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第1部 本

科学

自然科学ヒストリア(見附孝一郎)

『自然科学ヒストリア:ギリシャ哲学から現代科学まで』2023/8/4
見附 孝一郎 (著)


(感想)
 古今の自然科学者の情熱が人類に何をもたらしたのか、そして現代にどう引き継がれてきたのか……実験化学者の視点から観た科学・技術の2500年間の歩みを概説してくれる本です。
「まえがき」には、「最近は学際的な分野が広がっている」として、次のように書いてありました。
「(前略)他分野に深く立ち入らないと自分の行っている研究の位置付けすら難しくなってきています。こういった点からも、大学入学後の早い機会に、ギリシャ哲学、中世の科学と宗教の関わり、近代の科学革命、現代自然科学の急激な発展と変貌といった自然科学全体の流れを把握しておくことは、のちのちの学習に様々な恩恵をもたらすであろうと信じています。」
 ……ということで高校生や大学生、さらには教養を高めたい一般の方に向けて、「自然科学」の大まかな流れが紹介されていきます。
 まず紹介されるのが、世界最古のメソポタミア文明で農業技術が確立したこと。彼らは太陽の運行の様子から一年が360日と把握していて、円周を360分割する「度」の概念や、60進法を利用していたそうです。
 そして古代ギリシャのソクラテスのイデアやデモクリトスの原子説、アラビアの自然科学、16世紀半ばからの冶金術(金属の精錬・純度鑑定法、武器物質の製造法の確立、ビーカーやフラスコ等の実験器具の発明)などが続き、17世紀の科学革命へとつながっていきます。
 科学革命を簡潔に言い表すと……
1)自然は何らかの法則に従う規則性を持っていることが発見され、
2)その法則を実証するための手法や道具や自然観が新たに発明された
 ……ということになるそうです。
 そして各分野にパラダイムシフトを起こした人として……
1)16~17世紀:物理学、天文学、数学
・ヨハネス・ケプラー(惑星の軌道を説明する三つの法則の発見)
・ガリレオ・ガリレイ(物体の運動に数学的手法を持ち込む)
・アイザック・ニュートン(万有引力の法則で地上の運動と天空の運動を統一的に理解)
2)化学分野
・アントワーヌ・ラボアジェ(定量化学)
3)生物分野
・ダーウィン(進化論)
4)分子遺伝学分野
・クリックとワトソン(DNAの二重らせん構造の発見)
 ……などが紹介されていました。
 このような「自然科学」の歴史を理解しておくことは、自分の考え方のベースを作る上でも役に立つと思います。
 例えば「地動説」。「天(太陽や月や星)」が動いているのではなく、「地球」が動いているということは、私たちにとっては常識ですが、もしもその知識がなかったら、「地球が動いている」ことを信じられるでしょうか? 地面に印をつけて飛び上がっても、同じ印のところに降りるだけなのに? ……この本では、そんな直観的には理解しがたい「地動説」が発展してきた経緯についても知ることができます。
 古代ギリシャの哲学者たちは「天動説」を信じ、中世のキリスト教もそれを支持して「地動説」を弾圧していましたが、天体観測が進むとコペルニクスらによって地動説が唱えられ、しだいにそれに賛同する科学者が増えていったそうです。その一人、ジョルダノ・ブルーノも次のようにコペルニクス説を支持したのだとか。
「(前略)彼は航海中の船が動いていようがいまいが、マストの上から落とした物体は真下に落ちるという経験を引き合いに出して、コペルニクスの言うように地球が西から東に回転していても、垂直に投げ上げられた物体が元の場所よりも西側に落ちるということはないことを指摘したそうです。」
 ……なるほど。
 さらにガリレオは望遠鏡を発明し、次のように地動説を支持しました。
「1610年には、木星の四つの衛星を発見し、地球のみならず木星も周回する天体を持っていることを明らかにしました。つまり地球と月の組合せが決して特別の存在ではないことになり、これも天動説に対する反証となりました。」
 そしてついに……
「コペルニクスとケプラーによる惑星運航の研究、ガリレオによる望遠鏡観測、およびニュートンの運動方程式によって地動説は多くの人々に信じられるようになりましたが、最終的な証明は、一七二八年のジェームズ・ブラッドリー(一六九三~一七六二)による年周光行差の発見および一八三八年のフリードリッヒ・ベッセル(一七八四~一八四六)による年周視差の観測によってなされました。
 これらの差が生まれる理由は、太陽を中心に楕円運動(公転)している地球から遠方の星を観測したとき、見かけの星の位置が本来の位置からわずかにずれて見えるからです。楕円軌道に沿って移動した結果、地球から見た星の位置は、太陽から見た本来の星の位置と比べてわずかなずれを生じます。その変化分が最大となる半年後のずれを年周視差と呼びます。一方、星から届く光のスピードに対して、地球の公転スピードが完全には無視できないという理由からも、見かけの星の位置は本来の位置からわずかにずれてきます。このずれは一年周期で正弦関数に従って変化するので、ずれの絶対値は一年のどこかで最大となり、そこから半年後にもまた最大となります。そういったずれを年周光行差と呼びます。」
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 ……この「地動説」は、「観察・実験→仮説→観察・実験→検証」という現在の自然科学の発展の仕方を象徴していると思います。
 また、さまざまな自然科学の理論については、最終的に「正しい」とされたものだけを学ぶ(理解する)のが効率的ではありますが、そこに至った経緯を知ると、理論について、より理解しやすくなるように思います。理論の最初のアイデアは原初的な形をしているだけに私たちにとって「直観的に理解」しやすいし、それが「段階的に発展」していった経緯を知ることも、私たちが「少しずつ理解を進める」ことにつながるので……。
『自然科学ヒストリア: ギリシャ哲学から現代科学まで』……この他にも、熱とエネルギーと電気、合成化学、量子力学、天文学、生物学、病理学、脳と心理など、自然科学全体の歴史を概観して紹介してくれる本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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自然科学ヒストリア