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第1部 本
教育(学習)読書
イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン(小林雅一)
『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン なぜ、わずか7年で奇跡の対話型AIを開発できたのか』2024/7/19
小林 雅一 (著)
(感想)
2023年、世界的な大ブームを起こした生成AI「ChatGPT」を開発したOpenAIのCEOサム・アルトマンさんを中心に、生成AI開発の歴史や、開発者たちの軋轢について詳しく紹介してくれる本で、主な内容は次の通りです。
■はじめに OpenAI、サム・アルトマンCEO解任劇の舞台裏
■プロローグ ―― OpenAI前史
【第1章】OpenAIの誕生 ―― 無謀な挑戦と迷走
【第2章】進化――転機と決意、集中
【第3章】飛躍――メガヒットに至る経緯と隠された軋轢
【第4章】踊り場―― 生成AIの原罪「著作権問題」とOpenAIの足場固め
【第5章】未来 ―― アルトマンの果てしない野望とAGIへの道
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この本は話題の生成AI「ChatGPT」で有名なOpenAIのサム・アルトマンさんの伝記でもありますが、生成AIの歴史的経緯も詳しく紹介されています。
例えば「■プロローグ ―― OpenAI前史」では、1980年代、AI研究者が「バックプロパゲーション」アルゴリズムを開発したことや、エヌヴィディアのGPUに注目した大学院生からAIブームが始まった(処理能力が飛躍的に向上した)こと、さらにグーグルがヒントンさんなどの高名なAI研究者を引き抜いて、AI(ディープラーニング)のトップに躍り出たことなどが紹介されていました。
続く「【第1章】OpenAIの誕生 ―― 無謀な挑戦と迷走」では、OpenAIは、そもそも「人類に貢献する安全なAGI」を実現するために作られたことが書いてありました。
OpenAIを立ち上げることになるイーロン・マスクさんとアルトマンさんは……
・「グーグルのような営利企業が人類の将来を左右するかもしれない重大なAI技術を、所詮は自らの利益のために開発・利用するのは危険ではないか。むしろ非営利の研究団体を立ち上げて、そこで単なる一企業ではなく人類全体に奉仕するAI、ひいてはAGIを開発していくべきではないか、と彼らは考えた。」
・「マスクとアルトマンのプロジェクトは「非営利の研究団体」となることが決まり、マスクがこれを「OpenAI」と命名した。この研究所で開発したAI技術やソースコード(コンピュータ・プログラム)を特許で囲い込むことをせず、むしろ論文発表などを通じて技術をオープン化して人類全体に貢献するという趣旨だった。」
……そしてグーグルから、スツケヴァーさんという超エース級の人材を獲得して……
・「2015年12月、マスク、アルトマン、ブロックマン、スツケヴァーをはじめ6名の起業家・技術者らを共同創業者としてOpenAIは正式に発足した。」
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ところがしばらくの間は、OpenAIでは誰も目指すべき方向性が分からないまま、研究者たちが各自自由に研究に打ち込んでいたようです。
その中の一つとして大規模言語モデルが開発されていたのですが、それにグーグルが特許を持っている「トランスフォーマー」という考え方を取り込んでみたら、飛躍的にその能力が向上したのです。これを受けてOpenAIは……
・「(前略)2017年を境に、OpenAIはそれまでの自由放任主義から、トランスフォーマー方式に従う新しい言語モデルの研究開発へと徐々に活動を収束させていくのである。」
そして「【第2章】進化――転機と決意、集中」と「【第3章】飛躍――メガヒットに至る経緯と隠された軋轢」では、マイクロソフトから巨額の出資(そのうち一部はマイクロソフトのクラウド資源をOpenAIに使わせるという形)を受けて、OpenAIは著しい成果を上げていく一方で徐々に営利企業化していったこと、それに反対する人々との軋轢が生まれていったこと、などの内部事情があったことを知りました。
「本来、OpenAIは非営利の研究団体として「人類全体に貢献する安全なAGIの実現」を目指していたはずなのに、いつの間にか事実上の営利企業と化してマイクロソフトに発行株式の49パーセントを握られることになった。」
……またAI分野でかつて圧倒的な実力を示していたグーグルは、このAIブームに乗り遅れ、画期的なAI論文の共著者らが全員グーグルを去るという事態を招いてしまったようです。
「グーグルはトランスフォーマーなど生成AIの基盤技術を生み出しながら、それをChatGPTのように独立した新製品としてリリースすることを躊躇した。つまり画期的技術で次なる大型市場を開拓しようとするよりも、既に確立した「検索エンジン」などの巨大市場を守る方を優先した。いわゆる「イノベーターのジレンマ」に陥ってしまったのである。」
……そうだったんだ……。
さらに「【第4章】踊り場―― 生成AIの原罪「著作権問題」とOpenAIの足場固め」では、生成AIの学習データの著作権問題が顕在化していきます。
「2023年12月27日、世界的な影響力を有する米国の新聞社ニューヨーク・タイムズがOpenAI、並びに同社と資本・業務提携するマイクロソフトを著作権侵害を理由に提訴した。」
……これに関してアルトマンさんは、生成AIが各種テキストなどのコンテンツを機械学習するのは、人間が書物や新聞を読んで学ぶのと同じで、学習したものから別の作品を出力する際に、それが十分にオリジナル作品から改変されていれば、フェアユースになるので著作権侵害に当たらないと考えているようでした。
これらの訴訟は続いていますが、OpenAIなどの生成AI開発側が、新聞社やクリエーターにコンテンツ使用料を支払うことで和解するという動きもあるという状況のようです……難しい問題ですね。
なお学習用の記事データなどが使い尽くされてしまった後は、「合成データによる機械学習(アルファ碁と同じように、生成AI自身が作った文章を学習する)」ことも検討されているようです。
そして最後の「【第5章】未来 ―― アルトマンの果てしない野望とAGIへの道」では、生成AI開発中のビッグテックで、現在使っているGPUを自社製のものに変えるためAI半導体の開発への動きが進んでいることや、AIの擬人化問題、AIによる巧みなフェイクニュースが民主主義の根幹を揺るがしかねない問題など、さまざまなことが紹介されていました。
また検索エンジンに生成AIが導入されて、ユーザーの質問に適切な回答や情報を返してしまえば、ユーザーがあえてメディアなどのサイトをクリックして調べる必要がなくなってしまうことから、検索トラフィックが25%減少する可能性があることも予想されている(広告収入が減少する恐れがある)ようです。
『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン なぜ、わずか7年で奇跡の対話型AIを開発できたのか』……驚きの進化能力を示している生成AI・ChatGPTを開発したOpenAIのCEO、アルトマンさんを中心に、生成AIの歴史・現状・未来について詳しく紹介・解説してくれる本で、とても参考になりました。生成AIに興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン』