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第1部 本
生物・進化
鳥が人類を変えた(モス)
『鳥が人類を変えた: 世界の歴史をつくった10種類』2024/2/27
スティーヴン・モス (著), 宇丹 貴代実 (翻訳)
(感想)
人類の根元的な要素――神話、情報伝達、食べ物と家庭、絶滅、進化、農業、環境保全、政治活動、権力のおごり、気候非常事態――とかかわりを持つ10種類の鳥の物語で、内容は次の通りです。
序
第1章 ワタリガラス
第2章 ハト
第3章 シチメンチョウ
第4章 ドードー
第5章 ダーウィンフィンチ類
第6章 グアナイウ
第7章 ユキコサギ
第8章 ハクトウワシ
第9章 スズメ
第10章 コウテイペンギン
謝辞
訳者あとがき
注釈
索引
*
「訳者あとがき」に、本書の概要が書いてありましたので、ちょっと長いですが紹介します。
「(前略)第1章では、ワタリガラスが登場する聖書の物語や神話、文学作品が中心に据えられて、どこか牧歌的なのんびりした趣があります。けれども、章がすすむにつれて、第二次世界大戦中に活躍した(というより、習性を人間に利用されて活躍させられた)ハトや、人間の食用として大量飼育・大量消費されているシチメンチョウの話など、搾取の構造が浮き彫りになってきます。
そして、ダーウィンの自然選択説を体現して進化のメカニズムの解明に一役買ったダーウィンフィンチ類、糞を肥料として利用されたことで農業手法を一変させたグアナイウ、羽根飾りのために狩られすぎたことで野生生物の保護運動を促進させたユキコサギなど、まさしく“歴史を変えた”事例が語られるなかで、絶滅、大量殺戮、気候非常事態といった不穏なことばがちらつきはじめ、語りの切迫感、焦燥感が増していきます。人類がその存在を知ったあと気づいたら絶滅していたドードーの話にいたっては、わたしたち人間の愚かさや無自覚の残酷を突きつけられ、なんともやるせない気持ちにさせられて、本書は鳥をテーマにしているけれども、じつは人間の業の深さをえぐり出しているのではないか、とすら思えて来ます。
いっぽうで、野生生物を救おうと懸命に活動する人々も紹介されているわけで、人間と鳥、ひいては自然界とのかかわりは、一面的には語れないのだと、あらためて痛感させられもします。」
……まさしく、この通りの内容で、知らなかった事実がたくさん書いてあって、とても興味津々でした。
なかでも一番興味津々だったのが「第2章 ハト」。ハトというと平和のシンボルとか、公園での「餌やり禁止」しか思いつかない感じでしたが(笑)、なんと戦争で大活躍させられていたのだとか……(涙)。ハトには「数百キロ、ときには数千キロも離れた場所から帰巣できる能力」があり、メッセンジャーとして使われた最初の明確な記録は、なんと紀元前2900年頃のエジプト(賓客の到着を前もって知らせるため船から放たれた)だそうです!
ハトは通信(とりわけ戦時中の通信)に使われることも多かったようです。
「(前略)ハンニバルからチンギス・ハーンにいたるまで人間の戦いの歴史を通じて、ハトは伝令として使われてきたし、十字軍は巧妙にも敵方に偽の情報を送るためにハトを利用した。」
第一次、第二次世界大戦では、ハトは、猛烈な逆風のなか秘密通信を抱えて何百キロも飛び、帰巣したそうです(感動的な話がいくつもありました)。
しかもなんと21世紀でもハトは現役なのだとか……
「(前略)ハトは昼夜を問わず高速で飛べるし、比較的短時間で特定地点に戻る経路を見つけられる。探知されるものを身につけていないのでほかのハトと見分けにくく、無線通信のようにたやすく傍受されない。また、人間の伝令とちがって、敵に尋問されることも、二重スパイとして雇い主を裏切ることもない。」
「(前略)大容量マイクロSDメモリーカードを用いれば、一羽のハトが――大半のドローン技術とはちがって――従来の監視システムに探知されずに、動画、音声、静止画の大きなファイルをたやすく長距離伝達できるのだ。」
*
また驚かされたのが「第3章 シチメンチョウ」。アメリカ人は、シチメンチョウに多大な恩恵を受けているようです。次のように書いてありました。
・「毎年、推定二億五〇〇〇万羽から三億羽のシチメンチョウがアメリカ人に消費されている。」
・「結局のところ、数が多くて、開拓者たるピルグリムがたやすく手に入れられる野生のシチメンチョウの肉がなければ、ヨーロッパ人が生き延びて北アメリカを植民地化することはとうていできなかったはずだ。したがって、シチメンチョウがいなかったら、世界の歴史は大きく異なっていただろう。」
……今やシチメンチョウは、次のような「作られ方」をしているようです(涙)。
「(前略)最近の遺伝子操作技術によって、シチメンチョウは自然にまかせるよりはるかに速く成長できるようになった。(中略)現代の飼育下のシチメンチョウは途方もなく(率直に言うなら不釣り合いに)重く大きいせいで、飛ぶことはおろか、歩くこともままならない。さまざまな病気にかかりやすく、大量の抗生物質を与えられている。また、肥満体ゆえに、次世代の雛をもうけるには、注射器を用いて人工授精をしなくてはならない。
せめてもの救いと言うべきか、家畜化されたシチメンチョウは寿命が短い。たいていは孵化後三、四カ月で命を絶たれる。」
……たった三、四カ月で、自力で歩けないほど大きく重く育つシチメンチョウ……なんだか怖いです……。
同じように食料として、肥料の材料として、衣類の飾りとして搾取され、絶滅に瀕してしまう鳥たち(ドードー、グアナイウ、ユキコサギ)や、一人の政治家の号令で撲滅されたスズメなど、人間に翻弄される鳥たちの話や、地球温暖化の影響で絶滅に瀕しているコウテイペンギンの話には、私たち人間が、今後どう行動していくべきかを、深く考えさせられました……。
『鳥が人類を変えた: 世界の歴史をつくった10種類』……世界の歴史に影響を与えてきた10種類の鳥のことを知ることができる本で、とても参考になりました。進化論で有名な「第5章 ダーウィンフィンチ類」では、ダーウィンが説(進化論)を発展させたのは、実はハトとマネシツグミ科の鳥で、ダーウィンフィンチではなかったなどの意外な事実も知ることが出来ます。生物や歴史が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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『鳥が人類を変えた』