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第1部 本

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Invention and Innovation(シュミル)

『Invention and Innovation: 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』2024/3/15
バーツラフ・シュミル (著), 栗木 さつき (翻訳)


(感想)
 過去の「イノベーションの失敗」から教訓を得て、テクノロジーの歴史と未来を考察している本で、内容は次の通りです。
第1章 発明(インベンション)とイノベーション―その長い歴史と現代の狂騒
第2章 歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明
第3章 主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明
第4章 待ちわびているのに、いまだに実現されない発明
第5章 テクノロジー楽観主義、誇大な謳い文句、現実的な期待
訳者あとがき
参考文献
索引
   *
 発明には次の4つのカテゴリーがあるそうです。
1)手製の道具:はじめての石器など
2)機械:大型水車、風車など
3)新素材:金属、合金、化合物など
4)製造、操業、管理の新たな「方法」:大量生産、TPSなど
 そしてイノベーションとは、「新たな材料、製品、プロセス、アイデアを取り入れ、習得し、活用する過程」として理解すればいいのだとか。
 この本では、大惨事を招いた設計ミス(タイタニック沈没など)や、商業的失敗(VHSに破れたベータマックスなど)、企業が肩入れしたのに不評に終わったもの(フォード社のエドセルや、グーグルグラスなど)ではなく、次の3つのカテゴリーのものを取り上げています。
1)歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明
(有鉛ガソリン、DDT、クロロフルオロカーボン類(フロンガス))
2)主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明
(飛行船、核分裂反応を利用した原子力発電、超音速飛行(スーパーソニック・フライト))
3)待ちわびているのに、いまだに実現されない発明
(ハイパーループ――真空(に近い)空間で移動する高速輸送システム、窒素固定作物、制御核融合)
   *
 まず「歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明」の例として「有鉛ガソリン」の経緯が詳しく紹介されていましたが……これは、ある意味、犯罪的なほど「迷惑な発明」だったようです。なぜなら鉛が有害であることは昔からよく知られていた上に、エタノールやベンゼンなどを混合させればよいことも当初から分かっていたから……。それなのに、コストやGMの市場支配戦略などのために、意図的に「有鉛ガソリン」が選ばれたようです。次のように書いてありました。
「(前略)神経毒が深刻な被害を及ぼすことに疑いの余地はなく、一部の問題にすぎないとか、社会にとってそれほど重大な問題ではないと片づけることはできないのだ。鉛への曝露の累積効果が次の世代へ、また次の世代へとどう及んでいくのか、また地球全体にどれほど悪影響を及ぼすのかを定量化することはできないが、当初は技術的な課題に対する完璧な解決策として誉めそやされたのに、ひとりの人間の将来の可能性を潰すほどの被害をもたらした発明の例はほかにそうあるものではない。しかも、そうした悪影響は本来避けられるものだったのだ。」
 ……恐ろしいことですね……。
 その一方で、オゾン層を破壊することが判明したクロロフルオロカーボン類(フロンガス)については、オゾン層破壊の危険性は当初から分かっていたわけではなく、しかも危険性が判明した後、アメリカ最大のクロロフルオロカーボン・メーカーだったデュポン社は、早期の製造禁止を受け入れ、かなり速いスピードで代替製品を供給する役割を果たしたということも書いてありました。「迷惑な存在になった発明」への企業の姿勢は、大きな影響を与えるんですね……。
 そしてこれらの失敗から得られる教訓として……
「これら三つの有名な失敗の歴史から得られる教訓には、励まされるものがある。私たちにはよりよい代替案を考えだすだけでなく、世界的な規模で製品仕様の禁止や全廃に踏み切ったり、有用な代替品や代替策を利用する国際的なルールを定めたりする能力があることだ(一部、目立つ違反はあるが)。」
 ……確かにそうですね! 人間は、未来や地球全体にとって「正しいこと」をあらかじめ全て分かっているわけではなく、その能力もありませんが、少なくとも「悪いこと」に気づいたら、それを「正していく」能力や「防ごうとする」能力はあるのだと思います。
 そして「待ちわびているのに、いまだに実現されない発明」としては、食料需要の増加への対策(窒素固定作物)の例が紹介されていました。例えばマメ科植物は、肥料をまったく、あるいは最小限しか必要としませんが、それには共生している根粒菌が関係しているようです。
「根粒菌による窒素固定が発見されると、魅力的な可能性が生じた。穀類がマメ科植物のように機能するように誘導し、根が窒素固定細菌と共生できるようにすれば、必要な窒素のすべてを、あるいは大半を得られるようになるかもしれない。(中略)植物と細菌の生理学や遺伝学への理解が進むにつれて、あきらかにまだ実現が困難なこのアイデアをそう遠くない将来に実現できるかもしれないという期待が芽生えた。」
 さらに熱帯イネ科植物の根に付着する窒素固定細菌が発見され……
「これらの窒素固定細菌は、根粒と言った目に見える植物の器官に生息し、宿主植物と共生しているのではなく、植物の根の表面や付近に分散し、根の浸出液の一部を吸収し、固定した窒素へと間接的に形を変える。のちに、穀物の根に生息するアゾスピリルム属による窒素固定は、稲とトウモロコシが必要とする窒素の総量に対して無視できないほどの貢献をしていることがわかった。
 この発見により、植物の根に生息する共生細菌の数を増やせるのではないかという考えがでてきた。」
 これらの研究はまだ実現に至っていないようですが、この他にも、窒素固定遺伝子を直接、穀物に組み込み、いっさい微生物の力を借りずに、窒素を固定できる新たな品種の穀物を作り出そうとする動きもあるのだとか……今後も注目していきたいと思います。
 そして「第5章 テクノロジー楽観主義、誇大な謳い文句、現実的な期待」では、耐性菌の拡大を抑える、普通教育の基盤を世界に広めるなど、私たちにとって望ましい世界の実現が進んでいないことが示され……
「(前略)こうした望ましくない、あるいは屈辱的な現実を改善するには、なにも輝かしい発明など要らない。そうではなく、すでによく知られている信頼の置ける手法・技術・手順を、決然と広めていくしかないのだ。大局的に見れば、既存の手法を改善し、それをだれもが利用できるようにするほうが、より短期間でより多くの人たちが恩恵を受けられるようになる。それは発明に過剰なまでの期待を寄せ、奇跡のようなブレイクスルーが起こるのを待つよりよほどいい。もちろん、新たな発明を追い求める姿勢に悪いところはない。ただ、きらきらと輝く(可能性はあるが確実ではない)未来を実現しようとする努力と、十分に習得はしているものの、広く普及していない理解や成果のあいだで、もっとバランスをとってほしいと願っているだけなのだ。」
 ……とありました。これが本書の最も伝えたいメッセージなのでしょう。
『Invention and Innovation: 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』……科学大好きな私としては、たとえ失敗したとしても、「発明」や「イノベーション」には大きな価値があると信じていますが、「現状のまま使えるものをよりよく使っていく工夫」にも、もちろん実用的な価値が大いにあると思います。
 過去の「失敗」から得られる教訓や、いま本当に必要なビジョンについて考えさせてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『Invention and Innovation』