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第1部 本
科学
父が子に語る科学の話(アガシ)
『父が子に語る科学の話 親子の対話から生まれた感動の科学入門 (ブルーバックス B 2268)』2024/7/18
ヨセフ・アガシ (著), 立花 希一 (翻訳)
(感想)
ある日、科学史家のアガシさんは8歳になる息子アーロンに問いかけました。
「世界をよく理解する」とは、どういうことか? ……ふたりの対話はやがて、科学の歴史を縦横無尽に駆けめぐる、壮大な知的冒険の旅へとつながっていきます。古代ギリシアの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、そしてアインシュタインの相対性理論まで、物理のしくみを解き明かした驚くべき発見の物語で、主な内容は次の通りです。(なおこの本は、『科学の大発見はなぜ生まれたか(2002年)』を改題の上、大幅な改訳・再編集を加えたものだそうです。)
序文 科学はなぜ「対話」を必要とするのか?(読書猿)
第一章 科学って何だろう?――この世界のしくみを解き明かす方法
1 「世界をよく理解する」ということ
2 どうしてみんな科学を信じるの?
3 「まちがい」から発見が生まれる
第二章 世界は何からできている?――科学者たちが追い求めてきたこと
1 物理学の「もっとも重要な問い」
2 偉大な科学者は「過激派」だった?
3 もうひとつの科学革命
第三章 大発見はどうやって生まれる?――アイデアで世界を動かすには
1 すべては仮説からはじまる
2 情熱が定説を変える
*
「訳者あとがき」に、この本の概要が紹介されていたので、その一部をまず紹介します。
・「本書は、一九六六年夏に著者のヨセフ・アガシ(一九二七~二〇二三。以下、「アガシ」)と息子のアーロンとのあいだで実際に行われた対話の記録である。アーロンは一九五八年生まれなので、わずか八歳のときに高度な科学および哲学の内容を理解し、議論したことになる。」
・「本書の主要な論点はこうである。科学の営みとは、定説として受容されている科学理論を理解したうえで、それを批判し、修正していく試みの連続だというものである。理論の反駁に実際に成功し、その誤りを具体的に指摘すれば、それは一つの発見であり、さらにその誤りを克服する新たな理論を提示できれば、もう一つの発見となる。こうして科学は成長・進歩してきた。アガシは、この科学的探究活動を科学史の豊富な事例によって体系的に、しかも中高生にも理解できる平易な言葉で明快に示したのだ。」
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この『父が子に語る科学の話』は八歳の息子と父親の問答集(主に父が息子に説明しています)ですが、相手が八歳とは思えないほど哲学的・科学的に深い内容で、科学大好きの大人の私にとっても、とても勉強になりました。
「第一章 科学って何だろう?」では、現代では正反対のものと考えられることが多い「科学と宗教」について、400年前の人々は、その両者が同じように世界に関する真理の探究をしているものと信じていたと説明されています。科学者だからこそ迫害されてしまったコペルニクスやブルーノの時代には、人々は進歩というものを信じていなかったのだとか(古い時代のものほど正しいとすら、考えていたようです)。
天文の観測結果をもとに「地動説」を支持したコペルニクスを当時の人々が迫害したことについて、私たちは「観測結果という目に見えて確かめられるデータがあるのに、なぜ地動説が認められなかったのか」ということに強い疑問を抱いてしまいますが、当時の望遠鏡の精度が低かったことや、神がつくった世界は完全なのだから星は完全な「円」の軌道で動くはずという固定観念にとらわれていたことを思うと……「地動説」を信じることができなかった人々の考え方も理解できそうな気がしました。
実は「観察には限界」があるのです。次のようにも書いてありました。
「(前略)実験だけでは十分でないことをわれわれはすでに見てきた。思考もしなければならないのだ。実際におこなう必要すらない実験がたくさんある。注意深く考えさえすれば、結果がわかるのだ。思考実験によって、たいていは人がどこでまちがったかを示すことができる。」
ガリレオはさまざまな観察や思考実験を行い、慣性の法則や金星の満ち欠けの発見など重要な仕事を成し遂げました。
ただしガリレオの考察がいつも正しかったわけではなかったことも、本書には書いてありました。例えば……
「(前略)ガリレオとベーコンの双方にとって、迷信は混乱を意味し、科学は正しさを意味していた。(中略)かれらは、科学者はまちがいをおかさないと考えていたが、それが大きなまちがいだった。
今日でも、われわれはまだ、科学とは何なのか、迷信とは何であるのかを本当にはわかっていない。しかし、迷信と科学のあいだのちがいは、一方が正しく、もう一方がまちがっているということにあるのではない。」
……確かに、その通りですね。
続く「第二章 世界は何からできている?」では、私たちが教科書で習っているニュートンなどの理論がどのように生まれたのか、その時代の人々にどのように受け止められたのかについて知ることができます。
実は「ニュートン革命が起きたとき、多くの科学者にとって、ニュートンの理論は驚くべきものであり、困惑させられるものだった」ようです。
それでもその理論の正しさ(ニュートンの作用と反作用の法則や、力の法則の有用性)がしだいに確認されていくと、今度は、ニュートン理論には断固従うべきと神聖視されるようになっていくのでした……。
さらに「第三章 大発見はどうやって生まれる?」では、電気や磁気への理解が進んでくると、「ニュートン的な世界像では、力を入れたり切ったりできないのに、電気的な力や磁気的な力は入れたり切ったりできるのはなぜか?」など、ニュートンの理論では説明できない現象が起こっていることへの疑問が生まれてくるのです。次のように書いてありました。
「科学がどこに進んでいるのかつねにわかっているわけではなく、時には、その結果は驚くべきものになる。ニュートン自身、光の伝達理論の中に、ある種のエーテルを導入した。かれは、光が小さな原子でできているものと信じていた。光は粒子だった。実験によってニュートンは、白い光が七色のスペクトルに崩壊するのを観察し、したがって、七種の原子があると考えた。」
大天才ニュートンだって、世界のすべてを正しく理解できるわけがないですよね!
ニュートンは「力は遠隔作用」としていましたが、それが正しくないことに、次のようにファラデーやアインシュタインが気づいたのです。
・「ファラデーは、電気力が磁力になりうるように磁力が電気力になりうることを明らかにした。したがって、電気力と磁力は同等なのだ。第二に、あとで説明するように磁力は波なので、磁力が空間を移動するためには時間がかかる。だからファラデーは、遠隔作用は存在しないと結論した。」
・「アインシュタインは、物質、エネルギー、光の速さ、時間に関する観念の体系全体が、異なる系ごとに異なっていると考えたのだ。かれが二六歳ごろのことだ! かれは、ニュートンの重力理論が真ではないと悟った。なぜならば……」
「遠隔作用は存在しないからだ。」
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『親子の対話から生まれた感動の科学入門』……科学とは何かを考えさせてくれるとともに、科学の歴史上の天才たちが、どのような問題意識で思考を深め、革新的な理論を構築したか、その挑戦の軌跡を詳しく紹介してくれる本で、とても勉強になりました。
ガリレオやニュートンというと、その法則を学校の授業で習うので、なんとなく「最初から正しかったもの」のような気がしていましたが……すぐに受け入れられたわけではなく、実験や実用的有用性などを通して、しだいに「正しい」「重要なもの」になっていったんですね……。今、トンデモ理論として受け取られているものも、将来的には、もしかしたら?……なんてことになるのかも(笑)。あれ? 「量子論」はそれに近いものがありますね……。
科学について、とても哲学的な考察をしている本でした。科学の歴史を学べるだけでなく、特に「天才たちは何に着目して革新的な考えを抱いたのか」を詳しく知ることができたことがとても有意義だったと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『父が子に語る科学の話』