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第1部 本

脳&心理&人工知能

AIに勝つ数学脳(ムビーン)

『AIに勝つ数学脳』2024/2/21
ジュネイド・ムビーン (著), Junaid Mubeen (著), 水谷 淳 (翻訳)


(感想)
 人間が生来備えている概算・直観・推論といった「数学的知性」を、AIの計算能力と組み合わせれば、デジタル時代における新たな知の地平を拓くことができることを教えてくれる本です。
「はしがき 数学的知性の正体」によると、数学的知性の7つの原則は次の通りだそうです。まず「われわれの「考え方」に関する5つの原則は……
1)概算
2)表現
3)推論
4)想像
5)問題
そして自分の思考を操る方法と、他人とともに考える方法に関する原則としては……
6)中庸
7)協力
 ……があります。
 最初は「第1章 概算」。私たち人間は、数に関して次の2つの認知システムを持っているそうです。
1)小さな量に対して用いられる「正確な」数感覚
2)概算的な数感覚(大きな量では当て推量)
 ……人間は計算の際に頼りになる直感を与えてくれる「概算」が得意なのです。
「(前略)数に対する我々の認識は生まれつき不完全だが、それをコンピュータの出力と組み合わせることで、この世界をより良く理解することができるのだ。」
 ……確かに、そうですね。
 続いて「第2章 表現」。……え?「表現」が数学的知性?……ちょっと戸惑ってしまいましたが、次のように書いてありました。
「(前略)我々がこの世界を渡り歩くときには、自分の思考や行動を、抽象度の異なるいくつもの層に階層的に整理する。一つ一つの細部をある程度の大きさの概念にまとめ、それらの概念をさらに組み合わせることによって、高いレベルで物事を理解するのだ。
 断片的な情報をつなぎ合わせて意味のあるまとまりにするには、強力な表現が必要となる。」
……表現法を切り替えて、複数の視点を一つの根本的な知識体系にまとめ上げる能力は、人間の持つ汎用的な形の知性に基づいているそうです。次のようにも書いてありました。
・「すでに人間は並外れて融通の利く思考力を持っている。表現法が非常に多岐にわたるため、一つの場面で学んだ事柄を幅広い状況に当てはめることができる。一つ一つの状況に応じて別々の脳を発達させる余裕はないからだ。(中略)
 複数の表現法を使えるのは、脳がまったく異なる思考モードに切り替える能力を持っているおかげだ。人間は類推に頼りきることで、観念どうしを関連づける。どこかですでに似たような問題を解いているのであれば、再び一から取り組む必要はないはずだ。」
・「(前略)知識を表現する上では多元的な姿勢を持つべきだということである。たった一つの表現法にしがみつくのではなく、さまざまな表現法のひとつひとつを、理解に至るための道筋、同じ概念を見つめるための別個のレンズとして考えてみるべきだ。」
   *
 そして「第3章 推論」では、機械がまだ起こったことのない出来事を予測するようにはできていないのに対し、我々人間は、無関係な事柄どうしのあいだにある程度の関係性や意味を読み取ってしまう傾向があることが書いてありました。
「物語を語る能力は、人間が進化によって新たに獲得したものである。我々が物語を作ることを身につけたのは、原因と結果を結びつけて、未来の出来事を予測するためだ。」
 また「第4章 想像」では……
「(前略)どんな制約条件が与えられたとしても、コンピュータは必ずその制約条件の範囲内で動作する。それに対して人間は、そのような制約条件を破ることで生まれてくる可能性に惹きつけられる。反抗的な本能はときにもっとも創造的になる。既存の世界観から派生したものではなく、まったく新しい世界観、あるいは新しい世界を生みだすのだ。」
 ……「虚数」のような考え方を作り出せるのも、人間だけなのかもしれません。
「(前略)創造性は不連続性から生まれるものである。パラドックスについて深く考えて、既存の考え方に風穴を開けることから生まれるものだ。論理的な気質と破壊的な心的態度を組み合わせ、矛盾を見つけだしてそれを解決したときに、人は新たな考えを生み出すのだ。」
 ……人間の想像力って、やっぱり凄いですね☆
続く「第5章 問題」では、コンピュータが問題を考えつくことはできない一方で、人間は生まれつき尽きることのない知識欲(知的好奇心)を持っていて、問題を考え出せることが書いてありました。
 またコンピュータは問題を考えつくことはできなくても、どんどん複雑になっていく問題を把握するための手助けにはなってくれるとも言っています。
「(前略)絶対的に重要なのは、この分野はこう発展するしかないというような決定論的な考えをきっぱりとはねつけた上で、人間には行動力があって、それらのテクノロジーの設計や実装の方向性を決めるパワーがあることを認識することである。」
   *
 そして「第6章 中庸」……この「中庸」もちょっと分かりにくい感じでしたが、「問題を解くスピードばかり重視していると、創造的で有用な答えにはたどり着けない。ときには意識的な思考をオフにして、無意識というものに身を委ねることが大事」という意味のようです。
 最後の「第7章 協力」では、「集団」はときには暴走することもありますが、「集合知」としてうまく働くことが多いことが書いてありました。
「(前略)不均質な集団はおのおのの相異なる見方を組み合わせて、精神的視野を押し広げることができる。」
「(前略)個々のモデルがある程度の不確実性を帯びていても、アンサンブルモデルはそれらより優れた性能を発揮することが多い。アンサンブルによって各モデルの優れた要素が抜き出され、もっとむらのある要素は打ち消し合う。」
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『AIに勝つ数学脳』……AIを「使う側」に立つための思考法としての「数学的知性」の全体像について解説してくれる本で、とても参考になりました。人間の脳の特性や、AIとのつき合い方に関心のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『AIに勝つ数学脳』