自分の仕事がいくらになるのかを予測可能にするとともに、業務の賃金水準を適正なものにするのに役立つと感じました。
その一方で、アルゴリズムが硬直化を招くのかも……との懸念も感じてしまいましたが、その点について……
「(前略)アルゴリズムにもとづく意思決定とは、官僚を別の言葉で言い表したものにすぎない。」
……まさに、その通りですね……。
本書は、巨大テック企業がサイバースペースに新しい市場(商業市場、闇市場、労働市場)を構築してきた苦闘が描かれていますが、「自由」をめざしてきたサイバースペースも、結局は「規制」などの既存法体制に類似した「制約」によって安全性や信頼性が守られているんだなーということを痛感させられました。
また第9、10章では、インターネット労働者が「集合行為」によって、プラットフォームに対抗した2つの事例が紹介されています。集団行為の中心主体が労働市場底辺の人々の場合は失敗してしまいましたが、中心主体が「デジタル中流階級」だった時には一定の成果があがったようです……これに関しても、中世から近世にかけての「市民革命」の成功要因とほぼ変わらないようでした……。
そして「第12章 結論」には、次のように書いてありました。
・「(前略)プラットフォームの技術は国を治める術に似てはいるが、プラットフォームが用いる統治術は領土に縛られたやり方ではない。プラットフォームは、土地を持たない国家であり、雲の上の(クラウド)帝国なのだ。」
・「政策立案者は、プラットフォームに民主制を無理矢理押しつけるのではなく、プラットフォームに内在する、民主主義の萌芽となる制度の支援を始めるべきだ。つまり、プラットフォームの異なる社会階層が自らの利益のために組織化するのを手助けし、プラットフォームの貴族から自分たちの利益を集合的に守ることを奨励し、またそうした行動によって生じる報復から彼らを保護するのだ。または、テック企業の社員や、消費者、労働組合、経済団体などと、プラットフォームの政治経済の内外で同盟を結ぶ手助けをすることも考えられる。さらに、プラットフォーム経済を取り巻く動向や、貴族たちの動向に関する情報に、彼らがアクセスできるよう手助けすることも含まれる。
EUが新たに策定したプラットフォーム透明化規則(platform-to-Business Regulation:P2B規制)は、この方向に暫定的な歩みを進めるものである。」
・「(前略)大手プラットフォームはみな、少なくともある程度は、管理上の判断は事前に公開されたルールにもとづくべきだという考えをすでに認めている。政治学では、この考えを法の支配という。(中略)
法の支配が広まれば、同じルールが誰にでも適用され、人々は何が許可され、何が許可されないかをあらかじめわかるようになる。」
・「EUの新規制は、苦情処理プロセスの提供を、大手プラットフォーム企業に義務づけている。商業ユーザーに無料で、アクセスしやすく、遅滞なく適切に対応する、「透明性と平等な扱いの原則にもとづいた」プロセスだ。」
*
……現在、プラットフォーム社会層には、4種の層(貴族層、中流階級(新しい市民)、最下層労働者、消費者)がいるようです。
この中で、貴族層と最下層の間にいる新興勢力(プラットフォームによって実現可能となった市場で、富を増やした個人や会社などの中級階級)が、サイバースペースの健全性を牽引していくことに期待しているようでした。
「(前略)権力を濫用する者がその意思でルールを変更できているかぎり、透明性、法の支配、司法審査、基本的人権は、乱用された側の人々に、よくても一時的な安らぎを提供するだけだ。歴史が示すように、何よりも優先すべきことは、人々、ここではとりわけ中流階級の人々が、組織し、同盟関係を築いて、貴族階級に対する自分たちの力を高めることだ。領土に縛られた政策立案者、経済団体、組合、市民社会であっても、こうした動きを支えることができる。プラットフォームのユーザーが組織した取り組みを奨励し、保護すればいい。そうすることではじめて、ユーザーは、ルールをめぐって君主たちと効果的に交渉を始める地位を手に入れる。」
『デジタルの皇帝たち――プラットフォームが国家を超えるとき』……デジタルプラットフォーム君主たちの野望、成功と失敗の経済学的メカニズム、そして彼らに抗った人々の姿を描くことで、デジタルプラットフォームに仕切られているサイバー世界も、多かれ少なかれ、古代・中世から近世の人間社会が直面したのと変わらない問題に直面し、その解決方法も、「規制」や「組織化」であるという現実を教えてくれる本でした。
新しい社会をどう生きるかだけでなく、良い方向に導くにはどうすべきかも考えさせてくれて、とても参考になったので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『デジタルの皇帝たち』