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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

地球規模の気象学(保坂直紀)

『地球規模の気象学 大気の大循環から理解する新しい気象学 (ブルーバックス)』2023/11/16
保坂 直紀 (著)


(感想)
 偏西風、貿易風、コリオリの力、偏西風波動、ブロッキング高気圧、さらには低緯度から高緯度への巨大な流れであるハドレー循環、フェレル循環、極循環、ロスビー波など大気の大循環を構成するものについて解説してくれる本です。
大気の流れについて、次のように書いてありました。
「(前略)太陽の熱が大気にエネルギーを与える。そのとき、赤道付近に与えられるエネルギーは、高緯度地帯よりも多い。もしそのままであれば、赤道付近の気温は、いまよりもっと高温になってしまうはずだ。この赤道付近と高緯度地域の不均衡をならしているのが、地球規模の大気の流れなのだ。」
 ……だそうです。なるほど、大気循環がなければ、赤道はもっと暑く、極地方はもっと寒くなるはずなんですね。次のようなことも…‥
・「大気の大循環は、低緯度と中緯度では様相が違う。低緯度の大気大循環は、赤道から30度くらいの緯度にかけて南北に循環する閉じた大気の流れが特徴だ。ハドレー循環とよばれるこの流れは、それより高緯度にはしみださない。中高緯度では、中緯度上空のジェット気流に代表される東向きの流れが卓越している。
 低緯度はハドレー循環で中高緯度は偏西風。別々のパーツでできている。これが、地球をめぐる大気大循環のもっともシンプルな描像だ。」
・「(前略)低緯度は低緯度なりの、高緯度は高緯度なりの気候が保たれているのは、大気や海の大循環が低緯度から高緯度へ熱を運び、その温度差をならしているからだ。」
・「(前略)もともとは太陽からきたエネルギーが大気や海洋の循環によって地球全体に行きわたり、その結果として実現した気温や地表面の温度などに応じて、長波放射が放出される。地形も影響している。それが大気の状態に影響を与え、あらためて気温や地表面温度が決まり、それが長波放射として放出されて……」
 ……こんな感じに地球規模の巨大な循環システム「大気の大循環」は、なっているんですね……。
 そして雲についても次のように説明されていて、とても勉強になりました。
・「その温度に対して多すぎる水蒸気は、液体の水にならざるをえない。こうしてできる微小な水滴の集まりが雲だ。そしてこのとき凝結熱を放出する。」
・「水蒸気に潜熱として蓄えられたエネルギーが熱に変わる条件が整うと、その空気は性格が一変していっきに上昇し始める。対流圏の上端に達する高さ十数キロメートルもの巨大な積乱雲が生じるのも、このしくみがあってこそだ。」
 ……巨大な積乱雲が、意外なほど短時間に「むくむく」育っていくのは、こういうメカニズムだったんですね!
 そして低緯度・中緯度の気象の大循環については……
・「(前略)低緯度のハドレー循環では、暖かい空気が対流で北に動くことで熱を運んでいた。ところが、中緯度では、(中略)波動が、あるいは波動が崩れた残がいが熱を北に運ぶ。」
・「地球の大気大循環は、大きな目でとらえれば、赤道付近で太陽から受け取った多量の熱を、地球全体に配分するシステムだ。いまの地球で実現している大気と海の大循環では、熱はきちんと運ばれ、太陽からのエネルギーの入りと出がバランスしている。その運ばれ方が、低緯度の大気では南北方向に空気が流れる循環であり、中緯度では波動なのだ。」
 ……この「波動」に大きな影響を与えているのが、「ロスビー波」。これは、地球が自転していて、かつ球形であって、はじめて発生する波で、西から東に一様に進む「基本流」に、東西に渦が並ぶ「ロスビー波」が重なると蛇行する流れになるそうです。
・「上空を流れるジェット気流の蛇行パターンは、(中略)偏西風帯を西から東に流れるまっすぐな基本流に、西に進むロスビー波が重なったものと考えることができる。ロスビー波は、その東西波長が長いほど、西に進むスピードが速い。したがって、波長が長ければ、基本流の速いスピードとつりあって、その場に停滞することになる。」
・「定常ロスビー波となったジェット気流の蛇行は、停滞するだけでなく、蛇行の南北への振れ幅が、とても大きくなる場合がある。北側に蛇行している部分には、基本流に時計まわりの渦が重なっている。北半球だと、これは高気圧に特有の渦だ。つまり、北に大きく蛇行した部分は、そこに高気圧を抱え込んでいる。こうしてできた大きな高気圧をブロッキング高気圧という。」
 ……冬の異常気象は、ブロッキングが関係していることが少なくないそうです。
『地球規模の気象学 大気の大循環から理解する新しい気象学』……大気の大循環によって地球上のそれぞれの地域の気象・気候が決まっていくことを、じっくり解説してくれる本でした。ちょっと難しく感じる部分も多かったですが(涙)、いまいち分かりにくい「コリオリの力」が、「見かけの力」で、「非慣性系」を、運動方程式が成立する「慣性系」として扱えるようにするために考えだされたことを知ることができたし、「「見かけの力」なので、風を起こすことはなく風の流れる道筋を変えるだけ」とか、「緯度が高いほど大きな力として働く」などの性質を学ぶことも出来ました。
 とても参考になる情報が満載なので、気象や科学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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『地球規模の気象学』