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第1部 本

数学・統計・物理

ヤバい統計(スタージ)

『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか (集英社シリーズ・コモン)』2024/1/26
ジョージナ・スタージ (著), 尼丁 千津子 (翻訳)


(感想)
「根拠(エビデンス)に基づいた政策決定(EBPM)」が流行り言葉のようになり、人工知能やアルゴリズムに意思決定や判断を任せようという動きも見られる英国で、その政策や意思決定は本当に信用できるものなのか……英国国家統計局に関わり政府統計の世界を知りつくすスタージさんが、英国の移民政策、人口、教育、犯罪数、失業者数から飲酒量まで、実に多彩な事例で、「ヤバい統計」が混乱をもたらした一部始終を解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第一章 人々
第二章 質問する
第三章 概念
第四章 変化
第五章 データなし
第六章 モデル
第七章 不確かさ
   *
「はじめに」には、2004年、英国で行われた農業改革が、大失敗に終わってしまった事例が紹介され、次のように書いてありました。
「このようなことが起こったのは、一度だけの話ではない。政府がこの手の見当違いを繰り返すのは、「バッドデータ」(訳注:統計学的に理想的なデータに紛れ込んで分析を邪魔する粗悪なデータ)を利用しているからだ。しかも、ほとんどの場合、自分たちがそうした「ヤバい」データを使っていることに気づいてさえいない。」
「「バッドデータ」を問題視しなければならないのは、政府が重大な決断をする際には必ずデータを利用するからだ。そして、政策の正当性を確かな証拠に基づいて示すよう求められているために、政府は現実的にやや無理があるかたちでも、費用対効果を数値化しようと試みる。「バッドデータ」を問題視しなければならない理由はほかにもある。世間は自分たちが見たり聞いたりする情報の出所が国の統計職員といった信頼すべき人々であれば、その情報を信用してしまいがちだ。私たちは、ありとあらゆる物事について、それに関するデータが必ず存在し、手に入れられると思い込む傾向がある。」
「来たる時代を望ましいものにするためには、「グッドデータ」が必要だ。現在使われているデータには問題や重大な欠陥が多数あり、そうした問題を解決しないまま、政策の策定過程でデータがますます大きな役割を占めるような将来を迎えてはいけない。「バッドデータ」のなかでも特にひどいのは、犯罪、移民、収入、社会福祉、失業、貧困、平等といった、人々にとって最も重要な問題に関するデータなのだから。」
    *
 ……でも「グッドデータ」を得るのは容易ではありません。「第一章 人々」では、標本調査に関わる問題が、そして「第二章 質問する」では、データの集め方の問題が次のように書いてありました。
「何かについてのデータを集めようとする場合、結果的にどのデータが最も役に立つのか、または最も興味を引き起こすのかが、その時点ではわからないことが多い。そのため、「何を測るか」「測り方をどう定義するか」「その定義に入るか入らないかの境界線をどう引くか」について、常に選択を迫られることになる。」
「データを集めるとき、「何を数えるのか」という疑問より前に問う必要があるのは、「何かを数えなければならないのは、なぜなのか」ということだ。たとえば、政府の政策について考えてみると、「問題は何か」「その問題にどう対処すべきか」「政府が行った取り組みは意図したとおりの効果を発揮したか」を示すデータが必要になることがわかる。」
「適切な指標を選ぶことは、大事な何かを見落とさないために重要だ。さらにいうと、問題をどう捉えるかで解決策が変わってくるため、その意味でも適切な指標選びは大事だ。
 一つの指標にあまりに強く依存してしまうと、現状について一方的な見方しかできなくなる。その結果、ごく限られた解決策しかないと思い込んでしまう恐れがある。」
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 政府が良かれと思って決めたことが、正反対の結果を生んでしまうことすらあるようです。例えば、19世紀末にインドの英国総督府がコブラを捕まえて殺処分すれば報奨金を出すと約束したことで、コブラ繁殖ビジネスが生まれて、コブラはむしろ増えることになってしまった……人間の欲望と適応力を甘く見てはいけないということですね……(苦笑)。
「第七章 不確かさ」では、政治家たちが置かれている厳しい立場について、次のように書いてありました。
「政治家たちは、決断のための具体的な裏づけがないときでさえも、強い決断力を発揮するよう世間から求められる。」
「政治家は常に手元に答えを用意しておかなければならず、しかも単純明快で補足説明が長くない答えを周囲から望まれる。」
 ……たとえ「バッドデータ」であろうと積極的に利用したくなるのは、こういう状況に置かれているからなのでしょう。
 そして私たちがすべきことは……
「統計データそのものを改善しない限り、私たちが取れる唯一の策は、統計データを利用する際に、その確かさと不確かさの適切なバランスをとるようにすることである。」
 ……統計データを利用して何かを判断する場合には、少なくとも「データの実際の出所を確認すること」と「統計学の基礎知識」が必要になるんですね……。
『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』……政府や世論がなぜ数字に騙されるのかを豊富な事例で教えてくれただけでなく、英国の意外な状況(2011年の国勢調査では英国の人口が推測より50万人も多かった(移入民関連の数に大きな違いがあった)とか、英国の土地のおよそ15%が未登記とか)も知ることが出来て、興味津々でした。英国のような先進国でも、国の基本的なデータにすら問題があるんですね……日本にも同じような問題があるのでしょうか……(ちょっと心配)……IT技術の進展による「ビッグデータ」で、これらの「バッドデータ」が少しでも「グッドテータ」に変わっていくと良いのですが……。とにかく統計データを盲信してはいけないことを肝に銘じたいと思います。
 時にはユーモラスな事例に笑いながら、データリテラシーを学べる本でした。とても参考になるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『ヤバい統計』