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第1部 本
教育(学習)読書
基礎研究者 真理を探究する生き方(大隅良典)
『基礎研究者 真理を探究する生き方 (角川新書)』2024/9/10
大隅 良典 (著), 永田 和宏 (著)
(感想)
最短最速で成果が求められる現代社会。ビジネスの現場だけでなく、研究や教育など、あらゆる領域に「役に立つかどうか」の指標が入り込んでいる現状に、基礎科学の最前線を走ってきた大隅さんと永田さんが警鐘を鳴らしている本で、自らの体験から、真理を探究する「基礎研究者」の生き方も語ってくれます。
なお「新書化によせて 永田和宏」によると、「本書は、大隅良典さんとの共著『未来の科学者たちへ』を新書化したものです。新書化に伴い、タイトルを変更することになりました。」だそうです。
さて「序章 こんなに楽しい職業はない」では、大隅さんと永田さんが、基礎研究者について次のように語っていました。
永田「(前略)私は科学者にとってももっとも必要なことの一つに、何かを本当に「おもしろい」と思えるかどうか、おもしろがる能力があると思います。」
永田「(前略)失敗はべつに推奨されるものでもないけれど、一般社会と違って、研究者の世界というのは、失敗に意味がある。あるいは失敗から思いがけない新しい発見が導かれるという珍しい世界ですよね。だから思い切った挑戦ができる。ここを大切にして欲しいですね。」
永田「(前略)専門だけでなく、専門以外のことにも興味を持って欲しいということです。」
大隅「(前略)人間は集団の中で育っていく。その集団に多様な人がいることが大事です。評価軸から外れるような人も含めた多様性です。その中で発見が出てきたりするんです。」
*
続く「第I部 研究者の醍醐味」では、大隅さんと永田さんがどのような人生を歩んできたのかが紹介されていました。
ここで永田さんは……
「基礎研究者は役に立たないことをやっていて、税金泥棒に近いのではないかというような極端な見方があるが、応用研究はすべて基礎研究の蓄積の上に成り立つのだという、誰にも否定できない事実を、社会全体が共有する必要がある。」
……と語っていて、大隅さんは……
「私の根底には「人のやらないことをやろう」という思いがある。」
……と語っています。
そして「第II部 効率化し高速化した現代で」では、お二人が、現代の社会と科学の問題点などを指摘していました。
永田さんは……
・「私は、なにかを知るため、理解するために費やす時間が、その長さが大切だと思っている。知りたいことがあって、すぐにわからなければ、その疑問はずっと頭の片隅に残っている。こびりついている。わからない間、もしかしたらこうではないか、ああではないか、と想像力が働く。(中略)この飽くなきプロセスによってこそ、想像力が養われていく。」
・「物事をシステマティックにし、無駄を排して、効率化を極限まで進めているのが現代の社会だ。そんないまだからこそ改めて、目的に一直線に行かず、周囲を見回したり、寄り道をすることによる思いがけない出会いにも目を向けて欲しい。」
*
そして大隅さんは、研究には大きな費用がかかるとして……
・「(前略)次の研究費を獲得するには期間内に成果を挙げなければならないというプレッシャーがある。
私は、こうした余裕のない状況は非常に大きな問題だと思っている。なぜなら、確実に成果を得られる課題を選ぶことになり、答えが出るかがわからない問題に挑戦することが難しくなるからだ。長い研究期間を要する研究計画も提案しにくい。短期間で成果が見える研究が重視され、基礎的な研究は自ずと敬遠される傾向が強まっている。」
……という問題と、日本にももっと議論しやすい環境が必要なことを指摘しています。
・「海外に行って私が痛切に感じることの一つは、私も含めて日本人研究者が総じて議論が苦手であるということだ。」
・「(前略)海外の大学の研究機関では日中にいわゆるファカルティーメンバー(教職員)の研究者などが集まるTea timeがあって、違った研究室や異分野の人と茶とクッキー片手に1時間ほど自由に話す。(中略)彼らは日頃から、専門分野のまったく違う人と会話をする訓練をされているのだと気づかされる。」
*
さらに「第III部 「役に立つ」の呪縛から飛び立とう」で、永田さんは……
・「(前略)「問い」と「答え」のいたちごっこ、あるいは「仮説」と「検証」の繰り返しの中で、徐々に自分の研究対象が、大きな一つの図としてまとまっていく醍醐味は、他には代えられない喜びである。」
・「先に、教えすぎないことの大切さということを述べたが、いま一つ、わが国の大学などにおける高等教育で考えなければならない問題として、失敗を学ばせることの大切さということがあるのではないか。」
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また大隅さんは……
・「(前略)科学的な知識を持つことで、視野が広がり、人生は豊かになる。」
・「(前略)役に立つかどうかについては、実は長い年月の後に検証されるものだろう。基礎研究の価値を評価するには、少なくとも10年、20年、時には何十年もの時間が必要かもしれない。」
・「(前略)科学は国家だけが支えるのではなく、科学者を含む社会全体で支えることが必要なのではないか。
私はそんな思いが募って、7年前の2017年、基礎科学の振興を目指す財団を立ち上げようと決心した。」
……実際に大隅さんは、「大隅財団」を作って、若い研究者たちを支援しているようです。とても素晴らしいことですね☆
「おわりに」の最後には、次の文章が綴られていいました。
「科学は歴史の中にある人間活動の一つであり、絵に描いたような理想的なシステムは存在せず、さまざまの問題を試行錯誤しながら、前に進めていることを知ってほしいと思います。何にも増して、次世界を担う若者が、科学研究の楽しさを知り、真理の探求にチャレンジしてくれることを願っています。」
『基礎研究者 真理を探究する生き方』……オートファジーの仕組みの解明でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅さんと、京都大学名誉教授の永田さんが、基礎科学者の生き方や、教育のあり方について語ってくれる本で、とても参考になりました。基礎科学者を目指している方はもちろん、科学が好きな方、教育に関係する仕事をしている方も、ぜひ読んでみてください。
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『基礎研究者 真理を探究する生き方』