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第1部 本

科学

古代日本の超技術〈新装改訂版〉(志村史夫)

『古代日本の超技術〈新装改訂版〉 あっと驚く「古の匠」の智慧 (ブルーバックス)』2023/12/14
志村 史夫 (著)


(感想)
「五重塔」はなぜ倒れないのか? 法隆寺の釘はなぜ1300年も朽ちないのか?……現代のハイテクを知り尽くす実験物理学者の志村さんが、日本が誇る古代の工匠たちの「驚異の技」の謎を解きあかしている本で、主な内容は次の通りです。
第1章 三内丸山遺跡──縄文時代の最新技術
第2章 「前方後円墳」──巨大墳墓はなぜ大量に造られたのか
第3章 五重塔はなぜ倒れないのか──揺れる「心柱」の秘密
第4章 日本古来の「木材加工」技術──適「材」適「所」、適「具」
第5章 「呼吸する」古代瓦──“瓦博士”との共同研究
第6章 法隆寺の和釘と日本刀の秘密──古代鉄はなぜサビないのか
第7章 「奈良の大仏」建立の謎──天平時代の工匠はなぜ「長登の銅」を選んだのか
   *
 科学的に解き明かされていく古代日本の人々の凄い技術力に驚かされましたが、なかでも個人的に面白かったのが「第2章 「前方後円墳」」で紹介されていた農業土木技術者・田久保さんの「前方後円墳」論。次のように書いてありました。
「田久保氏の主張は、「巨大前方後円墳は、墓所として、また関連する祭祀の場としての目的・機能に加え、何らかのプラス目的・機能を有する施設として築造されたのではないか」ということである。」
……巨大前方後円墳の周囲に貯めた水が、地域の水田灌漑用に使用されたのではないかという話のようです。……なるほど! とても納得してしまいました。
 と言うのも、実は私自身も「古墳」には防災機能があったのではないかという妄想を抱いていたからです。いくつかの古墳を観光したとき、古墳って平地(田んぼ)の中にあることが多いな……という印象があり、そこから、もしかして古墳の原型は、新田開発の時に掘り出した土砂の堆積だったのでは? と思いついたのです。水路をつくる・土地をならす目的で大勢の人が土を掘った時には、それをどこかに一時的に積み上げていたはずだと思いますが、平地だと大雨で川の氾濫が起こりやすく、そんなとき土砂の山は、氾濫時の「避難場所」としても役に立ったのではないかと思ったのです。それを体験した有力者が、さまざまな目的に使える「土砂の山」をいくつか意図的に残しておこうと考えて、有力者の墓にした……墓ならば崩される心配もなく山として残せますし、防災時には避難場所として役にも立って一石二鳥だったのではないかと……(笑)。一部が円形で一部が方形という形の違いは、円形の方は墓だから絶対に崩さないように(逆に言うと方形の方は土地(新田)開発中に使用しても良い)区別するための目印だったのではないかなーという妄想です(方形の方はもちろん儀式用のスペースとしても使えるし)。
 そんな妄想を抱いていたので、巨大前方後円墳の周囲に貯めた水が「ため池(農業用水)」の役割を果たしていたのでは、という仮説に大いに共感させられたのでした。
 著者の志村さんは、次のようにも書いています。
「(前略)水田稲作を得意とするクニがヤマトであり、「水田稲作集団」としてのヤマトは、圧倒的な米の生産能力をもつ最新の水田装置・システムを発明していたのである。」
「ヤマトには、朝鮮半島の戦乱を逃れて大挙して渡来した「帰化人」がいた。彼らは、中国大陸の最先端の文化・技術を携えた技術者集団であり、彼らが伝えた技術の一つが、水稲耕作と農業土木だった。(中略)
 ヤマトは徐々に水田面積を増やし、主要な食物であり、物品貨幣でもあった米を増産することによって富を蓄積して勢力を強め、クニ造りを着々と進めていった。ヤマトが列島内のクニグニに与えた「徳」は、方形部合体型円墳の周濠がもたらす米作りという富の生み出し方と、その巨大墳丘がもたらす政治的効果・信仰的効果であった。」
 ……なるほど! 巨大前方後円墳(方形部合体型円墳)は、水田開発(ヤマトのクニづくり)とセットで進められたんですね!
 この他にも「第3章 五重塔はなぜ倒れないのか」では、日本の最先端技術の粋が集められた東京スカイツリーの心柱は、法隆寺五重塔の心柱と同じような仕組みで出来ていたなどの話がとても面白かったです。
東京スカイツリーの心柱には、世界初の制振システムとして「心柱の下三分の一はツリー本体に固定され、上三分の二がツリー本体と分離していて、地震や強風で本体が揺れる際に、本体と異なる動きをして、結果的にツリー全体の揺れを抑える」仕組みが使われているそうですが、この「揺れる心柱」の仕組みは、日本の多くの木塔に採用されていたそうで、なんと宙吊りのものまであるようです。
 実は、歴史上、日本の木塔が地震で倒れたことはほぼ皆無なのだとか! 崩壊は火災によるものがほとんどだそうです。次のように書いてありました。
「約九六メートルの高さの東大寺七重塔、約八一メートルの高さの法勝寺八角九重塔が、奈良・京都の都にそびえ立っていた頃、その地域を襲ったマグニチュード六以上の地震は約二〇回に及ぶ(国立天文台編『理科年表』丸善)。それらの大規模地震によっても、古都にそびえる木塔は倒れなかった。」
 地震国・日本の古代の建築技術、恐るべしですね!
 続く「第4章 日本古来の「木材加工」技術」では、古代の技術者たちが木の性質を知り尽くし適材適所の実践を行ってきたことが、「第5章 「呼吸する」古代瓦」では、古代瓦には、雨、雪、火から家を守るだけでなく保湿・蒸発の機能まであったことが紹介されていました。さらに「第6章 法隆寺の和釘と日本刀の秘密」では、たたら製鉄では純度の高い鋼を作れることが科学的に解説されています。
 まさにタイトル通りの『古代日本の超技術〈新装改訂版〉 あっと驚く「古の匠」の智慧』でした! とても興味津々な内容満載なので、歴史や科学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 この本には姉妹編の『古代世界の超技術〈改訂新版〉』もあります。
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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古代日本の超技術〈新装改訂版〉